わたくし虐めてやりましたの
ガンバレ!!o(`・д・´)oガンバレ!!
わたくし虐めてやろうと思いますの。
誰をですって? あの平民のマリーベルに決まっていますわ。
彼女、平民にしては魔力が高いからって、それだけでこの栄光あるエトワール貴族学園に入学することを許されたんですのよ。貴族でもない平民が!! 許せるわけありませんわ。
彼女が泣いたってわたくしは悪くありませんわ。
悪いのは平民に生まれたマリーベルですのよ。
恨むならわたくしではなく平民に生んだ親を恨んで欲しいですわね。
◇
マリーベルったら本当に身の程を知りませんの。
高貴なるお方と常に一緒にいますのよ。
ええ、その方たちは殿方ばかりですわ。
その中にはわたくしの婚約者も含まれていますの。
ですからわたくし、マリーベルに忠告しましたわ。
「殿方を侍らせるなんてみっともない」それから「身の程を知りなさい」とそう言いましたの。
そしたら彼女は「好きで一緒にいるわけじゃないです」なんて言うんですのよ。
これだけ堂々と殿方を侍らせておいて、しらじらしいですわ。
彼女には言葉で言ってもダメだと言うことが分かりましたの。なら行動で示すまでですわ。
わたくし、これによって彼女を虐めると決意しましたの。
何から始めようかと考えてまずは彼女の教科書を全部処分してやるのはどうかと思いつきましたの。
思い立ったが吉日。彼女たちの学年がオリエンテーリングでいない間にわたくしはやってやりましたわ。
ええ、わたくしとマリーベルは一年差がありますの。
わたくしが二年でマリーベルが一年ですわ。
彼女の教科書を全部引っ張り出してわたくしが一年の時に使っていた教科書を入れてやりましたわ。
ふふふっ、推理物の本でネタバレされるかの如くこれからの授業内容で大切な要所が記された教科書がこれからのマリーベルの教科書ですわ。
貴女が勉強を楽しみにしていたことは知っていますのよ。
それをわたくしが奪ってやりましたの。
ああ、我ながら自分が恐ろしいですわ。
わたくし、この後ガッカリするマリーベルを思って意気揚々と自分のクラスに戻りましたわ。
授業中抜け出したせいで教師から怒られましたわ…。
うう、反省しますわぁぁぁ。ですから反省文一万字をもう少し減らして欲しいですのーーー!!
――――失敗でしたわ。
マリーベルったら逆にやる気になって成績伸ばしてしまいましたの。
なんていう鋼のメンタル。わたくし次の手段に出ましたわ。
次は彼女の制服に目を付けましたの。
彼女の制服ったらなんだか古臭いんですのよ。
きっと思い出が詰まってる制服なんですわ。
それを奪って新しいものに変えてやるんですの。
わたくし実行しましたわ。
彼女たちの学年が剣技の授業中にこっそり変えてやりましたの。
ついでに剣技で着用する運動着も新しい制服の下に置いてきましたわ。
古いのはわたくしが持ち帰って古着屋に売るなりなんなりするつもりですわ。
思い出の詰まった制服を処分。
ああ、我ながら自分が恐ろしいですわ。
わたくし自分の所業に少し身震いしてしまいましたの。
マリーベルどう思うかしら。
わたくしスキップで自分のクラスに戻りましたの。
……怒られてしまいましたわ。淑女として恥ずかしい行動を辞めなさいとのことでしたわ。
……反省ですわ。
――――失敗でしたわ。
マリーベルったら妙に嬉しそうにしてるんですの。
あれは思い出なんて詰まっていなかったのですわね。
悔しいですわ。わたくし次の手段に出ましたわ。
どうしようか悩んで彼女のお弁当に目を付けましたの。
この学園は食堂があるのに彼女はお弁当を持って来ているんですのよ。
はぁぁぁぁ、これだから平民は貧乏臭いですわ。
これが無くなったらどうするかしら。
