幼馴染なんて幻想だ
レオンハートと英雄たちが帝国城にある英雄円卓の間に集まっていた。
「さて、みんないるな? 今日の会議を始めよう。まずは最近起こるテロリストについてだ。……こいつらは俺たち正義の執行者である『英雄』を目の敵にしている。そんな奴らを許せるわけない。どんな手を使ってでもぶちのめせ」
レオンハートの隣にいる女、ピーコが資料を英雄達に渡す。
聖女ミニが手を上げて発言をした。
「はいはーい。最近ナードの奴が暴れまくって隠蔽が大変です。あいつの性欲をどうにかしてください!」
ナードも手を上げて発言する。
この円卓の間では最強のレオンハルトが絶対的な存在である。
規律に厳しいレオンハルトは規律を守らない奴らには制裁が躊躇無く与える。
「ちょっと待てやこら! お前だってこの前のガキをいたぶってるだろ? お前も十分変態なんだよ!」
筋骨隆々な【渋いおじいちゃん剣聖】ビルドが手を上げた。
「のう……その男の子は……可愛いのかのう? わ、儂にも味見させてくれないかのう??」
「はっ、てめえきもいんだよ、クソジジイ。あんたの家には一杯ガキがいるだろ? それで我慢しろよ!」
「ふぉふぉふぉ、そろそろ攫ってこないといけなくてのう。最近消費がはげしくてのう……」
レオンハルトが手で英雄たちを制した。
ここに集う英雄七人。
確かに民衆のために魔物を倒す。
確かに正義のために犯罪組織を潰す。
その裏では膨大な被害者を出していた。
「はははっ! 元気があって大変よろしい!! 大きな悪を倒すためには犠牲がつきものだ! 結果を出せば俺たちは何しても構わない!! 帝王様の許可も頂いている! 俺たちは特別だ! さあ俺たちの正義の執行の時間だ! 愚民どもを俺の正義で助けるぞ!!!」
「「おおぉぉぉ!!!」」
自分達が善だと信じて疑わない、頭のイカれたクズ英雄全員が雄叫びを上げた!!
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俺は闇の中を彷徨っていた。
狂いそうになると、俺の力が発動して俺は壊れないでいた。
心をほんの少しだけ強くする……
この時ほど俺の力を恨んだことはない。
俺は狂えない。
そして身体に打ち込まれた賢者の石のおかげで身体が徐々に回復してしまう。
その回復はゆっくりだ……しかも傷がひどく痛む仕様だ……
あいつの趣味丸出しの道具。
もしかしたら誰か助けてくれるかも知れない。
――だけどそんな期待すてろ。レティの態度を見ろ。俺は……
そんな時俺が監禁されているミニの部屋に誰が訪れた。
レティが俺の側へ駆け寄る。
「私よ、レティよ! ノワール? 良かった……少し話しできるかしら?」
レティが俺の手に触れる。
前と同じ温かいぬくもりだ。
思わず涙が出てしまった。
「う、うう。レティ……俺は……俺は……」
「うん、いいのよ。この前はひどい事言ってごめんなさい。……ノワール、本当の事を話して? というかあなたの罪はもう決定しているのよ……あなたから罪の告白をしてくれたら減刑できるかも知れないわ」
「俺は……殺してなんかいない……」
「違うのノワール、そんなの関係ないの。私はノワールに生きて欲しいの! だから嘘でもいいから自分がやったって言って!」
――レティと生きる……か
俺は考えた。レティは俺の幼馴染。結婚を誓いあった中。
もしかしたらまだ……
「わかったレティ……俺が……殺……した」
突然、レティの口角が上がる。あの聖女を思い出す嫌な笑い方だ。
「あははっ! レオンハルト様!! 私が自白を取りましたよ! 褒めて下さい!!」
コイツは誰だ?
幼馴染の皮を被った悪魔が幼馴染と同じ声で喋っている。
レティの後ろにレオンハルトが現れた。
その右手には録音可能なスマートマジックを持っている。
「ありがとうレティ。僕は公正な裁きをしたいから、これで心置きなく処罰できるよ! 君は英雄の才能があるね! すぐにでもスカウトしたいよ!」
「へへっ……あ、ありがとうございます」
俺の心は壊れそうになるが、力がそれを食い止めてくれた……