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最弱の鼻くそ魔王はむしろ追放されたい  作者: 蛹乃林檎
一章 魔王と聖女の不健全
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九話 魔王様、お兄たまになる

「また来たのかお嬢ちゃん。もしあんたの話が本当でも、確認するには時間がかかるし、子供一人じゃ行かせられないんだって。分かってくれよ」


 馬車の貸出しを行っているという店で、昨日に引き続き交渉する聖女に店主はカウンター越しにそう言った。


「商会へ確認は取らなくても大丈夫です。私という存在が証明ですから! それに一人じゃありません。今日は保護者がいますから! ほら!」


 そう言って聖女は俺をカウンター前に引き出した。イカつい大人型のチンピラの姿をした店主は俺を訝しむ目で見ている。


「……そこらに居た兄ちゃん連れてこられてもなぁ……ちゃんとした保護者が居なけりゃ、子どもに馬車は貸せないんだ。こっちの責任になっちまう」


 この店主は意外にもまともな事を言うので、見た目とは違い仕事は真面目にこなすタイプの様だ。


「そこらに居た兄ちゃんじゃありません! 正真正銘私の兄ちゃんです!」

「いやいやお嬢ちゃん、そりゃ無理あるってー。髪も目の色も、肌だって違うし、顔立ちなんて丸っ切り違うじゃないか」

「そういう複雑な兄妹だって存在するものじゃないですか!」

「そうは言ってもねぇ……それに、あんたエミューゼルの娘さんなんだったよな? あそこは確か一人娘だったはずじゃないかい?」

「——……あー……」


 それに比べて聖女は終始イカれた返答しかしていない。馬鹿丸出しだ。もしや、この茶番に付き合わせるために俺を従者に引き入れたのか? 頭が痛くなりそうだ。豪商の娘らしい交渉術でも持っていて、その中で俺の担う役があるのかと思っていた事が逆に恥ずかしくなる。


「とにかく、何か人には言えない様な事情があってちゃんと兄妹なんですぅ! だから馬車貸してください! お金ならありますから!」

「……だったら、兄ちゃんの名前教えてくれよ」


 そういえばお互い名乗っていないなと思っていると聖女が答えた。


「……シマオです」

「シマオです⁈」

「おい、兄ちゃんが驚いちゃってんじゃないかよ……まぁ、いいよ。そんなら商会の方に兄ちゃんの確認取るからちょっと待っててくれ」


 そう言って店主が近くの従業員に声をかけたのを見て、聖女の顔色がサッと変わった。


「……あ、やっぱり間違えました。婚約者でした。うん、婚約者、すごい好き」

「……婚約者じゃあ保護者とは呼べないよ。お嬢ちゃん、エミューゼルの娘さんって言うのも嘘だね?」

「嘘じゃないです! 本当です! ほら! この銀髪見て!」


 馬鹿丸出しの不毛なやり取りを眺め続けていた俺は、本当にこめかみ辺りが痛み出したので、堪らず店主と馬鹿の間に入ってしまった。


「……店主、残念な妹がすまない。少し話がしたい」

「妹って……あんた本当にこの子の兄ちゃんかい? だったらなんでシマオに驚いて……」


「……シマオというのはアレが飼ってた仔犬サイズのデカい鳥の名前だ。妹は元々イカれてたが、シマオが死んでから更に残念になってな」


「残念ってどういう——」

 馬鹿が口を挟むと収拾がつかなくかるので、俺は後ろ手に聖女の口を塞いで続ける。


「現実逃避しているのか、ごっこ遊びが激しくなって勝手に周りを巻き込むんだ。しかも巧妙に現実を織り混ぜる。ここ一週間はずっとエミューゼルのお嬢さんを演じてるんだ。寝てても起きてても。それで俺もシマオを演じさせられている。だがこれに付き合わないと、今度はシマオの死を思い出して飯も食わなくなるから余計ややこしい。今日も馬車に乗って行商するんだと言って聞かないんだ。だから、どうか馬車を貸してやってくれ。なんなら買い取る」


「そりゃ……気の毒な話だが……あんたら本当に兄妹だろうね? 手続き上あんたに貸す分には問題は無くなるが……本当に健全な関係か? 通報案件じゃなかろうな?」


 金さえ貰えれば何でもOKとはならない辺り、この店主は見た目に反して本当にしっかりした男の様だ。健全かと問われて頷けないのが心苦しい程だが、魔王と聖女の二人旅が健全な筈はないからな、笑って誤魔化しておく。