わたくし、慌てふためくマリーベルが見たくて彼女のお弁当を奪うことにしましたの。
代わりにわたくしの家、公爵家の料理人が手抜きをして作ったお弁当をマリーベルの机に入れてきましたわ。
ちなみにマリーベルの分は勿体ないからわたくしが食べましたわよ。
何故か意外と美味しいと感じてしまいましたの。
平民が食べるものを美味しいと感じるなんてわたくしともあろうものがダメな公爵令嬢ですわぁ。
――――失敗でしたわ。
マリーベルったらわたくしの置いてきたお弁当を美味しそうに食べましたの。
しかも翌日からはお弁当が二つになっていましたわ。
美味しかったわと手紙を残したからかしら。
おかげでわたくしのお昼はマリーベルが作ったお弁当ですわ。
薄味なのにどうしてこんなに美味しいのかしら。
不思議ですわ……。
失敗ばかりで少し心が折れそうですの。
でもわたくし、公爵家の令嬢ですからここで諦めたりはしませんのよ。
わたくし、ふと思いついて校門でマリーベルを待つことにしましたわ。
この学園に通う殆どの貴族は馬車で学園までやってくるのですけど、マリーベルは平民だから徒歩ですの。事前に調査済みですのよ。
歩いてくるのが見えましたわ。
わたくし颯爽と彼女のところまで走って魔法で作り出した水を頭からかけてやりましたの。
びっくりした顔をしていますわ。
さっさと寝ぐせを直して風の魔法で乾かしたらハーフアップにしてやりましたわ。
彼女いつもストレートですの。
それを弄られる。きっと屈辱に違いありませんわ。
ああ、我ながら自分が恐ろしいですわ。
女の髪は命ですの。それを弄られるなんて身震いしますわ。
――――失敗でしたわ。
マリーベルったら毎日弄ってやってるのに少しも堪えないんですの。
おかしいですわ。平民と貴族では考えが違うのかしら。
でもわたくし、だからってやめたりしませんの。
楽しくなってきたなんてことはないですわよ?
マリーベル、素材だけはいいのが問題なのですわ。
自分の手で可愛いものを作れるんですのよ?
楽しくなるに決まってますわぁ………。
これではダメですわ。
わたくし次の手段に出ましたわ。
階段からマリーベルを突き落としてやりましたの。
彼女がバナナの皮を踏むところだったんですのよ。
ですからその前に小突いてやりましたの。
こんなところにバナナを捨てたの誰なのかしら。
後で生徒会に問題提起しないといけませんわね。
ところでわたくし、マリーベルをお姫様抱っこしてるんですのよ。
落下の途中で受け止めましたの。え? 最後まで落下させるのが虐めですって!
そんな恐ろしい…。わたくし、流血沙汰は望んでいませんの。
ですからこの方法ですのよ! ああ、我ながら自分が恐ろしいですわ。こんな恥辱に満ちた行為を大勢の方々に見られるなんて、マリーベルは今後羞恥に満ちた学園生活を送ることになるに違いないですわ。
――――失敗でしたわ。
マリーベルじゃなくわたくしの方が恥ずかしいことになってしまいましたわ。
マリーベルは入学から一年で今や聖女と呼ばれるようになってるんですの。
十万人に一人と言われる治癒魔法の使い手であること、その中でも特に優秀であること。
他に元々の彼女の人柄や成績などが貴族・平民問わずに評価された結果ですの。
ちなみに学園の成績はマリーベルが首席。わたくしが次席ですわ。
マリーベルとわたくしは学年差がありますから、これはこの学園で特に重視される魔法学に限った話ですわ。
そのせいかしら? わたくしはその聖女と共にある女賢者。
そのように言われて学園内は大盛り上がりですの。
恥ずかしいですの、恥ずかしいですの~~。
どうしてこうなったんですの?
わたくし失敗しましたわ~~~。
今日は学園での社交界の日ですの
婚約者を待っていたのに来ないってどういうことですの?
