第100話 指名依頼2、一心同体!
とうとう100話まで来てしまいました。今後ともよろしくお願いします。
いつもながら、誤字報告ありがとうございます。
冒険者ギルドから指名依頼を受けた俺は、華ちゃんを連れて再度窓口に向かい、掲示板に貼られた俺への指名依頼の通知書を先程のベテラン受付嬢に差し出した。
「ゼンジロウさん?」
「はい」
「冒険者証を確認させてください」
俺はアイテムボックスの中に入れていたBランクのギルド証を取り出して窓口に差し出した。
「確認しました。
ゼンジロウさんへの依頼の内容ですが、バレンダンジョンの第2層におけるケイブ・ウルフの討伐です。期限は設けませんが、ケイブ・ウルフ1匹につき、金貨5枚が加算されます。また5匹討伐することにより、ランクが現在のBランクからAランクに昇格します。Bランクの冒険者にとって金貨5枚はそれほどの金額ではないでしょうが、低ランク冒険者のために指名依頼の受注をお願いします」
「なるほど、さきほど登録したばかりのこの娘も一緒に行動しますが、この娘のランクも上がるんですよね」
「Fランクから一度にAランクに上げることはできませんので、Bランクまでとなります。すでに複数の低ランク冒険者がケイブ・ウルフにより犠牲になっていますので、よろしくお願いします」と、ベテラン受付嬢に頭を下げられてしまった。
ここで、一肌脱がないようでは男がすたると思ったわけではないので、わが方の主力におうかがいいを立ててからと思い華ちゃんの意向を聞いてみた。
「華ちゃん、この仕事どう思う?」
「岩永さんが受けたいなら、受けましょう」
華ちゃんからゴーサインをいただいたので、
「了解しました」と、受付嬢に了承した旨伝えておいた。
「ありがとうございます。ご存知だと思いますが、現在2つのパーティーがギルドの指名依頼を受けてケイブ・ウルフの討伐に当たっています」
初めて知ったよ。
妙な連中にカチ合いたくはないが、そうそうカチ合うこともないだろう。もしカチ合ったら先輩諸氏に譲る方が賢明だろうな。
「そうだ。
わたしたちは、ここのダンジョンは初めてなので、第2層までの地図のようなものはありませんか?」
「地図はありませんが、最初の広間に入り、正面に見える洞窟を道なりに進んでいけば1キロほどで第2層への階段が見えてくると思います。途中枝道は何本もありますが、本道と見間違えることはまずありませんし、他の冒険者も往来していますので迷うことはないでしょう」
ここのダンジョンも親切設計のようだ。俺たちの場合、迷ってしまえば振出しに戻るだけなので大したことではないが迷いたいわけではないからな。
「了解しました。ちなみに、その階段までに罠などはないですよね?」
「第1階層から第3階層までの主要な通路の罠は全て無効化されています」
「分かりました、それじゃあこれからいってきます」
「お気をつけて。よろしくお願いします。
そうそう、これからもお二人で冒険者として活動なさるようでしたら、今後指名依頼はパーティー名で行われますので、名まえを考えておいてください。
パーティー名が決まりましたらお知らせください」
「分かりました」
パーティー名か。
以前読んだweb小説でパーティー人数が3人だからという理由で『3人団』などとふざけた名前を付けてたパーティーがあったが、それでいくと俺たちのパーティー名は『2人団』。それでは語呂が悪いので『パーティー二人』かもしれんな。
「華ちゃん、何かいいパーティー名はあるかな?」
「岩永さんにお任せします」
丸投げされてしまった。デフォルトとして『パーティー二人』があるから、少しは気が楽だが、こういうのって地味に面倒なんだよな。
冒険者ギルドを出た俺たちは、冒険者たちが行き来する通りから外れたわき道に入り、俺は如意棒を用意して、そこから華ちゃんを連れてダンジョンの最初の大広間に跳んだ。
俺たちが現れたダンジョンの中の大広間には、それなりの数の冒険者たちがいたが、俺たちが急に現れたことに注目しているような冒険者はざっと見いないようだった。
他の冒険者の後について歩くような形で、出口の黒い鏡を背にして正面に空いた洞窟の中に俺たちは入っていった。洞窟の中は左側通行らしく、俺たちは前を歩く冒険者に倣って左側を歩いていった。右側にはリュックを膨らませた冒険者が出口に向かって歩いてくる。あまり膨らんでいない割にかなり重そうなリュックを抱えている冒険者は何か重い物、金ではないだろうが、何かの鉱石を運んでいるのかもしれない。
一列で歩いていくので、今回は華ちゃんが前で、俺が数歩遅れで歩いていった。
「外の通りにもたくさん冒険者がいましたが、本当にたくさん人が入っているんですね」と、華ちゃんが前を向いたままで俺に話しかけてきた。
「南のダンジョンには俺たち以外人っ子一人いなかったから、ギャップはすごいな。
他の冒険者たちは生活がかかっているわけだから、邪魔しないようにしないとな」
「そうですね」
1キロほど歩けば階段があるという話だったが、出口に向かう冒険者たちのリュックの膨らみから考えて、第2層に下りる階段は300段はないだろう。いや、絶対にない。
話すことも無くなり、歩く以外特に何もすることがなかったので、俺はパーティー名を考えることにした。
パーティー名を考え始めて10分ほど歩いていたら、前方に少し広くなった行き止まりの空洞があり、その空洞の真ん中あたりに階段があるようだ。結局階段に着くまでにいいパーティー名を思いつけなかった。
階段から離れた場所で、数名の冒険者が膨らんだリュックを下ろして、腰を下ろしていた。
階段の上りで疲れたのだろう。あれだけの荷物を背負って階段を上れば、たとえ50段でも休みたくなる。ハズだ。
「下りようか」
「はい。300段もなければいいですね」
俺と華ちゃんの思いは同じのようだった。
そうだ! 閃いた!
俺たちのパーティー名は心を一つに『一心同体』だ!
第2階層への階段を下りながら、前を歩く華ちゃんに今思いついたパーティー名を告げた。
「華ちゃん、俺たちのパーティー名だが、いい名まえを思いついたぞ」
「どんな名まえですか?」
「華ちゃんもきっと満足するいい名まえだ。その名も『一心同体』だ!」
俺の最後の『だ!』で華ちゃんが階段を踏み外しそうになった。
「華ちゃん、階段は気を付けて下りろよ。下りは危ないからな」と、注意しておいた。
「えーと、岩永さん、これから冒険者ギルドがらみで何かあるごとに『一心同体の』という接頭辞が付くんじゃ?」
「そうかもな。どうだ、なかなかいい名まえだろう?」
「……」
華ちゃんから返事がなかった。俺の言葉が聞こえていなかったようなので、もう一度念を押して、
「『一心同体』。なかなかいい名まえだろう?」
「ほんとにその名まえにするんですか?」
あれっ? 華ちゃんは『一心同体』が気に入らないのか? まさかそんなことはないよな。
「そのつもりだよ」
「そ、そうですか」
『ここは日本じゃないし、知っている人もいないし。でも、……、もしかして何かのはずみで知ってる人に出会ったら? いえいえ、そんなことは絶対にない。ないはずよね?
今となってはこのペアルックに見える装備が恨めしい。……』
華ちゃんの独り言が聞こえてきたような気がしたのだが、空耳に違いない。俺も疲れているようだ。




