5 育て方
私たち姉妹は仲が良い。両親の育て方のお陰なのかな?お互いを比べたりすることがなく、隔たりなく色んな事を相談できる。そうなれたのは妹の事故で、母から妹に掛けられた言葉を妹から聞いた時に、姉も母からの言葉を教えてくれて、私も母からもらった大切な言葉を明かしあったからだ。
妹が小学一年生の時に自動車事故に遭い、救急車で搬送されて、緊急手術となってICUに二日間と、それから普通の病室に一日だけの入院で、その翌日には退院して自分で歩いて元気に家に入ってきた。頭にガーゼが当てられているのだけど、髪があるからテープは最小限でネットを被せられていた。顔には細かな傷があるくらいだったけど、顔が全体的に腫れている。
母は妹の入院中はずっと付きっきりで病院に泊まり込みだったから、ちょっとお疲れ気味な感じで帰ってきた。
事故のいきさつは、信号が青に変わった瞬間に道路に飛び出したらしく、赤になったのに停まらず突っ込んできた車に跳ね飛ばされた。頭部を強打して大きな裂傷ができてかなりの出血をしていたので、傷口を洗浄して縫合手術があって、何針も縫ったし、頭部だから頭蓋内の血管に小さな出血がおこって血腫ができたりしていたら、数日間で症状が出るやもしれないので、ICUで経過観察して問題がなかったので普通の病室へ移動させてもらえて、元気だから退院させてもらえたのよ。と母が経過を話してくれた。
その夜、久しぶりに三姉妹で和室にそろって寝ることにして、布団に入りながら、本当に心配してたんだよ。元気で帰ってきて本当に良かった。と話していたら救急車で病院に着いて、母が会社から病院に駆け付けた時のことを妹が自慢気に話し始めた。
「お母さんがね、あなたは末っ子だから一番可愛いの。居なくなったりしたらどんなに悲しいかわからないから、元気になってね。これはお姉ちゃん達には絶対に内緒よ。って言ってくれたから、すごく痛かったし怖かったけど、嬉しくてがんばれたの。」
「えっ お母さんそんな事言ったの?」
「うん♪」
「そっか、末っ子だからお姉ちゃん達もあなたがすごく可愛いの。だから元気で帰ってきてくれて嬉しいから。今日はもう早く寝てもっと元気になるんだよ。」
「はーい。」
妹が寝てから、姉が話し始めた。
数か月前に、妹とはひと回り歳が離れた姉は家出を企てていたらしく、3連休の時に専門学校で合宿があるから数日間の外泊をするからと、両親に承諾を得ていた。
それは、家出の前準備だったらしく、専門学校も辞めて、京都に引っ越しをして友達とルームシェアして就職先を見つけるつもりの下見だったのだ。
帰ってきて何食わぬ顔で持って行った着替えや身の回り品を片付けていた時に、母が部屋に入ってきて、姉にこう言ってきたらしい。
「ねえ今日、お母さん都ちゃんと京都に遊びに行ってたのよ。そしたら合宿に行ってるはずのあなたを見かけたんだけど、人違いだったかしら?」
「えっ・・・」
「はい。図星だね!合宿は嘘よね? お母さん本当に京都に行ってたけど、あなたを見かけていないけど、あなたの気配を感じたの。おかしいよね?なんであなたを感じるのかわからなくて、これはおかしいな!って思ってたの。そしたら帰ってきたあなたを見たらすぐに分かった。これは謀反か?」
「違うの本当は友達と京都旅行したかったから・・・」
「そーなの?おかしいなぁ、私が思うに、家出する準備でしょ。」
「本当に違うの!信じてほしいんですけど・・・」
「そう?じゃあ信じる。あなたは一番最初の子だから、お母さんはあなたが一番可愛いの。突然居なくなったりしたらどーしたらいいのか分からなくなって、あなたを見つけ出したら、一緒に家出を企てた子に何をするかわからないから。気を付けなさいよ。」
「えっ?お母さんは妹達ばっか可愛がって、私なんてどーでもいいんじゃないの?」
「はぁ?大きくなったからそこまでベタベタしたら嫌がると思って遠慮してるんですけど。それがわからなかったの?まじかぁ、それめっちゃムカつく。あーーー怒りたくなってきた。家出したら地の底まででも追っかけて連れ戻してやるから。」
「一番可愛いとか、そんなん言ってくれなきゃわかんないじゃん!」
罵倒しあっていた時に、父が部屋に入ってきて穏やかな人なのに怒鳴ったらしい。
「そんなに喧嘩するのなら皐は俺と離婚して花梨は自立して二人とも家から出て行ってやってくれ!」
・・・。
「お母さんは離婚するの嫌だからもう喧嘩はやめるわ、でも家出は許さないからね。」
「私もお父さんを怒らせるのは嫌だからやめる。」
それで家出するのを考え直したんだよ。と
ええーーー!私も同じようなことを言われたんですけどぉ
中学一年生の時に学校に行きたくなくって、朝にお腹が痛くて学校に行けないと主張したんだけど、熱もないし休む理由がはっきりしてないからダメ~ と言われ、その日は学校に行ったけど、翌日もその次の日も同じ主張をしたの。そしたら三日目にやっと
「学校行きたくない病ってお母さんもあったんだけど、それでも無理して我慢して学校に行き続けると、人生がどーでもよくなって、死にたくなったんだよ。でも、死ぬほどの勇気がなくて、そしたら不良になれば嫌なことをされなくなるからいいかも?って思って素行が悪くなったの。だけど、不良になってそれから大人になってから後悔する事がいっぱいあったの。」
「不良って・・・」
「ま、それなりに悪いことして、学校行きたくない病からは逃れられたから良かったけど、死ぬ選択をしてたらあなた達に逢うこともできなかったんだよ。あなたはお母さんと同じ真ん中の子だから上と下の姉妹へのコンプレックスがあるから似てるとこがあるから一番可愛いの、間違った選択をするようになったら悲しすぎるから、学校は休んじゃいなさい!気持ちが落ち着くまで熱があるとか理由はいくらでも付けて学校に連絡してあげるから大丈夫!でも、お母さんは仕事休めないからお家でおとなしくしてなさいね~ って、それで二日休んだら気が治まって、学校に行く気になれたんだよ。」
姉と顔を見合わせて
「やられたぁ!すっかりお母さんの術にはまったね」
「でも、お母さんの勘の鋭さ、ちょー怖いんですけど。」
「でしょーーー!ほんとに鳥肌ものだったし!怒っているのに淡々とずっと低い声だっかたからすごく怖かったの!」
「それと、記憶力がいいよねぇ。前に言った事とかすごく覚えていて、嘘の上塗りがばれたり。」
「あの言葉、あなたが一番可愛いの。あれ嘘じゃないんだろうけど、言ってほしい時に言われたから、心を読まれてるんじゃない?」
「それと、お父さんの怒鳴りって聞いた事ないんですけど。」
「あれは・・・ お母さんのガン切れより怖かった・・・」
・・・。
「ま、澄香が元気で帰ってきてくれたし、私たちに自慢したかった言葉はこれからも内緒にして大切に心にしまっておこう。」