撮り鉄
暑い日。旅行の帰りだったな。
田舎の駅のホームの端っこでさ、大の男達が5人くらい集まってたんだ。三脚立てて、デカいカメラ持って。
撮り鉄っていうんだろうな、って思いながら、俺はそいつらの背中をぼんやりと見てたんだ。そしたらいきなり騒ぎ出してさ。
「おい邪魔だ!」「なんだこのガキ!」「ふざけんなぶっ殺すぞ!」
ここからじゃ見えなかったんだけど、子どもがカメラの前に居るんだろうなって、そんな騒ぎ方だった。迷惑な連中だなって、思ったね。
そしたら
『――間もなく、回送電車が参ります――』
ってアナウンスが。
撮り鉄達もどんどんヒートアップして、
「おいはやくどかせどかせ!」「ぶっ殺せ!」「こいつひっぱりやがった!」
俺も止めようかと恐る恐る近づいて、でも、子どもの姿も見えないし、声も聞こえないんだ。撮り鉄の連中が勝手に騒いで暴れてるようにしか見えないんだ。
そんで、俺の足が止まってしまった。
そのうちホームの外側に立ってた撮り鉄が、バランスを崩してさ。
あっ。
と思った時には遅かったよ。
駅のホームが真っ赤に染まって、撮り鉄だったものの肉片がそこら中に撒き散らされた。眼鏡が壁に刺さってたよ。
阿鼻叫喚ってのはああいうのをいうんだろうね。
それで問題は、撮り鉄の見てた『子ども』ってのはなんなのかって事なんだけど。
あれ、この世界に普通に存在しているものじゃ無かったんだ。カメラ越しにしか見えなかったんだよ。
きっとあいつ、カメラに映りたかったんだろうな。
なんでそう思うかって?
だって俺も見たからさ。
ぐちゃぐちゃに飛び散った死体と血の海になったホームを見たらさ、誰だってスマホを向けて、カメラを起動するだろ?
そしたら見えたんだよ。
画面いっぱいに、真っ赤な顔の子どもの笑顔が。