やっぱり夢じゃなかった
目が覚めたら幼馴染のレティの顔が見えた。
「ノワール! 大丈夫! ああ、聖女ミニ様がいなかったらあなた助からなかったわよ!」
どうやら俺は病室にいるようだ。
俺は悪夢を見ていたと思いたい……
きっと家には父さんと母さんが待ってるはずだ……
レティの言葉がそんな甘い期待を壊した。
「おじさんとおばさんだって亡くなっちゃって……ノワールも死んじゃったかと思ったわよ……」
――ははっ、そうだよな。夢のはずなんてない。俺の心に刻まれた傷は忘れない。
「おやおや、もう起きて大丈夫なの?」
「あ、聖女様!! そ、それとレオンハルト様!?」
英雄レオンハルトが爽やかな笑みを浮かべて、聖女ミニは嫌らしい笑みを浮かべながら病室の入り口に立っていた。
勇者レオンハルト。
魔王と呼ばれる者を討伐した真の勇者。英雄達のリーダーとして組織のトップに君臨している。
優しげで爽やかな顔立ちと屈強な身体。
その佇まいはまさに勇者。
……俺の憧れでもあった。
だけどもう見てくれだけじゃ判断できない……だってこの女の仲間だ……
レオンハルトが俺を諭す様に喋った。
「……君が犯人だね? ミニから聞いたよ。……残念ながら君を拘束しなければならない。ふぅ……ミニとナードがいなかったら大惨事になっていたよ」
――俺が……犯人? 何を言っているんだ?
「まさか実に両親と口論して家を燃やすなんて……しかも目撃者のミニを短剣で刺そうとするなんて……君は卑怯者だ! この私が断じて許さない!!」
「え!? ち、違います! 俺がそんな事するわけない!! ナードが父さんと母さんと殺したんだ!!!」
レオンハルトとレティが眉をひそめた。
――え、レティ?
「ちょっとノワール……幻滅したわよ……英雄のナード様がそんな事するわけ無いじゃん!? むしろあんたを火の中から救出したのよ! とんだ恩知らずね!」
「……君は両親を殺したショックで混乱している……今は休んで裁判に備えてくれ……」
レオンハルトは病室を出ていった。
聖女ミニは無言でニヤニヤと笑っている。
困惑している俺を見て嬉しそうな表情だ……
レティは俺を罵った。
「あんたがこんな外道だとは思わなかったわ……もしこのまま結婚していたらを思うとゾッとするわ……あ、待って下さいレオンハルト様!! 英雄候補になるためのお話聞かせて下さい!!」
レティはレオンハルトの後を追って病室から消えてしまった。
ミニが大笑いした。
「はははっ! どうだ? 長年寄り添っていた幼馴染に罵られた気分は? くくっ、全く見ていて気持ちの良いものだ……ナードが熟女専門じゃなかったら餌食にしたかったのにな!!」
「なんで……なんでこんな事をするんですか!! 何が目的ですか!! 俺たちはただ……普通に生きていただけなのに……」
「うん? ただの暇つぶしだよ? 私は君を気に入ってしまってね……まさかあそこまで耐えてくれるとは思わなかったわ!! あ、君が寝ている間に君の身体には安物の『賢者の石』を埋め込んでおいた。これで『ヒールリジュネ』をかける手間が省ける! ……さて、治療という名の暇つぶしを再開しよう!」
俺の二日目の地獄が始まった。