 俺は渋々差し出された契約書に適当な名前でサインした。ちゃっかり売買用の契約書なあたり本当にしっかりした男だ。


「では、お支払いを」

 俺の背後にいた聖女がカウンター前にまたやって来て、サラサラっと馬車の代金やらを書き付けた紙をピロっと渡した。


「請求書の方を商会の本社へ送ってくださいね。月末にはお支払い致しますので」


 聖女がカウンターに差し出したのは魔界で言う所の手形にあたる物だろう。俺の三文芝居によるフォローをぶち壊すエミューゼル商会の名前も印もガッツリ入ったそれを、店主はまじまじと見てから、ニコッと笑いかける聖女を伺い俺へジロリと視線を寄越した。


「あんた達……これ……もしかして犯ざ——」

「な? 言っただろう? そんな物まで用意して巧妙なんだ。店主、悪いが貸借契約に変えて欲しい。即金で色付きで払うから、もうこれ以上何も聞かないでくれ」


 俺は小道具まで用意する本格派な妹の手から、通報案件に移行する前に無言で手形を奪い取った。

 


「良かったですねぇ! 馬車が借りられましたよ!」


「借りられましたよじゃない! 馬鹿なのかお前は! 正体がバレたらマズいと言いながら自ら晒して逆に疑われ、あげく俺が折角フォローしてやったのにそれをぶち壊す真似を……手形を持ってるなら早く出せ! それがあれば話が早かったのにややこしくなったろうが!」


「だって、子どもには貸せないの一点張りで17だと信じてくれないから、身分を明かせば分かってくれるかなと……。それに私も馬鹿ではないので、請求書は大事な物ですからお支払いをする時にしか見せない様にしてるんです。父ったら明細は確認しないので悪用されたら大変ですから。でもそのおかげで好きに使えるんですけどね!」


 いや馬鹿だわ、と思ってまた頭が痛み出した俺は、これ以上話を続けたくなくて借りた小型の幌馬車の後部に回り、荷物を積み込む体で聖女と距離を取る。


 ここまで話を聞いてきて、聖女のお花畑脳と計画性の無さにほとほと呆れてしまい、これからあれに付いていかなければいけないのかと思うと頭痛が強まってくる。

 そもそも教会の迎えが遅いと気づいた時点でコンタクトを取れば良いものを、呑気に待ち続け縁談が持ち込まれてから漸く焦り、大した準備もせずに家を飛び出している。

 馬車を借りるのに身分を明かすにしても手形を出せばすんなり行ったものを、自分が証明だなどと宣う怪しい子どもを誰が無条件に信じるのか。考えが足りなすぎる。

 俺を偶然拾っていなければ今頃はあの高いパンを齧って家に帰るしかなくなっていただろう。

 そう、帰っていただろう。


「——しくじった!」


 俺は痛む頭を抱えて叫んだ。


「馬鹿は俺だ! 警官でも何でも呼んでもらって家に連絡して迎えに来させれば良かったんだ! そうすれば俺はどさくさに紛れてあいつから安全に離れられたのに……。ここ数百年ヤバイ草中心の貧弱な食生活を送っていたからか、あいつから与えられる悉く美味い物に脳までも懐柔されていたとは……目的を思い出せ俺よ! 聖女の従者に身を窶しているのは命を繋ぐ為だ。体力も幾分か回復し、命を脅かされる心配が少なくなるなら従者でいる必要はない!」


 今ならまだ間に合うと警官か商会の人間を呼びに行こうと聖女の様子を伺うと、馬車前方で男2人と何やら話し込んでいる。今度は何をしているんだとうっかり眺めてしまうと、聖女に気付かれ人を呼びに行けなくなった。

 またしくじっている。


「シマオさん!」

「誰がシマオだ!」

「この方達、傭兵だそうですが同行してくださるそうです」

「同行?」


 何故急にそんな話になるのだと訝しみ傭兵と名乗る2人組に目をやると、向こうもこちらを見返してきて、にやぁっと下卑た笑みを浮かべた。

 俺は魔王だから当然加護など付いていないがその顔に直感する。


 うん、こいつらは、典型的なチンピラ型の悪人だ。

寝ながら書いていて朝起きたら前半三分の一を残し次の回の半分までうっかり消してしまっていて、アギャッと叫んだ思い出の回


お読みいただきありがとうございます。

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