雨のち晴れの成人式
某イラストサイトで6月「雨」がテーマの時、書き下ろしたら長さが足りず、代わりに古いのをほじくり出して投稿してみたやつです(そっちの場所は削除済)。
元々コンテスト用ではないのでどちらかというと「秋雨」です。
後書きに当時コンテスト用に書いて字足らずで投稿しなかった方もついでに載せておきましたがこれでは「詩」ですね。どのみち箸にも棒にも…ってやつでして。二次創作の場と住み分けついでにボツ供養。
あれは ひどく雨の降った秋の休日。
「えーめんどくさいー気乗りしなーい。」
「全くもう…アンタは…こんだけ振袖あるっていうのに。」
「母さんが勿体無がってるだけでしょ。会いたくないやつもいるし成人式行くのやめようかな。自分がヒマな主婦だからって構ってないでもう放っといてよ。スーツでもいいし?」
下の娘は着物レンタルのDMを封も開けず捨てる派。
こうなると説得は諦めるしかない。
上の子に比べて下の子はのびのびというか、行き当たりばったり気分屋なところがある。
後で気が変わられても大変なのよねぇ。
お姉ちゃんの時はアレはアレでこだわりが大変だったわ。
今うちの桐箪笥には。実家の私の振袖、義母から譲られた振袖、お姉ちゃんの時新たに仕立てた振袖、──そして沢山の小物類が。
「下の子の成人式までは」と人に譲らず、保存に神経を尖らせながら綺麗な状態でとってあった。昔とった杵柄もナントやら。
でもこのままだとお姉ちゃんの以外、処分するしかないかしら?お姉ちゃんのはお嫁に行く時持ってってもらうとして…。
開いたままの桐箪笥に視線を落とした。しばし子育ての感慨に浸る。
「お母さん大変、雨漏りしてる!」
上の子の声で正気に還る。
声のする階下に行くと床がびしょ濡れで、特に窓側がひどく。
悪天候の最中窓を閉め忘れたかのよう。
「あー…雨どいが落ち葉かなんかで多分詰まってるのね。サッシのゴムも替えなくちゃ。
ここ数年サボってたから…。」
「何言ってるの?これ天井からじゃないの?上からポタポタしてるじゃん!」
下の子のがバカにしたように言うが、この家の作りのことは家の誰よりも私が知っている。
「雨どいが詰まると家の壁伝って中に水が入りやすくなるのよ。最近母さん脚立登ってなかったから…こんな大雨久しぶりだし、大雨というかもう嵐じゃないこれ母さんもビックリだわー…あららーたいへーん。」
「呑気そうに言わないでよどうすればいいのコレェ…父さん仕事でいないし…。」
頼みの人は悪天候で今日中に帰って来れないことが確定したらしい。
ぎっくり腰をしてから、父さんに庭の手入れは任せてあまり高所作業はしていない。庭木を切るついでに、雨どいを覗いて詰まった落ち葉や泥を取り除く。昔は当たり前だったのに父さんに伝えてなかったかしら?そうそう、小さい頃は終わった後の落ち葉拾い、子供達も手伝ってくれたっけ…。
「仕方ない、悪天候ですが雨どい掃除やりますか。」
「何言ってんの母さん!危ないよ!」
上の子が言う。続けて
「そうよ!私やるから!教えて!」
あら、下の子の手のひら返しがちょっと嬉しいわ。
でも説明が難しいわねぇ。やってみせるしか。
上の子に階下の床拭きをお願いし、下の子を連れて2階に上がる。
「ちょっと泥で汚れるけど、こんな時は別の方法があんのよ。」
私一人ベランダに出て「えーと、確か、この管を…」
「母さん危ないよ!」
身を乗り出すと腰下を支えられる。
そのまま管をひねって外すと関節部分には…わーぎっしり。
詰まった落ち葉や枝を下からチョイチョイと引くと簡単にドドドって落ちてきた。あとは管を元通りに繋げれば、大雨の水圧で自然と細かいものは下に押し流され…はい、掃除終わり。
反対側の管も同じことをして泥だらけの作業は終了した。下の子が
「ちょっと外見てくるッ!」
と、落ち葉など一気に押し流された先が気になるのか、興奮気味に玄関の外に行ってしまった。