エスコートをほっぽり出すなんて許せませんわ。
わたくし、一人で会場入りすることになりましたわ。
恥ずかしい。婚約者がいながら一人なんて皆さんの注目の的じゃありませんの。
自分を情けなく思いながらこそこそと会場入りして壁の花となることにしましたわ。
暫くは平和でしたわ。
でも突然事態が動きましたの。
「フローレンシア」
わたくしを呼ぶのはわたくしの婚約者でこの国の第一王子ですわ。
彼の傍には他に四人の殿方。
それぞれ………。
モブの紹介は面倒臭いから省きますわ。
兎に角わたくし、その王子と愉快な仲間たちに呼ばれましたの。
「なんですの?」
ここはホールの真ん中。
ダンスを踊ろうと出てきたところで声を掛けられましたの。
わたくしたち注目浴びていますわ。
会場が静まり返っていますの。
王子たちは一体どういうつもりなんですの?
「フローレンシア、貴様はここにいるマリーベル嬢を虐めたそうだな」
王子がそういうと彼と愉快な仲間たちの間からマリーベルが姿を見せましたの。
彼女はわたくしの隣に歩いてきますわ。
聖女でありながら他の令嬢と変わり映えのしない、派手でもなく、地味でもないドレス姿。
わたくしがわざと彼女を目立たせないよう画策して送ったドレスを着ていますわ。
聖女の威厳を示すチャンスを潰されたというのに、その顔は全然悔しそうじゃないですの。
むしろ安心感で"ほっ"としてる感じですの。
これも失敗だったんですのね。手ごわいですわ。マリーベル…。
ところでこれから何が始まろうとしているんですの?
「フローレンシア、貴様との婚約を破棄する」
王子が突然素っ頓狂なことを言い出しましたわ。
そのすぐ後、マリーベルから同じく素っ頓狂な言葉が発せられてわたくし困惑ですわ。
「あ、じゃあフローレンシア様は私が貰いますね」
「「「「「は?」」」」」
王子と愉快な仲間たちが唖然とした顔をしていますわ。
当然ですわね。わたくしも意味が分からなくて唖然としてしまっていますわ。
「え? だってフローレンシア様は独り身になったわけですよね? なら私が貰っても問題ないですよね?」
「いや、しかしマリーベルとフローレンシアは女同士だろう?」
王子から至極真っ当なことが言われますわ。
そうですわ。わたくしたち女同士ですわ。
いえ、マリーベルがそういうつもりで言ったって決めつけるのはよくありませんわね。
「女同士だから一緒にお風呂に入れますし、例えば宿に泊まるときも一緒の部屋で泊まれますし、体のこともよく知っているからフローレンシア様を満足させられると自信あります」
"ふんす"と鼻息をマリーベルが荒くしましたの。
わたくし、貞操の危機を感じているのは気のせいではありませんですわよね。
「マリーベル……」
急に彼女が得体のしれない恐ろしいものに見えて来て小声で彼女の名前を呼びましたわ。
「はい!!」
そんなわたくしに呼ばれてマリーベルが嬉しそうに返事をしますわ。
あれ? 可愛いですわね。なんでわたくしこんな可愛い子を恐ろしいなんて思っていたのかしら。
わたくし首を傾げてしまいましたわ。
「マリーベル……?」
わたくしに続いて王子が彼女の名前を呼びますわ。
「……なんですか」
わたくしに呼ばれた時と違ってつまらなさそうに返事。
マリーベル、不敬ですわよ。
「君はフローレンシアに虐められていたのだろう?」
「え? 何の話ですか? 虐められていませんよ?」
マリーベルは王子の話に心底不思議そうですわ。
ここで声を上げるのはわたくしですの。
「わたくし虐めてましたわよ?」
「え?」
マリーベル、どうしてそこで疑問ですの?
教科書をすり替えられたり、制服をすり替えられたり、他にも諸々あったじゃないですの。
わたくしがそれを説明するとマリーベルは……。
いえ、他の皆さんもポカーンと口を開けましたの。
……なんですの。
わたくしが訝しんでいると会場の至る所から声が聞こえ始めましたわ。
「可愛い」
「ぷぷっ…。虐めになってない」
「やばい、お持ち帰りしたい」
ええええええええぇぇぇぇぇ?
どういうことですの? どうして可愛いってことになりますのぉぉ?
