6 決戦
がん治療のすべてが終了して母が仕事に復帰できて、闘病前の状態に近くなる位の体力を回復してきた頃に、新型コロナウイルスという未知のウイルス発生で、世間は混乱し始めた。
基礎疾患がある人にとっては殺人ウイルスとも言えるウイルスだという報道を見て私たち家族は恐怖を感じた。その基礎疾患の中に【がん罹患者】という文字を見つけてしまったから。
それから買い物は私と、父の役割りになった。母はとても不満気だった。
「お母さんお得意のAmazonがあるじゃん。」
「やっと普通に外に出られる様になったのに? 見て、手に取って、買うかどうするか選択するのが楽しいのに?」
「もー我慢してよ。会社に行くお母さんは感染予防を徹底してくれなきゃだし、私たちも外からウイルスを家に持ち込まないように、もっとみんなで気を付けなきゃいけないいんだからわかってよ。」
「ちぇっ Amazonで無駄使いしまくってやるーーー!」
子供か・・・
不要不急の外出をずっと控えていたので、緊急事態宣言が解除された時に貸切風呂のある温泉へ日帰りでいいから行きたい!と言い出した母。父も必要な買い物以外の外出を我慢していたからその企画を止めもせず嫌がることなく楽しそうに乗り気になっている。
貸切風呂に家族みんなで入るって歳じゃないし、それにお父さんもゆっくり入りたいだろうに娘と一緒の貸切風呂じゃ嫌でしょうから夫婦二人で行ってきてよ。と私たち姉妹は参加するのを断った。
そしてその日が来たのだ。日記?を撮影するチャンス到来だ!
「行ってくるね~」
私は部屋から顔も出さず「はーい気を付けてね~」と、いつもと変わらない応対で返事をした。
母の恐ろしいくらいの勘の鋭さは姉から聞いたし、父は色んな物の片付ける場所に無頓着で、あったであろうと思う場所に片付けていく。大きく場所が変わっていても母は文句とか言わないで、しれっとさり気なくいつも置いてある場所に戻している。記憶力がものをいう行動を観察して理解していたから、絶対に日記?の盗み読みを気取られてはいけないのだ。
姉は母の乳がんがわかる前に入籍して巣立っていったし、妹は学生なので休日のみのバイトをやっと再開してもらえたから数時間後には出発する。そしたら決行だ!決戦だ!うぅぅぅっ武者震いしちゃう!
妹が出勤したのを確認して両親の寝室へ向かった。母の本棚がある。前に見た時とは本の並びが変わっているのかな? はぁー、しっかりと覚えてはいないけど微妙に変わっているんだなぁ。
ライフノーブルノートを探す。あった!上段の真ん中の目に入りやすい場所に最近使っているテキストであろう一団の中に立ててある。隠すつもりがないのか、ここまで堂々と置いてあると怪しむ要素がないから巧妙に隠しているのだろうか?
まず、ノートが立ててある場所を撮影する。ノートを戻す時に、寸分の狂いもなく再現できるように。
そこからは淡々と作業しようとしたのだけど、全ページを撮影して母が書いた全てを読んで、気付かれないように動揺しないようにするんだ!という心の準備がしっかりとできていない自分がいる。
最初に読んでしまったページの次から数ページ撮影していったら、一段落したように何も書いていない1ページがある。ここで一区切りなんだろうな、とわかったのでそのページまでを撮影してノートを本棚へ戻した。
撮影した場所と照らし合わせて、隣のテキストとのくっつき具合なども確認した。よし!元通りになってる。これでこの本棚を触ったってわからないよね。