一話 ストーカー聖女は今世もしつこい
興味を持って頂きありがとうございます!
一話3000字程を目安にしております。
ストックが尽きるまでは一日1〜2話更新予定です。
章の終わりにふざけたあらすじが入る予定です。
不格好でも最後まで! をモットーに書いて行きますのでお付き合い頂ければ嬉しいです。
それは予定調和。この世界に組み込まれているリセットの仕組み。
「来たか、聖女よ」
魔王は、玉座の前までやって来た聖女一向にそう静かに言葉をかけた。
「ええ、魔王。貴方がこの世界に幾度となく蘇っても、必ず天啓を受けて生まれた聖女たるこの私が、貴方をその度に封じます」
歳の頃が15、6に見える聖女は凛とした態度で、魔王を前に臆することなく堂々と応えると従者に下がるよう手で指示し数歩前へ出る。角の生えた青年の姿をして褐色の肌を持った魔王も、玉座から立ち上がると長い黒髪をマントと共に翻した。
「いい加減飽きはしないか? 聖女の使命とやらに縛られた生き方に」
「飽きるなど……聖女となった時から貴方とここで相まみえる事を使命として生きてきました。私はそれを今果たせる。寧ろ喜びに打ち震えているくらいです」
強い眼差しを魔王に向けて聖女がそう言った。聖女の覚悟を耳にして、護衛の従者達がこみ上げる物を堪えるように口を引き結んだ。
「私のこの命をもって、貴方を封印する。私は聖女として今日この日の為に生きてきました。飽きるなど有り得ません」
「……いい加減飽きれ、ストーカー」
魔王は聞き取れないくらいそう小さく呟いて、掌から黒い炎の球を出現させると聖女に向けて数発放った。聖女はそれを手にした杖で左右に弾く。壁に床にぶつかったそれがドンッと爆発音を轟かせ黒い火柱が上がる。
「聖女さま!」
「皆さん、退がってください! 今日まで共に旅をして下さってありがとう。明日からの平和な世界を私の分も生きてください!」
聖女は両手で杖を持ち直すと魔王に向けて掲げた。
「魔王よ! この先も何度復活しようとも、必ず私が、聖女が、命をもって貴方を封じます! 諦めて私と永遠の眠りにつきなさい! いきます! セイクリッド・コフィン!」
杖に飾られた透明な宝石から眩い光が放たれて魔王と聖女を包むかの様に覆い隠すと、シュンッと一瞬にして収縮し2人を飲み込んだまま消えた。
「聖女さまーーーーっ!」
ここまでの道のりを共にした従者達の聖女を悼む声が、主を失いガラガラと崩れ始めた魔王城の中に響いた。
その音を遠くに聞きながら、光の中にいる様な真っ白な空間で、俺はまた負けた事実を突き付けられている。目の前に立ってくねくね動いているこの女によって。
「魔王様! やっと、二人きりになれましたね。100年と1ヶ月と7日ぶりですね」
「1ヶ月……前回より到着すんの早くなってないか? どんどん早くなってるよな」
「だって、すぐにでも会いたかったんですもの。復活しそうって思った時から巡礼と称して近場に移動しておきました」
「しなくていいんだ、そういうこと! そうなってくると不正だからな! 冤罪だから! 俺が悪い事する前から誅伐しようと動いてんだから!」
「誅伐しようとしてるわけじゃないですぅー。早く貴方の下に行って、二人っきりになりたいからですぅー」
「……頼むよ、頼むからもうやめてくれって。俺は魔界に帰りたいんだよ。頼むから俺が帰れるだけの魔力溜められるまでゆっくりしててくれって」
俺は魔王という地位も世間体もかなぐり捨てて、直前までの凛とした姿は何処へ行ったのやらな、この急にくねくねしだした聖女の足下に額を擦り付けて懇願した。
「嫌です。だって魔界にお帰りになってしまったら、もう会えないじゃないですか。でも、もしも私とお付き合いして下さって一緒に魔界に連れ帰ってくれると仰るのなら、次に転生した時には考えてあげても良いですよ」
「それは無理だ。人間は連れて行けない。めっちゃ怒られて元あった所に返して来なさいって言われる」
「じゃあ、こっちも無理ですーっ!」
頬を膨らませ口を尖らせて分かりやすく不満を伝える聖女を前に、俺は頭を抱えて呻いた。
もう1000年、これを繰り返している。
ただ、俺がこの世界に魔王としてやって来た時には、聖女と呼ばれる存在はいなかったし、魔王を理解できる文明でも無かったから、正確に言えば900年ちょっとくらいだろう。が、それだけの長い間、俺はこの女に帰郷する事を阻まれ続けている。