子供っぽさは変わらない。
こんな雨の中無防備なアンタの方がよっぽど危なっかしいわよ。
その間も階下を掃除してくれていた上の子に「ありがとう」を言って、天井の様子を見て。汚れた上の服だけ着替えて、と。さて。
段々と天井のポタポタが止んできたことで、読みが外れていなかったことにひと安心した。
「古い家だから仕方ないけど、大事に使えば結構もって…」
「そんなことより母さん、あの子どこまで行っちゃったのよ?帰ってこないじゃない。」
あらそういえばホント…と気になり出していたら
「お姉ちゃん母さん大変!避難勧告だって!逃げよう!」
下の子がびしょ濡れで息急き切って玄関に立っていた。近所の同級生の男の子に久々会って情報交換したようだ。その子はこっちの地区まで様子見にきて、ズブ濡れでなんかしてる娘に驚いて声かけてきたらしい。うちの子が心配かけてごめんなさい。
「立木が避難所の手伝い行くって言うから、私も行ってくる!先行くね!」
立木…商工会会長の息子さんね。青年会も入ってるだろうからボランティア駆り出されてるのね…なんて思ってると娘は既に素早く濡れた服を脱いで着替え上下ともカッパ重装備に仕上がってた。
本人曰く「ダサいから」という理由で買うこともなかった丈のある長靴も「借りてくね!」と私のを持ってかれてしまった。まあ…私はいざとなれば父さんのもあるからいいんだけど。
上の子もその様子にあっけに取られ「母さんどうしよう」と不安そう。
「とりあえず、電気まだ大丈夫そうだからパソコン…アンタはTVつけてケーブルの。」
情報を集めなきゃ。ローカル番組をつけると避難勧告の町名がL字で表示されて…。
あら?市報HPにもこの町名の避難勧告ないみたい。勧告区域はええと、河川敷一帯ね。
念のため川の水位の定点観測、これからの天気予想、ついでに世界の雲の流れ…。
雨音はひどいけれど、風は段々弱まって家の軋みはもう無い。スマホの警告も、鳴らない。
河川敷の人だけで避難所も混雑しているであろうと上の子と状況分析し自宅待機を決め込んだら、上の子のスマホが鳴り電話の向こうから
「なんでコッチ来ないのよ!!!」と、泣きそうな下の子の怒鳴り声が響いた。
冷静に上の子が事情を説明し、下の子も一応納得はしたようで。結局、下の子だけ避難所で一晩ボランティアとして留まることになった。夜になり雨足は段々、弱くなっていく。
「なんか…あの子の方が嵐みたいだよね」夕飯を用意しながら上の子が笑う。
「静かよね…たまにはいいんじゃない?」
就職したてで毎日忙しい上の子とこうやってのんびり過ごすのも久々かもしれない。
下の子の振袖の話もふり、「あの子そんなこと言ってんの?せっかく母さんいるのにもったいない」と上の子が言うから「そうねぇ」と、笑って。一緒の部屋で就寝した。
翌日、晴れ上がった空の下、元気な笑顔で下の子は帰ってきた。
同級生と避難所ボランティアを経験しなんだか思うところがあったようで、疲れも見せずその夜お姉ちゃんに話を聞いてもらっていたようだ。
上の子が言うには、どうやら立木くんがあの子の「やる気スイッチ」だったそう。
中学の時何やらあったらしく、成人式で会いたいような会いたくないような…複雑な気持ち。
甘酸っぱい理由だけどわかるわぁ。ボランティアでわだかまり解けて、そっちは解決したんですって。
ただ振袖は「だって着物あっても美容院行って写真撮るだけでもお金かかるじゃん!アタシお姉ちゃんみたいに親に無駄遣いさせたくないしっ」とDMも見ないようにしてたんだそうな。なんてこと。
「…なら、お金一銭もかからないなきゃいいのね。アンタ私と母さんなめすぎ。」
あらあら、普段オットリ系お姉ちゃんがキレた。本気スイッチ入っちゃったわね。別にいいけど。私の練習にも付き合ってくれるつもりなら。
成人式当日。迎えた下の子はいまだに狐につままれたような顔をしている。
お姉ちゃんの気合い入ったヘアメイクと化粧。私は着付け担当。
