30話 加護
右手がないという現実を目にしたからか右腕に激痛が走る
たまらずうめき声をあげ左手で右腕を押さえる。
「チッ、ヒョロ! 回復魔法使えるやつ呼んで来い。マユゲ! 湯ときれいな布探してこい!」
「「りょ、了解っス!」」
親方が指示を飛ばしているのが聞こえるが足に力は入らないし意識もふわふわしている。
なんで切られてんだよ。意味わからん……
次第に痛みも感じなくなってきた。
魔法があるみたいだし死ぬことはないんだろうけど……
死ぬことはない……
そういえば誰かに言われた気がする。
それも割と最近。
2か月は死なないとか言われたな。
森の王に。
じゃあ死なないのでは?
ぱっと目を開いて冷静に傷口を見る。
すでに出血は止まり、傷がふさがり始めていた。再生効果だ。
このままだと追加で右手が生えるかもしれないので慌てて切断された右手を拾い、向きを確認して切断面を合わせると、30秒ほどで右手の感覚が戻ってきた。
「セーフ……いやアウトだがセーフ」
右手をグーパーしながら安堵のため息を漏らす。
「ひっ……!」
ふと顔を上げると殿下と護衛の武人と目が合って思わず小さな悲鳴が漏れる。
やばいまた切られたらたまらん。
首を落とされても生きているという保証はないし試したくもない。
ダッシュで親方の後ろに隠れる。
「親方、あの人マジでヤバイっす。あとはお願いします」
対処は親方に丸投げし急いで寮の部屋に戻って鍵をかける。
鍵に意味があるかどうかはわからないが今日は部屋で大人しくしていよう。
そうとも。俺は武器を作りにここに来たんだ。
余計な事をする必要はないんだ。
などとブツブツ言いながら小一時間素材を削ったり砕いたりしているとドアがノックされる。
「バラシさーん、親方が呼んでるっすよー」
ジャンくんだ。
「いないって言っといて」
「大丈夫っスよ。殿下は帰られましたから心配ないっスよー」
そっとドアを開けて周囲を伺うが他には誰もいない。
しぶしぶと部屋を出て解体部に向かう。
親方が椅子に座って待っていた。
ヒョロくんは作業中だ。
「カリアゲ、手首は大丈夫なのか?」
「ええまぁ、ごらんの通りです」
と手首をぷらぷら振って見せる
「聞きたいことはいろいろあるが、ひとまず魔族を代表して謝らせてもらおう。すまなかったな。」
「親方が謝ってどうするんですか。謝るならあの刀野郎ですよ! マジ許さん。」
許さんならどうすると言われても困るが、絶対に許さん。
「魔族ってのは結構ああいうのが多いんですか? 話せばわかるもんだと思って油断してましたよ。」
親方に当たっても仕方がないが感情を抑えられない。
あームカムカする。
「奴……ネス・ネイピアはいわゆる近衛騎士という立場だが、王家に対する忠誠心が異常でな。王家に仇なすと判断すれば人間族だろうが魔族だろうがためらいなく斬る。独自の判断なのでトラブルは多いが迷いがないので護衛としては有用ってわけだ。魔族全員が奴のようなわけじゃない。」
ネスか。覚えたぞ。
心のデスノートに名を刻んでやる。
「まぁ、間違って斬っても生きていれば魔法で何とかできるからお目こぼしされている部分もあるが……そこでカリアゲ、お前の話だ。どうやって傷を治した?」
「あー、話ってそれですか。」
俺は森の王の呪いで2か月(厳密には残り50日程度)以内に剣を作らないと死ぬが、その間は加護(?)によってそうそう死なないと言われた事を伝えた。
「森の王自身の再生能力が異常でしたからね。加護も似たような効果があるんだと思います。」
できれば体感したくはなかったが、ちょっとだけ森の王に感謝した。
「そういう事だったのか。魔法も使わず傷を治したのは俺もそうだが殿下も驚いておられたからな。詳細を知りたがっておいでだった。」
しかし……と親方が続ける。
「その森の王とやらは相当格が高い魔物のようだな。古代種や神獣の類かもしれぬ。そんな魔物が剣を欲しがる理由は興味があるな。」
横で話を聞いていたジャンくんがテンション高めでまくしたてる
「バラシさんすごいっスね! 人間なのに期間限定で不死身じゃないスか! ちょっとドラゴン狩りに行きましょうよ」
「そんないいもんじゃないよ。痛いのは変わらないし、戦闘に関しては手首切られても気づかないぐらいの素人だよ。冒険なんて無理無理。」
ついでに言うと時間は惜しいしな。
ていうか近所にドラゴンいるの?
「ネスの剣技が優れてるとはいえ一切反応できないのはこの辺りでは珍しい。生きてる魔物と戦うのはやめた方がいいだろうな。」
親方、ダメな方で認定するのはやめてもらいたい。
それが事実だとしても。
「自分は解体屋ですからね。危ない事はしませんよ」
早いとこ剣を作り上げて、こんな物騒な所とはおさらばしたいところだ。




