父さんの想い!
「はははっ! かかってこい! この俺様【イケメン漆黒忍者】ナード様が相手してやるよ!!」
黒い頭巾を被ったままで、下半身丸出しのナードが女達を追い回す。
そこは闇闘技場であった。
帝国から遠く離れた街に存在する裏施設。
ここは英雄ナードの安息の地であった。
闘技場の戦士達は……ナードの手下達が連れ去った仲の良い夫婦……
夫は戦士として殺し合いをする。
妻には夫の殺し合いを見せながらナードが乱暴を働く。
ここはナードとその配下にとって楽園であった。
そして連れさられた夫婦にとっては地獄であった。
「ぎゃはははっ!!! 俺って最高!! 超絶ハッピー!! あ、ヤベ、頭潰しちゃった」
闘技場で戦っていた夫が叫ぶ。
「あ、あああ!!! わ、私の妻が……くそ……殺してやる!!」
ナードに襲いかかる一人の男。ナードの配下はにやにや見ているだけで止める気配が無い。
男の剣がナードの鼻先を掠める。
「はい残念でした〜」
ナードが夫の額を押す。
「あ、あぶ、し……」
襲いかかった夫の頭は破裂してしまった。
英雄はこの世界に取って無くてはならない存在。
しかし、一部の者が英雄の本性を知っている。
ナードに施設から逃げ出した夫婦。
剣聖の屋敷から逃げ出した男の子達。
魔術の被験者になった異形の者……
そして出来あがった組織がある。
反英雄組織「魔王軍」。
だが、そんなチンケな組織では英雄に立ち向かう事が出来なかったのである。
ナードが呟く。
「そういや、内通者情報ではうちの闘技場にテロリストが来る日だっけ? 楽しみだぜ!! 熟女いるかな? ひゃひゃっ!」
その時、見回りをしていたナードの配下が闘技場内に焦った表情で走ってきた。
「ナ、ナード様!! て、敵襲です!!」
ナードが不敵に笑う。
「はははっ!! 祭りの時間だ!!!」
*************
俺のゲートスキルは成功した。
そしてなにやら目の前には闘技場のような物がある。
リスコとシズエが辺りをキョロキョロ見回す。
「ここがノワールがいた世界……」
「な、なんだ? ここは闘技場か!? こ、興奮してきたぞ!!」
俺は深呼吸をした。
――やっと帰ってこれた……俺は強くなったはずだ……この二年間の異世界生活は死闘の連続だった。……うん? この気配は!?
俺の身体中の細胞が沸き立つ感覚に陥る。
――男臭さを感じる。
――汚い気配を感じる。
――俺はこれを知っている!
「ナーーーーーード!!! 見つけたぞ!!」
俺は異世界で得た力を開放する。
何もない空間から機械時掛けの武器が放出された。
俺は開放した武器を右手に取り、闘技場に向けて構える。
武器は唸りをあげて光を収縮させる。
集まった光が開放された!!
リスコとシズエが叫んでいた。
「……ノワール。超素敵……僕たちも臨戦態勢に入るよ! ――マシンガン兵召喚!」
「うおぉぉ! かっこいいぞノワール!! 私も負けないぞ! ――鬼装甲換装」
光の質量が闘技場にぶち当たる。
闘技場の上から半分が消滅した。
俺は叫んだ!!
「行くぞ!! この臭いの元をぶち殺すぞ!!」
俺は半壊した闘技場に乗り込んだ!
闘技場に乗り込むとナードを発見した。
俺の頭が真っ白になりそうになる。
――落ち着け、あいつは腐っても英雄だ。どこまで強いか計り知れない……
ナードとその手下は闘技場で誰かと戦っていた。
――うん? 仲間割れか? ……いや様子が少し違う……あれはテロリスト集団か!?
