本性を見せた英雄
「ここが今日の宿か……まあ悪くないな……」
「……センスが良いわね。期待しましょう」
七英雄のうちの二人、忍者ナード様と聖女ミニ様が、本当に家の宿屋に来てくださった。
俺たちは緊張しながら歓迎の挨拶を恭しく行った。
ナード様は黒い装束を身にまとい、強者の気配を強く感じる。
……だけど、目が怖い。
母さんを見る目が酒場で飲んだくれているクズ冒険者のそれと変わらないことに気がついた。
聖女ミニ様はとても背が低いけど、キレイな黒髪で整った顔立ちだ。まさにプロマイドと同じでとても可愛らしい姿であった。
……でもなんでだろう? 凄く……トゲトゲしている印象だ?
――大丈夫、だってあの正義の味方の英雄様だよ?
俺は心の中で自分に言い聞かせた。
父さんと母さんは英雄様達を部屋に案内することにした。
この世界には特殊な力を持つものが生まれてくる。
個人差はあるけど、様々な力が世界に溢れている。
英雄さま達はその中でも絶大な力を誇り、それを正義のために民衆のために力を尽くしてくれた。
ちなみに父さんの力は数字を一瞬で理解することができる。
母さんは魅了の力を持っていた。
そんな力があるからこの宿屋は安泰であると信じて疑わなかった。
俺はちっぽけな力しかない。
心がほんの少しだけ強くなるだけ。
宿屋の息子には必要が無い力だ。
騎士団を目指すにはあまりにも低位過ぎる力だ。
……でも俺はこれでいいんだ。将来レティと結婚できれば……
一厨房で一人、英雄様の料理の準備をしていたら、ひどい物音が上から聞こえてきた。
――まさか英雄様がここにいることが誰かにバレて侵入してきたとか?
と俺はそう思ってすぐさま英雄様の部屋に向かった。
「おい、俺の夜の世話が出来ないってどういう事だ! 俺は英雄だぞ? お前らのために日々この世界を守ってるだろ!!」
ナード様が激昂して父さんの胸ぐらを掴んでいた。
ミニ様はベットに腰をかけて葉巻をスパスパ吸っていた。
手には最近発売された小さな連絡端末【スマートマジック】をポチポチしていた。
「ナード、うるさいよ。そんなババアどうでもいいじゃん? ていうかうるさいから対戦負けちゃったじゃないの!? ちっ!」
俺は目を疑ってしまった。
正義の味方である英雄達の蛮行。
現実味がない。
母さんが床で倒れて泣いていた。
服が半分破られていた。
父さんが苦しそうに英雄様に言った。
「ナ、ナード様……我が宿屋ではそういった商売はしていません……もし女性がご入用でしたら……街の高級娼館を……ご案内いたします……」
ナードが父さんの腹を叩いた。
父さんは部屋の壁にのめり込んでしまった。
「あん!? 俺に商売女をあてがうってか? このバカチンが! 俺は人様の女を奪うのが好きなんだよ! てめえは俺にヤラれている女房をみてろや!」
頭が展開についていかない。
足が震える。
なんでこんなことになったんだ?
さっきまで英雄様達が来るのを楽しみにしていたのに……
母さんが起き上がって父さんのそばへ駆け寄る。
「あ、あなた! ああ……わ、わかりました……わ、私で良ければ……主人をこれ以上傷つけないで下さい……」
母さんが泣きながらナード様に訴えた。
「はぁ……初めからそう言ってればいいんだよ。面倒な手間かけさせやがって……おい、息子、てめえもおふくろがヤラれているところ見てろよ?」
ナード様が俺を睨んだ。
俺は恐怖で身体が動かない。
ナード様が自分のズボンのベルトを外した。