俺は魔界で生まれ育った魔界人だ。人型だから魔界人と呼称されるだけで勿論人間じゃない、魔力を持った魔の生き物、魔族だ。
その俺の故郷魔界はとにかく競い合うことが大好きで、今も昔も変わらず熱いのは魔界ポイントなる物の所持数を競う事だ。
この魔界ポイントは年に一度発表される所持ポイント数のランキングの良し悪しで、褒賞として付与される物など手に出来る何やらが変わってくる。勿論高ランクになればなる程手に出来る物も多い。
その最たるものが魔力で、このポイント集めが熱い理由がこれだ。
魔界っていうくらいだから魔力の多さがとにかく何処でも物を言う。魔界での待遇、居住地、各種事項の制限解除、尊敬と羨望の眼差し。
そして勿論魔力は力の源、多ければ多いだけ強い。競い合うこと大好きな魔界の住人にとって魔力を高める事は至高への道だった。
ところが不公平な事に生まれ持った魔力というのは個々人でバラつきがある。鼻くそみたいな奴もいれば、生まれた時点で四天王クラスですねって奴もいる。世の中何処でもそんなもんだ。
しかし、生まれ持った魔力が少ない者であっても、この魔界ポイントをせっせと貯めてもしも上位に食い込めれば、褒賞として多大な魔力を有することが出来るのだ。その為、魔物たちは躍起になってランクを上げるべく魔界ポイントを貯めている。
今やお馴染みの買い物したり毎日一回クジ引いたりでコツコツ溜めてもいけるけど、一気にどかんと溜めるなら下界、つまり人間が暮らす世界で生き物達に恐怖や憎しみなどの感情を抱かせ、負のエネルギーを生み出させる事が最良の方法だ。
生み出した分だけポイントが溜まるし、数%は魔力に還元されて直接取り込めるしで一石二鳥だしな。
しかし魔界の外に無数に広がる下界に行くには、魔界と下界を繋ぐゲートを開かなければならず、下界のランクによって開くのに必要な魔力が変わってくる。
そう、ここでも魔力が物を言う。
下界のランクが高ければ高い程、得られるポイントもすこぶる高いのは言うまでもないだろうが、開くのに必要な魔力も大量なのも同じくらいにお約束。
魔力が欲しくて下界にポイント集めに行くのに、効率良いところは魔力が多くないと開けられないとは本末転倒な仕組みだ。
人参を鼻先にぶら下げられて騙されているが、実は弱者は永遠に弱者な構造に涙も出ない、魔界とはそういう所だ。
最低ランクすら開けない鼻くそみたいな奴は、ゲートを開いてくれた奴=その世界の魔王の手下として、小判鮫してコツコツ鼻くそ程度の希望を持ってやっていくしかないのだ。
その鼻くそは俺なんだが。
そんな日々を繰り返し、うっかり高ランクについて行ったばかりに勇者だなんだに倒されかけて、その度に命からがら魔界に逃げ戻っているうちに、そこそこのポイントが溜まり微々たる褒賞でもってそこそこの魔力になって来た。
いよいよ、最低ランクくらいのゲートは開けそうだ、ついに三下ではなく魔王として下界に降り立つ日が来た、と意気込みそうして選んでしまったこの世界。
ランク最低のくせに非常に条件が良かった。魔王の天敵、勇者だ聖女だがおらず、文明も進み過ぎていないどちらかと言えば原始的、それでいて貰えるポイントが破格だったからだ。
因みに天敵がいる世界はボーナスポイントがたっぷり付く。そして文明が高度になりすぎてて魔王とか鼻で笑われる活動しづらい世界は、高難度故に少しでも魔王活動出来たらハイリターン。
逆にちょっと大風吹いたくらいで祟りだなんだと恐れる程度の文明は、難度が低すぎて簡単だからか実入りは少ない。
その筈なのに、何故かこの世界はリターンが破格! 天敵もいないのに!
なので俺は迷わずこの世界を選んだ。他の奴が見落としている内に、取られる前に、と鼻くそながら競い合う事が大好きな魔界の生き物らしく息巻いて。
そして後に気付く、見落としていたのは俺の方だったのだと。
最低ランクには単にリターンが少ない以外にもゴミみたいな条件の物も押し込まれている。
下界斡旋業者が発行しているランク別下界リスト『目指せ君も最強魔王! 梅〜まずは低ランクからコツコツと〜』の個別紹介ページの詳細、備考欄に小さく書かれていた留意事項。
俺が選んだこの世界は、100年毎に魔王が目覚め、世界を程良く壊して後にまた眠るを強制的に繰り返すという、文明だ何だを過度に成長させずフラットに保つ為のシステムが組み込まれた世界だった。
お読み頂きありがとうございました!