よし、関係ない。とりあえずナードをぶち殺そう。邪魔するならば容赦しない……
俺はナードの元へと突っ切っていった。
ナードが笑いながらテロリスト達を切り刻む。
頭巾で隠れていてもゲスな顔が分かる。
「ひゃひゃ!! 弱っちいんだよ!! あ、お前女だな? しかも熟女だな? ひひ、お前は生かしてやるよ……後でたっぷり楽しんでやるぜい!!」
俺は武器を取る。
それは短剣だ。
……父さん、母さん。俺は……この短剣で仇を取るよ。
「ナード!!!」
テロリストを相手にしていたナードが俺の方を振り向いた。
「あん? てめえ誰だ?」
ナードは首をかしげていた。本当に俺がわからないらしい……
「……誰だよ、てめえ。早く言えよ。殺した後だと聞けないだろ?」
こいつにとって、父さんと母さんを殺したのは石ころを蹴ったと同じくらいの感覚なんだ……
「二年前……帝都の宿屋……夫婦を殺して、火を放ち、そして……俺を処刑台に追いやった……」
ナードが手を叩いた。
「あ!? ああ〜、あのヤり損ねた熟女の息子か!! あ、てめえ処刑から逃げやがったな!! 俺が今ここで処刑してやるよ!! てめえら殺っちまえ!!!」
ナードの配下が俺たちに襲いかかってきた。
――コイツは本物のクズだ。許さない……
俺に切りかかろうとした忍者の首が落ちる。
手裏剣を投げようとした忍者の身体が裂ける。
「な、なんだこの女は!?」
「武器が効かないぞ!!」
「ちょ、まって……あばば!!!」
リスコ達のマシンガンによって穴だらけになる忍者。
シズエの拳によって頭が粉砕される忍者。
ナードの配下は一瞬で殲滅された。
ナードの気配が変わる。
強者のそれへと変化していった。
「くわっはははっ!! 面白い。雑魚の相手に飽きてたところだ。……おいクソガキ、てめえは見てるだけか? 女に守られてるだけのクソ野郎じゃねえか? てめえタイマンもできねえのか? 男ならタイマンだろ!!!」
俺はナードに一歩近づいた。
「ふん、いいだろう。一対一で正々堂々と勝負したやろう」
「はん! かかってこいや!!! ――影分身の術!!」
リスコとシズエが俺に向かって強化異能をかけた。
「――フィジカルブースト! ――エンチャントウェポン! ――クイック!!」
「――怪力無双! ――死に戻り! 天地天命! ――一撃必殺!」
俺の身体が光り輝く。
ナードが叫んだ!
「ちょ、待てよ! それは卑怯だろ!!!」
「うるせー!! 正々堂々に一対一だろうが!! ――武器生成、無限の短剣!」
俺の右手にあった短剣を空中に放り投げる。
空中で静止した短剣が増殖する。
空が暗くなる。
短剣が空を埋め尽くした。
「な、なんだその力は!? イカれポンチのナイトハルトと同じ魔力を感じるだと!? くそ!! コイツは撤退だ!! あばよ!!」
――流石クズだけあって撤退の判断が神がかっているな……だが逃さねえよ!! 俺の父さんの短剣をくらいやがれ!!!!
父さんの短剣が流星のようにナード軍団に落ちていった。
その一つ一つは致死の一撃。
ナードの頭が消失する。
ナードの身体に穴があく。
風圧だけでナードの身体が切り裂かれる。
悲鳴を上げる暇さえない。
これは戦いじゃない。
――これは俺の復讐だ!!!
闘技場が父さんの短剣で埋めつくされた。
「さて……収束」
地面に刺さった短剣が消える。
俺の手に一本の短剣が収まる。
「リスコ!! 頼む!!」
「はいさ!!」
リスコがへんてこな機械を操る。
「あ、ここにいるよ! ていうかこっちの世界の英雄ってしぶといんだね……まさかあの攻撃を耐えていたなんて……」
俺は何もない空間に向かって短剣を刺した。
「ぐっぅぅぅ……くそ……なんでわかりやがった……俺の奥義を見破るとは……」
全裸のナードが徐々に姿を現す。
シズエが呟いた。
「……ちっちゃ」
俺は短剣を刺したままナードに告げた。
「てめえは臭えんだよ……あの程度の攻撃で死んだら俺の憎しみが消せねえよ」
「……この程度……逃げてやるよ……ぐは!? な、なんだそれは!?」
短剣から黒い物体が生まれでた。
それはナードの身体に覆いかぶさるようにゆっくりと動いていた。
「あん? これは俺の父さんの呪いだ。……お前を殺すのは俺じゃなくて父さんなんだよ!!!」
ナードがもがき苦しむ。
「な、なんだこれは……痛い……苦しい……悲しい……俺は……」
「ふん、父さんと同じ苦しみを味わいやがれ……」
「あ、ああ、ああああ、あああああああ、飲まれる……やめろ! 俺は、俺は……」
黒い物体が完全にナードを包み込んだ。
俺はそこに時間停止のスキルを使った。
シズエが結界の儀式を取り、黒い物体周辺を固定化する。
「よし……これでこいつは父さんの苦しみを一生味わう事になる……父さん……仇は取ったよ……」
俺は空を見上げた。
そして誓う。
「俺がこの世界を変えてやるよ!!!!」
俺たち以外消え去った闘技場跡地で俺は吠えた!