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最弱の鼻くそ魔王はむしろ追放されたい  作者: 蛹乃林檎
一章 魔王と聖女の不健全
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八話 ロリ聖女の苦悩と無防備

 聖女曰く、聖女が生まれると空には瑞雲が現れるだとか、瑞鳥が飛んだウン百年ぶりに卵産んだだとか言ったとにかく瑞兆が現れまくるらしい。それを見て、聖女を崇め、天使を祀る天聖教会なる団体が生まれ落ちた聖女を探し出して迎えに来るんだそうだ。


「それがまだやって来ない……と」

 俺は市場の外れの倉庫らしき建物の前に座り込んで、港で荷下ろしをする船を眺めながら聖女チョイスの具がたっぷり入ったサンドイッチにかぶりつく。

 余程目が利くのかこいつに渡される物はどれも美味い。多分握り潰した果物も美味かったのだろう。惜しいことをした。


「そうなのです。こんな事は初めてで……。もう来るだろう、明日には、明後日には……と思っているうちに結婚話が持ち上がる歳になってしまいました」


 隣で聖女も同じように座り込んで、やっぱり同じようにサンドイッチを齧っている。ただ小柄故か口も小さい様で具に辿りつけていない。それでも溢れたソースで早くも口許を汚しているから、いくつか知らないが本当に幼女のようだ。

 その幼女に縁談が持ち込まれるのだから、継ぐものがある家っていうのは大変だな、とガチ他人事としてぼんやり話を聞く。


「結婚話も進んでしまうし、迎えもあまりにも遅いので、何か迎えに来れない事情があるのではないかと思って、だからこちらから聖女として名乗り出ることにしたのです。そうして積み荷に紛れてここへ来る所までは順調だったのですが……思わぬ弊害が……」


「へーがい」

 ちゃんと聞いているフリをして語尾だけ鸚鵡返しし、ハードパンのサンドイッチを休む事なく頬張り続けていた俺の膝に、聖女は齧っていた物を置くとピョンっと立ち上がって、俺の正面まで来てくるぅり一回転して見せた。


 頭に被ったショールが脱げて、先のくるんとした長い銀髪が幾筋も溢れる。背景の港の煌めきが銀髪に映って輝いている様な錯覚がした。

 ノースリーブワンピのスカート部分も回転に合わせてふわっと広がり、細いがふっくらした太腿まで露わにすると共に、中に隠しておくべき物も翻る裾のギリギリからチラ見えする。こいつは本当にスカートの中身に対して注意を払っていなさすぎる。


「私、いくつに見えますか?」


 真っ白で人形のそれのような両腕を広げて、大きな宝石を思わせる紫の瞳を向けて問うた聖女を前に、俺は少し考える。

 超童顔、低身長、パンチラへの無防備さに、口許のソースはつけたままのあざとさ。

 見た目で言えば一桁だろうが、わざわざ聞くのだから見た目通りではないのだろう、と気持ち多く見積もる。


「12、3」

「17です。この冬には18になります」

「嘘だろ⁈ どう見ても子供だ……」


 はぁ、と聖女は溜め息を吐くとショールを被り直して隣に戻って来た。


「そうですよね……。魔王様が幼女趣味と聞いて、転生する時に天使様に次はロリ系でってお願いしたんですけど、まさかここまでミニマムにされると思っていなくて……」

「おい、風説の流布は止めろ。俺はロリコンじゃない」

「あなたがオバ趣味だろうが何だろうがどうでも良いんですよ。私は魔王様の為にお好みに寄せてるんですから。ただこのロリ顔と体型が、私の旅の弊害になっているんです」


 聖女は食べかけだったサンドイッチを半分に千切ると、口をつけていない方を既に食べ終わっていた俺に寄越した。


「まず、移動の為の馬車を借りられない……買うと言って身分を明かしてもダメでした。仕方ないので徒歩移動を覚悟しても今度は門番が通してくれない……子供一人では行かせられないそうです。何の心配も要りませんのに。仕方なく護衛として傭兵を雇おうと酒場に行って話をしてみても軽くいなされてしまって……手持ちの金貨を見せてもダメで、途方に暮れて一日経ってしまいました」


「それでも高いパンを予約する余裕はあったんだな」

「えへっ!」


 えへっ! じゃねーよ、なんだその可愛い表情は。腹が立ったので分けて貰った分をワイルドに食ってやる。


「でもそのパンがあったから、あなたを供にすることが出来たのですよ。これこそ天使様の加護でありお導き、私が聖女である証明だと思います」

「ただの能天気金持ちの食欲爆発だろうが」

「だとしても、です。このタイミングで爆発し、あなたを従える材料になったのですから聖女たる者の力と言えるでしょう」


 聖女は得意気な顔をしてサンドイッチを頬張った。隣に魔王が座っているのに気付かないとは聖女たる者の力の底が知れると言う物だが、逆に言うと俺が魔王足り得ないから気付かれていないのか……。


「クソッ! 鼻くそめっ!」

「なんですか急に……。まだ足りないのなら好きに食べて良いですよ? 二人旅の食料としては買いすぎた気もするので」


 俺は言われるがまま食料を詰め込んだ袋に手を突っ込みながら、一通り事情を話し終えた聖女に改めて質問した。

「……で、なんで俺をわざわざお供にしたかったんだ」


 ごくんと口の中の物を飲み込んで、口の周りがベタベタのまま聖女は笑った。


「お話した通りです。ここから旅立とうにも人も雇えずどうにもならない。だから忠実に近い形で契約出来る便利な従者が欲しかった。そこでボロボロ文無しのあなたが最適だったのです。加えて私のこの目が、あなたが私にとって必要な人だと見抜いた。これは付与された加護の一つです。物の真贋や有用性などを目利き出来る。殆ど直感ですけどね」


 聖女はスミレ色の大きな瞳を指差した。悉く良い品を瞬時に選ぶのはそう言う事かと、袋から取り出した黄色い歪な形の果物を齧る。もちろん瑞々しくて美味い。


「私にとってあなたは必要な人。それがどういった部分かまでは分かりませんが、この目は狂いません。エミューゼル商会だって、急激に拡大出来たのは私のこの目があったからですもの。古美術に手を広げたってお話しましたよね? その鑑定は私の仕事なんですよ」


 そう言ってサンドイッチの包み紙で口を拭うと聖女はまたピョンと立ち上がった。


「さて、腹拵えもしましたし、そろそろ出発しましょう。あなたにも、やって頂かなくてはいけない事があります」

「……なんだ、やる事って」


 聖女は俺に向き直るとにっこりと微笑みかけた。


「あなたには、私のお兄ちゃんになってもらいたいんです」

お読みいただきありがとうございます

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