写真係はお父さん。
着物は私のをベースに、お姉ちゃんの現代風小物も取り入れて。
急拵えには見えない出来ばえ。
父さんが満足げに写真を撮り、本人も「笑って」といわれ素直にピースしてみたり。
玄関の姿見の前で「これ私?ウッソお嬢様じゃん」と呟いてみたり。
「共同作品」のクオリティにお姉ちゃんと2人コッソリサムズアップ。うふふ楽しい。
「お母さん大変になるのわかってるから言いふらさなかったけど、私の時も大変だったよね。結局ヘアメイクで時間押しの子の分まで着付け手伝ったり…。」
「だってせっかくの日なんだから遅刻せず笑って過ごしてほしいじゃなぁい?」
当時ヘアは姉ちゃんのこだわりでプロにお願いしたけれど、支度待ってる時間に昔の知り合いに手を貸して、上の子もその場で私自ら着付けたのよね。ブランクあってやや納得いかない点もあったから、今回下の子で複雑な帯結びにチャレンジできてよかったわ。
ホント、成人までに親が出来ることって数少ないのよねぇ。いい記念。
お姉ちゃんが運転してくれるって言うし、私が手を貸すのはここまで。
夫婦揃って玄関でお見送り。車で姉妹喧嘩してないといいけど。
「…お母さんひっぱりだこで色々引き受けすぎなのよ昔から。家にいるようになってくれて、私は嬉しかったんだから。」
「知ってたらアタシだって…なんで教えてくれないのよ!」
「私の成人式ん時朝早くてアンタまだ寝てたし?アンタが普段母さんの話聞かないからじゃない?二十歳になったんだからもう少し大人になりなさいよ。」
「うー…感謝、してますぅ…。」
「母さんも言うのよ、あとで、ちゃんと。」
「母さんがなんでも先回りしちゃうんじゃん!だからお礼言う前につい反発しちゃうの!」
「母さんアンタに甘すぎ。困る前に解決しちゃってるというか。母さんの『あらあら大変』が『大変』に見えないというか…。」
「でしょでしょ?アタシだって、何かの役に立ちたいのに…。」
「アンタ母さんの代わり出来る?水道の蛇口壊れても『あらあらたいへーん』って呑気に言いながら元栓閉めて謎の仮補修しつつ部品取り寄せていつの間にか元通り。私らの自転車だってパンクすぐ直してて。父さんが『髪切って』って言えば『仕方ないわねぇ』ってアレ職場の人誰もおうち床屋って気づかないレベル。冬の夜ヒーター壊れて寒くて『断線かしら?』ってハンダ付で直して『あーこの程度で済んでよかったわぁ』って。こないだも網戸と障子貼り替えてコロ交換してた。」
「着物の着付けもできるとか…大人になったら主婦なんて誰でもなれるたいしたコトないフツーだと思ってたのに…まだまだ秘密の謎仕様が出てくる…。」
「日々のアイロンがけやボタン付けすらアンタ気に留めてもいなかったよね?私は気づいていたし感謝してるしもう自分でやらなきゃって思うけど?」
「反省する…反省するけど…あの人どっかオカシイ…魔法使い?」
「中身猫型ロボットなんじゃない?便利すぎだからっていつまでも甘えてるんじゃないわよ。」
車で会場まで送って行ったお姉ちゃんからみて晴れやかな笑顔で同級生に合流していったんですって。立木くんにも褒められご満悦で。
そうそう、結局そのまま彼主催の同窓会に参加したんだそう。
長丁場で着崩れ心配してたら無事な様子で夜遅くに帰ってきたけれど。
お姉ちゃんがコッソリ見せてくれたスマホの送信写真。
…立木くんとのツーショットの、距離の近さ。
そして帰ってきた時の私のやり方とは違う、襦袢の腰紐の結び目。誰か知らないけれど、飾り帯も再現出来ない着付け師さんのようね。ふふ…ふ。
どこで着付けし直してもらったのかしら?これで誤魔化そうなんて親としては舐められたもんねぇ…あなた達。このシミ抜き知り合いの悉皆屋さんに頼むの恥ずかしいわぁ。こんな扱い、お姉ちゃんの着物だったら怒髪天ものよ。お姉ちゃんが。
…責任とってあちらにこの物証ごと引き取ってもらおうかしら?
