釣り針
というわけで俺たちは今帝都の高級宿屋にいる。
ここは俺の父さんのライバル宿屋であった。
金は闘技場に転がっていたからちょっくら拝借しておいた。
豪華なベットにリスコが小さな身体を埋める。
「わーいふかふかだ! うーん、もっと文明レベル低いと思ったけど、そんな事無いね? 普通のスマホの代用品もあるしね。……ていうか魔力? が電力の変わりになってるんだ」
シズエは椅子に腰をかけて紅茶を飲んでくつろいでいた。
「うむ、悪くない味だ。……街も活気がある。そして英雄達の商品が至るところにあるぞ。まるで日本の秋葉原みたいに街中英雄一色で埋め尽くされているな……きもっ」
二人は俺の境遇を知っている。
俺が受けた壮絶な仕打ち……
俺の復讐相手を……
前の世界で俺は、あいつらの憎き仇を殺すのを手伝ってあげた。
あいつらはそれを恩に感じて、この世界での俺の復讐を手伝ってくれることになった。
初めは損得だけの間柄だったが……いつしか本当の仲間に変わっていった。
俺は二人に告げる。
「さて、さっきテロリストの親分にメッセージアプリで連絡を取った。今から俺が帝都を攻めるからお前らも本気だせ、ってな」
「さすがノワールね。いつの間にか親分さんとメル友になってるなんて!」
「流石ノワール! ハッキングの天才!」
というわけで俺は力を開放した。
いきなり空間から武器を取り出す。
右手に持つ武器は刀。
左手にはハンドガン。
「ちなみにここの店主は俺に石を投げつけた奴だ。ていうかこの帝都で俺に石を投げてないやつっていたのか? ……全員有罪だ!! 騒げば英雄が出てくる! どうせレオンハルトはもったいぶって最後まで出てこない! さあ宴の始まりだ!!!」
俺は剣を振り下ろした。
剣圧で空間が歪む。
高級宿屋が異界化した!
俺は宿屋を出ると、呆然としている宿屋の主人とその家族がいた。
俺は覚えている。こいつら全員俺に石を投げつけたやつだ!!
「わ、私の宿屋が!? 何が起こったんだ? と、とりあえず英雄警察に連絡をして……」
スマートマジックをピコピコ操作している。
「……よし、これであとは待つしか……ってお客さん! もしかしてあんたがこれをやったのか!! このクソガキ!!」
やっと俺を認識できたか。
「お前、二年前俺に石投げたろ?」
宿屋に主人とケバい女将と馬鹿面なチャラそうな息子が大笑いした。
「あ! お前あの邪魔だった宿屋の息子じゃねーかよ! ははっ! いい気味だったぜ! 超繁盛していて美人のカミさんがいてよ……死んで超ざまぁだったぜ!! お前も今から英雄様に殺されるんだよ!」
「けけけっ!! あんたが親を殺したんだって? 鬼の子ね!! うちの子と大違いね!!」
「ちょりーす! あんたが噂の親殺しの脱獄犯? サインもらえないっすか? 後でTWISTERにアゲるんで!」
俺は刀を腰に納め、無言で宿屋の主人の肩を握った。
「へ!? い、痛いって……ねえ君!? ちょ、ちょっと、あ、ああ、ギャーー!! ぐふっ!?」
肩の肉を握りとった。
その肉を主人の口の中へ突っ込む。
さて、石、石、石……あった!
俺は道端の石を拾った。
「きゃーー! 殺人犯よ! 助けて!! 主人が! がぼっ……」
ぴーちく喚く女将の口に石をお見舞いした。
石は脳漿をぶちまけてはるか彼方へ飛んで行く。
「お、おお、スゲ!! これを投稿すれば一躍有名人! がはっ!?」
俺の投げた石がチャラ男の金的を爆散させる。
下半身に大きな穴を開けて崩れ落ちた。
宿屋の主人が倒れ込みながら後退る。
「やめてくれ……金か? 金ならいくらでもやる!! 俺の命だけは……ぴぎゃーー!!」
俺は小石を投げる。
宿屋の主人の身体に丁度埋め込まれる強さ。
俺は何度も何度も投げつける。
やがて全身石だらけの肉の置物が完成した。
「ふう……ここからが本番だ! 行け!」
「はいさ! リスコの仲間を召喚よ! ――アメリカン・ドリーム!!」
「ノワールの敵は死を!! 来たれ我が軍勢!! ――新鮮組!!」
俺が作った異空間から異世界の偉人が飛び出した!!
ドリームと新鮮組が帝都の街を無慈悲に破壊する。
その力は絶大!
帝都民はなすすべもなく虐殺されていく……
「はははっ!! 腐った奴らには死を!! そして俺がこの世界を作り変えてやるぜ!! ……うん? 来たか」
愉快な仲間達の進撃が止まる。
それを止めたの二人の英雄。
聖女ミニと剣聖ビルド。
「この悪党共め! この私、聖女ミニがお仕置きよ!!」
「ふぉふぉふぉ……若い男は儂の者! ……なんじゃ……もう適齢期過ぎてるのじゃ……けっ」
クズ英雄が俺の前に立ちはだかった!!!
――釣り成功!!




