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最弱の鼻くそ魔王はむしろ追放されたい  作者: 蛹乃林檎
一章 魔王と聖女の不健全
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三話 鼻くそなりの鼻くそほどの秘策

 真っ白で暖かくてふわふわのゆりかごみたいな空間で、なんだかんだ言いながらも満たされた気分で眠りについていた俺は、いつもと同じ様に何のモーションもなくバチッと目覚めた。


 目覚めた瞬間にゆりかごの様な癒しの空間は消失して、俺は、じめっとした暗い洞窟に身を投げ出していた。

 でもこれはいつもと一緒だから驚くことはない。寧ろこうでなくちゃいけない。


 この洞窟は魔王城跡で、俺は封印されたこの場所で必ず目覚める事になっている。

 今回もたがうことなく同じ地点で目覚めた事を確認し、俺は飛び起きて洞窟の最奥の湿った地面を、長い爪にガンガン土が入り込むのもお構いなしに掘りまくった。


「どこだ、どこだ、どこだ……」


 ガツッと爪が土塊とは違う固い物に当たった。


「あった!」


 俺はその固い物を急いで掘り出し確認する。アクセサリーでも入れておくような小さな木箱だ。


「変わらずここに居てくれたか。俺の秘密兵器、いい子だ」


 俺は泥だらけの小箱に頬擦りする。汚れようがそんな事は気にならない。

 何故ならこれは、俺がこの世界を抜け出す為の切り札だからだ。


 眠りのサイクル自体には抗えないが、何もアホづら晒してただその時を繰り返していたわけではない。この摂理の穴を持ち前の慧眼で見つけ出した俺は、そこを巧妙に突いた打開策を練りに練って、粛々と魔界帰還計画を実行していたのだ。

 なんて、かっこ良く言ったが摂理の穴なる物を見つけたのはただの偶然だった。


 サイクルに飲み込まれた当初、ちょっと寝て目覚めたつもりだったのに魔力は大幅減少、大量獲得した筈のポイントは有効期限切れで0。

 何の悪夢だと慌てた俺は答えを探そうと右往左往して、そして見つけた。次の世界を物色する為に持ち込んで、ドッグイヤーと付箋だらけの下界斡旋雑誌のこの世界の留意事項……。

 抗えないこの世界のクソみたいな仕組みに俺はその時やっと気付いた。


 気付いた最初こそ、俺は世界の理に抗って眠り自体に対する抵抗を試みた。けれど何をやっても無駄だった。

 100年毎に俺が目覚めると、あの時助けた生贄の少女が何故か毎回聖女に転生して現れ、その命をもって封印と称して俺を必ず眠りに落とすのだ。


 そもそもこの世界の異常に気付いたのが一度眠って起きてからだから、せっかく溜めた魔力は帰還用のゲートを開けることすら出来ない——後に気付くが聖女の誕生でランクが上がって解放に必要な魔力量が増えた——ほど大きく目減り。対抗策なんて取れた所で毛の生えた鼻くそ程度でしかなかった。


 それでも何百年か抵抗して、もう無理なんだと諦めていたある時の目覚め、俺は気付いた。

 あれ? まだ100年経ってないのに目覚めてね? と。


 この世界に定められた100年眠って起きての繰り返し。抗えない筈の摂理下において、100年には数年満たずしてその時の俺は目覚めていた。

 目覚めの理由は至極単純。何度か眠りを繰り返すうちに必死こいて溜めてきた物が枯渇して、100年眠ったままで生命維持していられる程の魔力がその時の俺には残っていなかったからだ。


 魔族の身体は良く出来ている。

 寿命はあってない様なもので、魔力で生命維持出来れば食物等の直接的エネルギー摂取もほとんどいらない。病気も基本的にはしないし身体も頑丈だ。

 ほっといても生きていられるから死因1位は勇者及び聖女による討伐になっている程だ。因みに2位以下は魔族同士での小競り合いの末の暴行死などが続く。恐ろしい世界だ。

 ただ、簡単に死なないとは言っても魔力が尽きて生命維持出来なくなれば死ぬし、魔力に頼っていなくとも他からエネルギー摂取出来ないでいれば当然死ぬ。

 

 そう、つまり当時の俺は100年眠っていることも出来ない程魔力が枯渇し、かつ飲食出来る状態に無かったが為に、生命維持に支障を来すと無意識下で判断した脳によって、摂理に反して緊急覚醒させられていたのだ。

 下手したら二度と目覚められなくなっていたかもしれない瀬戸際に、本当に魔族の身体は良く出来ていると思った。


 ともかく俺は鼻くそ故に抵抗虚しく眠りに落とされ続けていたが、鼻くそ故に摂理から逃れる一瞬を作り出す事に成功した。


 だが、この抜け穴とて油断してはいけない。

 これに気付いた当初、俺は聖女がやって来る前にと急ピッチで魔力を溜めようと頑張ってしまった。その結果、俺を感知した聖女が100年を待たずに現れてしまうという絶望を迎えた。

 次こそはヘマをしないぞと中途覚醒した2度目、入れた筈の温水便座のスイッチを知らぬ内に切って叫ばせてやるとか、そういったレベルの悪事をコツコツ働いてバレずに魔力を溜めていたが、一定値を超えると魔王城が勝手に築城されて聖女に盛大に復活を知らせた。


 ここで魔王城は、本来なら魔王足りうる力を持った者が眠りから目覚めると共に建つ仕組みになっているのだと知った。

 今までは作った覚えもないのに正規に目覚めたら城の中に居て、その時点まで崩れた筈の城が建っていた事を不思議に思わず自然と受け入れてきた自分が、この世界の摂理に随分と毒されていたと気付いた瞬間だった。

 同時に補正の無いありのままの俺は世界の理ですらも魔王と認めてはくれない程の鼻くそなのだと思い知る。ちくしょう。


 あまり性急に事を進めれば聖女にバレるし魔力は溜めすぎてもいけない。以上の事から俺は策を練った。

 

 死にかけるほど魔力が無くなって目覚め、すぐにでもエネルギー補給したい所だが、早急に集めることが出来ないため魔力に頼った生命維持は出来ない。

 仕方なく簡単には死なないのを良い事に、その辺の草を、これは確実にアカン奴やと思いながらも何とか口に押し込み微々たるエネルギーを摂取して命を繋ぎ、この一瞬の抜け穴を何とかチャンスに変えるべく頭をフル回転させた。

 そして出した答えがこれだ。


「小判鮫生活をウン百年と続けていた間に身に付けてしまった生き残る為の技術。ここでも役立つとは思わなんだ。鼻くそ人生にも無駄なものは無いのかも知れないな」


 俺は小箱を抱えて、極度の空腹でふらふらする身体で何とか立ち上がる。


「……聖女よ、今世こそは俺の勝ちだ。俺はこのお手製魔封じの小箱で魔界へと帰還する!」


 空腹のせいで腹から出なかった弱々しい笑い声を響かせて、俺は洞窟の出口へとヨロヨロと向かった。

お読みいただきありがとうございました。

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