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辺境ギルドの解体部へようこそ【連載版】  作者: I/O
第一章 辺境の村の解体部へようこそ
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1話 ファンガスラビット

「いらっしゃい」


 片田舎の冒険者ギルドの解体部に来客は少ない。


「今日は何を持ってきたんだい?」


 男女ペアの子供が大きなウサギを差し出す。

 ヤン君とマオちゃんだ。

 二人合わせてヤンマオだ。惜しい。


 彼らはこのギルドでは貴重な冒険者見習い達だ。

 雑用レベルの依頼は誰でも受けられるので家計の足しにするために子供が来ることもある。


「おお、ファンガスラビットか。なかなかいいサイズじゃないか。

 今夜はご馳走だな!」


 ファンガスラビットは森のキノコを好んで食べるウサギの魔物で毒が効かないという特徴があり、未消化の毒物がある可能性があるので内臓は廃棄するが肉は食用で結構うまい。


「薬草を集めていたらコイツがいたから、前にもらったボーラってやつで捕まえたんだ!」


 ヤン君は得意げだ。

 ボーラというのは(おもり)の付いた3本のロープを根本で束ねたような武器の一種で、振り回して投げつけることで対象に絡まり動きを封じることができる。

 とはいえ当たるかどうか、絡まるかどうかは運次第だ。


「よくやった。プレゼントした甲斐があったというもんだ。

 さて、こいつをどうする?」


 胸を張る少年の頭を撫でてやる。


「毛皮と肉にしてほしいの!」


 マオちゃんが待ってましたとばかりに言う

 確かにファンガスラビットの手数料は安い。しかし薬草集めの報酬も安い。

 自分たちでできるようにした方が後々のためにもなるだろう。


「そうだな。今日はヒマだからこいつの解体を教えようか。」


 獲物を作業台に移動させ手袋をつけて子供たちを手招きする。


「やったぜ!」


「ヒマなのはいつもじゃない?」


 喜んで作業台に近づくヤン君の傍ら素朴な疑問を呈するマオちゃん。

 マオちゃんかわいらしいのに辛辣だね。世の中にはそっとしておいてほしい現実もあるのだよ?


「ファンガスラビットの解体はとても簡単だ。

 まず手足の先を切り落とし、首回りの皮にぐるっと切れ込みを入れる。

 首の皮は柔らかいから切れ込みを作れば手でも裂けるぞ」


 手足にナイフを当てて叩き切り、首根っこの所からナイフを入れて皮を切り裂いてく。


「ここまでできたらあとは切れ込みから引っ張るだけだ。やってみろ」


 作業中のファンガスラビットを子供たちに渡す


「うん! マオは頭を持ってて! ボクが引っ張るよ!」


「わ、わかったわ!」


 マオちゃんはおそるおそるファンガスラビットの頭をつかむ。


「そうそう。切り込みの所をつかんで、裏返すように引っ張るんだ。」


 ヤン君は切り込みを対角線上につかんで力をこめる


「いくよ! せーのっ!」


 勢いよく引っ張るとすぽーんと皮がはがれ、勢い余って尻もちをついてしまう

 毛皮が残った頭ときれいに皮がなくなった胴体を置いてマオちゃんが駆け寄る


「ヤン! 大丈夫!?」


「大丈夫。びっくりしただけだよ。こんなに簡単に皮がはがれるとは思わなかったね!」


 ファンガスラビットに限らずウサギ類は皮が柔らかくよく伸びるので、

 とっかかりさえあればブドウの果皮のようにつるんとむけてしまうのだ。


「上出来上出来。

 あとは内臓を処理したら解体はおしまいだ。」


 胸から腹にかけて縦一文字に切り込みを入れて内臓を取り出す。


「この辺のファンガスラビットは皮膚から入る毒を食べることはないけど、念のため手袋をして作業するようにね」


「「はーい」」


 注意事項を説明しながら作業を進め、心臓の表面に1つだけついてる黒い米粒のようなものを取り出して見せる。


「この小さい石が魔物の象徴である魔石だ。

 このサイズだと買取はないから記念品だな。」


 魔石を水で洗って少年に渡す


「よく見ると深い青でキレイだねー」

「ほんとだー」


「これはマオにあげるよ!」

「わぁありがとう!」


 ヤン少年は魔石をマオちゃんにプレゼントすることにしたようだ。

 やるなヤン君。イケメンになれるぞ。


 毛が付いたままの首を落とし、半身ずつに切り分けて袋に詰めてそれぞれに渡す。


「今度捕まえたら自分でやってみるよ! ありがとうバラシのあんちゃん!」

「ありがとう!」


「気をつけてな。内臓はちゃんと穴を掘って埋めるんだぞ。」


 手を振って少年たちは帰っていった。

 バラシというのは俺の事だ。解体屋(バラシ屋)だからバラシ。

 わかりやすい。


 使った手袋を片付けナイフを熱湯が入った鍋に放り込む。


「うむ。いい仕事をした。」


 あー、見てたらファンガスラビットのシチュー食べたくなってきた。

 今夜はシチューにしよう。



「バアァァァラアァァァシイィィ?

『うむ。いい仕事をした。』じゃないでしょ」


 栗色ショートボブの少女が現れた。

 同僚のミセリだ。


「たたでさえ売上少ないんだからちゃんとお金もらいなさいよ」


 若干キツめとはいえ美人と言える顔立ちなのだが金にうるさい。

 片田舎の零細ギルド支部なのだから諦めたらいいのに。


「薬草クエスト達成してくれてるからサービスだよ。

 貴重な冒険者は大事にしないとな。」


 依頼を達成すると依頼料の3割がギルドに、残りが冒険者に支払われる。

 この辺の塩梅はギルド支部によってまちまちだ。



「だいたいアンタが解体受けるときに手数料を素材でもらったりするからー」


「あー小言はあとでな。そんなに眉間にしわ寄せると美人が台無しだぞ。

 ところで用があるから来たんじゃないのか?」


 小言が始まると長いので食い気味に返すと

 ミセリはぱっと額に手を当ててから改めて俺をにらみつける


「この口ばっかり調子がいい刈り上げめ……

 サケヌケールの在庫がなくなったから補充しといて。

 ちょっとはギルドの売り上げに貢献しなさいよ?」


「了解。あと刈り上げじゃなくてツーブロだからな?」


 俺がビシっと指差しポーズを決めるとミセリはフンと鼻を鳴らして事務所に戻っていった。


 サケヌケールは俺謹製の二日酔い解消ドリンクで、ギルドでは数少ない人気商品だ。

 その中身は毒を無効化する性質を持つファンガスラビットの骨を煮込んだスープをドロドロになるまで煮詰めたエキスにミントの絞り汁を少量入れて飲みやすくしたもの。

 二日酔い薬と銘打ってはいるが実は毒消しの効果がある。


 解体屋はナイフについた脂を落とすため常にお湯を沸かしていて

 そのため長時間の煮込み作業を燃料代を気にせず行えるのだ。



 冷蔵倉庫から小瓶を5つほど出して販売部の棚に並べる。

 販売部と言っても事務所の受付に併設の小さな売店だが。

『二日酔いを一発撃退!サケヌケール1本大銅貨3枚!』とポップが貼ってある。

 こういうところミセリは有能だ。返す返すも片田舎には惜しい。


 もうすぐ日が暮れる。

 閉店時間が近い。



 そんな中、辺境ギルドの解体部に本日二人目の客が訪れる。


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