でも立木さんとこのお嫁さん候補とか、またご近所付き合いが大変になりそうだわ。
本人達の成長を期待したいところだけど。
もう子供のお世話は卒業だったはずなのにねぇ…。
PTA会長だったあのおうちの仕切りじゃ勝手知られたる私も巻き込まれそうで、これから、ホントのホントに大変かもしれないわぁ。
やーねぇ。
欄外に「だからどうした?」という感じの構想メモや設定注釈、削った文章などをつらつら載せる癖がありますが、基本「設定は一切無視しても話が通じて気楽に読める内容にしたい」といつも思っています。
覚え書として欄外はネタバらし要素もあるかもしれませんので、欄外読み飛ばし推奨です。もしも読み返す機会があるようでしたら舞台裏や書き手の脳内妄想の参照をお好みで。
<例>
その昔一瞬出オチの「うちののび娘がジャイ○ン家に嫁していきそうな話」と題そうとして色々アウトだなと思い、踏みとどまったやつでした。
当時投稿用に書き下ろした落書き(Windows8.1+CLIPSTUDIO)
肌襦袢でなく長襦袢だから健全セーフだろとか言いながら当時描いてた
当時二次創作で描いたつもりは全くないものの、自然某アニメキャラに似る手癖が抜けてないのはどうかご容赦を
※「襦袢=下着」に至るまで腰紐の結び目が変わっているということ。着付け師さんはコトより先に帯の写真を撮ってあればそれを参考に飾り結びも再現してくれるそうですが、見た目同じでも帯の潜らせ方は千差万別のようで着付けた本人にはどこからどこまで他人が手直し(全部)したか癖でわかってしまうそうで。
長襦袢のシミをみてため息をつく母に何かを思った姉が後日妹にコ○ドーム放り投げます。「イキオイ ダメ 絶対」と箱にマジックで書かれてありました。
妹さん「そりゃアタシも悪かったけど…もうやだこの家族‥っ!」
何も知らぬお父さんはさすがに蚊帳の外。
お姉さんはレイヤーさんでお化粧得意。裁縫やパソコンなどもお母さんに教わりましたがそっち方面の技術はもう母を越えるレベル。フォトショを駆使して妹にデータを提出させ(立木くんとのも)世界にひとつしかない成人式アルバムを作ってくれます。友人の結婚アルバムや動画作りなども引き受けているようです。(ストーカーシリーズ「千佳」の幼馴染B)
あくまで自分のレイヤー写真集作りのついで…です。猫型ロボット2号かと。
曰く「母さんの道具箱は4次元ポケット。私なんかマダマダ。」
──以下、実際に投稿しようとして長さも足りなかった文
「透明な私を、見つけて。」
雨が降ってる
公園をあるく
どうしてもやってみたいと思ったの
いけないことのような気はしてたけど
ここならいいかなっとかさをおく くさの上
ランドセルはその下
顔に雨があたってほおがくすぐったい
くるり くるり くるくるりん
まわる まわる
髪がぺとん
服もぺとん
心もぺとん
気づいたら髪も服もくっついてるの
わたしにぺとん
これ ちょっといやな感覚
くるくるで 長靴もドロだらけ
ああ 大好きだったのに
かさのことを思い出して
バッともちあげる
その下の何かをさがして
なにか生き物いればあたりだったのに
カエルさんとか
小人さんとか
雨のむこうにぼんやりとお母さんが見えた
たぶん「心配かけて!」って怒られる
ちょっと雨さんの気持ちになってみたかった
雨さんの仲間になって わたしも透明ななにかになって
そしたら クラスの人も喜ぶんじゃない?って
透明なら みえないもの
その日お母さんはなんでかやさしかった
なんでかおこんなかった
だからもう雨さんになろうとは思わない
なれないの、わかったし
わたし まだ人だもの
誰になんといわれようと ひとだもの