最愛の家族
この世界には英雄がいる。
世界中の人々が英雄達を祭り上げている。
英雄たちは日々、人々を救い、その活躍は活字になり、戯曲になり、英雄グッズが大ヒット商品として販売されている。
もちろん俺もレティも英雄に憧れていた。
レティの部屋には英雄第一位レオンハルトのポスターが飾られている。
彼女が騎士学校に通う理由は、英雄候補の一人になりたいからだ。
俺はレティとのデート? を終えた後、家に家に帰ることにした。
俺の家は帝都で有数の宿屋である。
小さいながらもセンスが良い丁度品と手厚いサービスで高位冒険者や成金たちに大人気の宿屋である。
俺は宿屋の裏口から入ると、母さんが厨房で宿屋のレストランで出す料理を作っていた。
「あ、おかえりなさい! デートは楽しかった? レティちゃんに嫌われる事しなかった?」
母さんは十八歳の俺を育てているとは思えないほどの美貌である。
優しくて、でも厳しいところもあって……俺は母さんが大好きだ。
父さんも厨房に入ってきた。
宿屋の大将というよりも、どこぞの貴族の執事みたいな服を着ている。
父さんもやっぱりかっこいいな。もちろん父さんも大好きだ!
「おう、ノワール、おかえり。……今夜は大変なお客さまが泊まることになったぞ!」
普段寡黙な父さんが大興奮していた。
「あらあら、どうしました? ふふ、子供みたいにはしゃいじゃって……」
母さんが優しい目で父さんを見つめる。
そんな二人を見ると、俺は本当に愛されて生まれたと実感できた。
心が暖かくなってくる。
俺は父さんに聞いてみた。
「誰が来るの? この前Sランク冒険者が来た時でもそんなに興奮してなかったのに……」
父さんが俺の肩に抱きついてきた。
「はははっ! 驚くな、なんと……帝都が誇る英雄様の二人、【漆黒の忍者】ナード様と【聖女】ミニ様が今夜泊まることになったんだ! 今夜は英雄様のために貸し切りだ!」
母さんも胸に手をあてて喜んでいた。
僕も大興奮だ。
「え!? 凄いよそれ!! あ、レティに言っちゃ駄目だよね? レティ……英雄様達の事大好きだから……」
「うーん……流石に極秘だからな……サインぐらいならもらえるかもな。英雄様が帰ったあとに渡せよ? なーに父さんに任せろ! お前の恋の応援をしてやるよ!」
「やった!! 父さんありがとう!!」
こうして俺達は英雄様達が来るのを楽しみに待つことになった。
それが悲劇の始まりだと思いもしなかった……