表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

3 葛藤

 母の闘病を振り返ってみると、抗がん剤治療は数種類の抗がん剤を合わせた点滴を1クール(3週間に1回を4回)通院で受けて、次の種類を1クール。

その2クールが終わって休薬してから手術のため入院。その期間は半月くらい。

抗がん剤治療は全部で18回だったと覚えているので、全摘手術の快復を待ってから残り10回の通院治療。

 仕事は1年の見込みで傷病休暇をもらっていたけど、その期間で治療は終了しなかったので、半年延長してもらっていたから、あの日記?を書く時間はたっぷりあった。


 抗がん剤治療は入院して受けるのだと思っていたら

「先生から、抗がん剤のイメージって不安に思う事が多いだろうけど、この病院では化学療法専門の病棟があるから通院のみで治療しているから、一人で来院して治療をして、その日に自宅へ帰れるんだよ。今まで僕の患者さんで化学療法の後に入院で対応しないといけなかった人はいないし、仕事も続けておられた方もいるから安心していいよ。って言われた~。もう会社に傷病休暇もらいます!宣言しちゃったのにねぇ~ ま、いっか!ちゃんと治して仕事に戻る~」なんて言っていた。


 最初の抗がん剤の治療を受けて帰ってきた日は、普通にいつもと変わらない感じで食事をすませ、しばらくして

「抗がん剤ってすぐに気持ち悪くなるかも?なんて心配してたけど、それはないの。でもやっぱ最初ってのは緊張したのか、すごく肩が凝ってるし、全身がだる~い。食べてからすぐだけど、もう横になりたーい!洗い物とか家事やりたくなーい!」と我儘を言う子供のように身体を揺らつかせながら言っていた。


 それを見ていた父は

「先生から、家事とかも普通にしていいって言われてた?本当はゆっくりするように言われてたんじゃないの?」と聞いた。

「あー・・・ 家族に手伝ってもらえる事とか、甘えられることは頼んで下さいね。って看護師さんに言われてた…、それ言ってなかったよねぇ…」

「やっぱり・・・、大丈夫!とか言って、心配させないようにしてたでしょ。」と私もつい口を挟んでしまった。

「みんなで片付けとかするから、ソファーで横になってそのまま寝ちゃうといけないからちゃんと寝室行って横になってよ。」なんてやり取りをした。


その翌日の朝から嘔吐しまくり、食事も取れなくなりもちろん家事はできなくて当然だから、それから寝室が母の主な居場所になった。


ふらつきながら寝室から出てくると洗面所に行き嘔吐して、またゆらぁ~とよろつきながら寝室に戻っていく。もう見ていられなくて経口補水液のゼリーを渡したら、すごく喜んでくれて


「これ、ちょー美味しい!経口補水液が美味しいって感じるのって、脱水してる証拠だからあかんよね~、これが続いたらやばくね?」

「食べれないんだから、ゼリー飲料とか栄養ドリンクなら買ってくるよ。」

「ゼリー系なら、いけそうな気がする~~~♪」

「だからぁ、無理とか我慢とかしないで、もう少し頼ってよ。」

「やーーんまじで甘えていい? 薬局に並んでるゼリー系の全制覇したいかも? こんな状態でも戦いを挑むってどーよ。ゼリー飲料の蓋をすぐに捨ててやったぜ! ワイルドだろぉ~ なーんて言ってみるとか本当に蓋を捨てるのやっちゃう? ふふっ」

「だぁ~かぁ~らぁ~、おちゃらけないで不調なら不調のアピールしてよ!それに古いギャグで笑えないし。」

「あちゃー古いかぁ~ ちゃんと全制覇したいって甘えてみたんだけどなぁ。」

「はいはい、全制覇ね・・・」


 家族に心配させないように明るく元気だよ風にしていた。


 抗がん剤治療をして2週間が過ぎた頃、帽子を被るようになった。髪が抜け始めたのだ。お風呂は母が最後に入るのだけど、ある日 脱衣所のゴミ箱にすごい量の髪が捨ててあるのを見てしまった。

「お母さん、髪が抜け始めたの?大丈夫?」

「そーなんだよぉ 抜け始めたんだけど、バサッと綺麗に全部抜けちゃえばいいのに、中途半端にちょろちょろと抜けるの、確か電動バリカンがあったはずだから、断髪式しようと思って。」

「はぁ?断髪式?」

「丸坊主にしちゃえば、ちょろ毛共なんて気にせずに、ウィッグ被れるでしょ。抗がん剤治療が決まった時に、どうせウィッグ被るんだから、ウィッグによくあるボブに変えて、切り替えたのがわかんないようにしようと思ってたんだから。ケア帽子じゃなくてはやくウィッグ被りたいんだもん。」

「あのー、髪が抜けて寂しいとかないの?本当に心のダメージないの?」

「ん?ダメージ? あー、寂しいって言えば寂しいのかな? せっかく外はねボブの可愛い風なのと、クールビューティ風なストレートのウィッグ買ったから、次の抗がん剤治療の時にどっちを被ろうかと思ってたから。」

「いつの間にウィッグふたつも買ってるの・・・」

「ふふふっ さすがAmazon! なんでもあるからお店に行かなくても家から注文で買えて、翌日に届く~ しかもぉ ちょー安くてふたつ買っても1万円ちょっと♪ ウィッグって高いってイメージあったのに、これならもっと色んな髪型で楽しんでもいいかも?」

「お姉ちゃんがコスプレイヤーしてた時のウィッグ、安~い いえ~い!とか言ってたの覚えてないの?」

「え、そーなの? もっと早く教えてくれたらよかったのに。治療前にお店に行ける時間がなくて、どーするよ毛が抜けてきたら!って心配してたのに。」


 姉のコスプレイヤーにはまった変身願望は母のDNAからの伝達だったか・・・


 そんなことを思い出したら、日中は家族も居ないし、時間もたっぷりあったから、気を紛らわせるためにあの日記?を書いていたんじゃないのかな?


 日記?の内容が気になるけど、本当に読んでもいいのかな?知ってしまったらいけない事がいっぱい書かれてあったらどうする?それで親子関係が不安定になったら?


 小説だと思って、母の実体験ではないって思ったらいいのか。


 もう少し気持ちが落ち着いてから、盗み読みの機会が出来たらにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