わたくし、虐めたんですのよ? 虐めが可愛いなんておかしいですわぁ。
「フローレンシア様」
マリーベルがわたくしの手を取りましたわ。
小さくてすべすべしてますわ。
平民にしては手が荒れてないんですのね。
なんてことを考えていたわたくしの思想は次の瞬間に吹っ飛びましたの。
「私、聖女マリーベルはここに宣言します。フローレンシア様を私の妻にして生涯彼女を愛し、国を共に支えることを女神リリエル様に誓います」
彼女、聖女の部分を強調しましたわ。
これで彼女の訴えを無下にすることはできなくなりましたわね。
そんなことをしたら聖女、果てはその向こうにいる女神に不義を働き、不興を買うことになりますわ。
動揺する皆さま。わたくしも同じですわ。
マリーベルはそんなことを気にもせずわたくしにキ……キスをしましたの。
わたくし、初めてなのに嫌ではなかったですわ。
女同士も悪くない……ですわね。
会場が大騒ぎになりましたわ。
殿方も令嬢も皆さま等しく顔を赤らめておりますの。
「あっ……。あ?」
王子がわたくしたちのことを指さして固まっていますわ。
暫くして愉快な仲間たちと共に再起動してこちらに歩いて来ようとしますが、それを皆さまに阻まれていますわ。
「フロー……ぐふっ」
「「「「マリー……げふげふげふんっ」」」」
「「「フローレンシア様、マリーベル様おめでとうございます」」」
「ありがとうございます。……なんですの?」
「ありがとうございます!」
あの、皆さま……。皆さまが足蹴にしているのはこの国の王子と愉快な仲間たちですわよ?
気が付いていらっしゃらないのかしら。
いえ、気が付いていながら踏んでいらっしゃる方もいますわね。
「この方々はマリーベル様が聖女になる前まで身分を笠に着てマリーベル様を半ば脅しながら付き合わせていたんですよ」
「まぁ! そうだったんですの!」
「ええ、マリーベル様に覆い被さろうとしていたこともありましたわ。それを見た時は私、どれだけ"ゾッ"としたことか。最もマリーベル様は殿方のき、急所を蹴り上げてご自分で危機から脱出しておられましたけど」
そんなことがありましたのね。
マリーベルが自力で脱出したと聞いてわたくし、とても安堵しましたわ。
ではわたくしも王子の頭を踏むことにしますわ。
「ていっ!」
「ぎゃふん」
ふむ。こうしてみるとわたくし、彼のこと愛してなかったんですのね。
むしろ嫌いに近いですわ。
そう感じると今日のエスコートをほっぽかれた件も含めてふつふつ怒りが心に溢れてきましたわ。
この方、俺様俺様で自慢話ばかりで鬱陶しかったですし、わたくしのお尻を事故を装って触って来るような方なんですよね。
そんな方を愛してると錯覚してマリーベルを虐めたわたくしが恥ずかしいですわ。
「私、虐められてませんよ?」
マリーベル、心を読まないでくださいまし。
わたくし、これまでの鬱憤を王子に晴らしましたわ。
最後の方「もっと踏んでくれ」って何かに目覚めていたのは気のせいですわよね。
この国の未来が心配になりましたわ。
数ヶ月後。
わたくしたち結婚しましたの。
国内初の同性婚で最初こそ国全体がバタバタしましたけど、当日には収束致しましたわ。
マリーベルと豪華な馬車でパレードなどしましたのはいい思い出ですわ。
ところでわたくし、改めてマリーベルを虐めようとしていますの。
聖女相手でもわたくしは遠慮致しませんわ。
今日の夜――――。
――――失敗しましたわ。
マリーベルったらわたくしが行動開始するより先に動き出しましたの。
あれは獰猛な獣の目でしたわ。逆らったら殺されますわ。
わたくし成すすべなくマリーベルの獲物となりましたの。
体が怠いですわ……。今日一日休ませて欲しいですわ……。
わたくし、それでもまだまだ諦めませんわよ。
マリーベルを虐めるんですの!!!
2020/06/21 文章を少し修正・加筆しました。