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現代ファンタジア 第2章  作者: 草野 雅
現代ファンタジア 第2章
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07


「おぉ、香絵じゃないか」

にっこりと笑ってこちらへとやってくるのは、眼の前に広がる日本豪邸の主人。

後月会宇月組頭であり、後月会5代目である。

この人は、どうやら自分にとても好意を持ってくれているらしく、来たら絶対に寄ってきては話をしたがる。

香絵も5代目のことは嫌いではなかった。

むしろ、大好きだ。5代目とその姐さんが、香絵はとても好きで、本当に自分の父母ならどんなにいいだろうと考えるほどだ。

「お久しぶりです」

ぺこりと頭を下げる。その様子に5代目はうんうんと頷いた。

そしてクシャッと髪をなでられる。

「元気そうで何よりだ。今日はどうした?」

「茅様に会いに参りました。婚約者ですので」

そう言うと、5代目は悲しそうな顔をした。

わかっている。どうしてこの人がそんな顔をするのか。

香絵に悪いと思っているのではない。婚約者とさんざん言われて育ってきた香絵にごめんという感情は一切持っていない。

それより、まだそんなことを言っているのかとわかってもらえていない悲しみの目だ。

「香絵、お前はもう」

「翻すおつもりですか?堅気の女にあの方をとられてもいいと?」

すらすらと出てくる嫌味。

前までは重くて仕方がなかったこの嫌味も、今日はどうってことなかった。

たぶん、知暁に話を聞いてもらえたからだろう。

彼に話を聞いてもらえて、香絵さんがしたいなら、そうすればいいと太鼓判をもらえたからだ。

香絵に迷いはなくなった。だから、あとはやるのみなのだ。

「香絵、いくらのお前でもそんな言い方は」

「あら、最初に私を娘にしたいと仰ったのは、あなたではありませんか。うちの頭はもうそのおつもりです」

六木組は、後月会の中でも戦闘要員だ。強い人がかなり集まっている。

そんな六木組と戦いになってみろ。

次期6代目が選んだ堅気の女をよく思わない組は、六木組だけではない。

恐らく、12あるうちの組のうち、10組ほどは反対派だろう。

残りの2つの組の内一つは、ここ本元の宇月組。一番強い戦闘力がある宇月組でも、10組と闘うのはつらいだろう。

香絵を選べば、そんな必要などない。六木組は強い戦力を保持している後月会の右腕的な存在。

その香絵だからこそ、婚約者を名乗っていいのだ。

「私を拒めば、どうなるかお分かりでしょう?」

クスッと妖艶に笑って、香絵は頭を下げてその場を去った。

5代目は、その香絵をじっと見つめている。

辛いと思う。娘同然として愛情を注いでくれた娘がこれなのだから。

だが、香絵だって後には引けないところまで来ているのだ。


「何しに来た」

ぶすっと突然の来客を睨みつける。

どうやら、彼女とお付きとその彼女、計4名で騒いでいたらしい。

次期6代目、茅にとって、このときは宝ものなのだろう。

香絵がそう推測して、心の中で笑った。

あの、人を馬鹿にしまくった子が、よくもまぁ、たった一人を見つけられたものだ。

きっと、彼女はこの人のもとで後悔するに違いない。

我儘、俺様、天下太平、唯我独尊とそんな言葉が頭につくのが、茅である。

「何をしに来たとは、またすげないお言葉ですね。私はあなたの婚約者でしてよ?」

「それは、断ったはずだ」

「あら、それはあなたが『俺、彼女できたから』という戯言ですか?」

戯言と言われて、茅の顔が少しだけ赤くなる。

どれだけ茅が彼女にいれあげているのかを如実に語っていた。

ただし、あまりに小さい変化すぎて、香絵以外に気づくものはいないけれど。

「戯言でよいでしょう?どうせ今の関係です」

「そんなこと、誰が決めた」

「誰がとは?では茅様。お伺いいたしますけれど、どうやってその堅気の女を姐にするおつもりで?」

茅がくっと唇をかんだ。宇月組は、彼女のことを認めている。

それは、彼女の人となりがそうさせたのだろう。そしてここの組員は、肌で茅がどれだけ彼女が好きかを感じているのだ。

だから、認めた。だが、外の他の11組は違う。

11組は彼女がどんな人かなんて知らないし、知る必要さえないと思っている。

堅気。それだけで彼女は認められないのだ。

「彼女を姐にすれば、11組が黙っていませんわよ?もちろん、我が六木組も。そして」

一瞬だけ、にこりと笑って茅のお付き、飛竜を見る。彼も昔よく遊んだものだ。

「飛竜殿がいらした、羽月組も」

「羽月は俺とはもう関係ありません」

「あら、そうでしたか?申し訳ございません」

うふふと笑って、香絵は飛竜を見た。

飛竜は香絵を悲しみながら睨んでいる。

昔、茅と3人で遊んだ記憶がそうさせるのだろう。

香絵だって、あのときは良かったと思う。

大人の思惑も、何もかもなかった時代。だからこそできた、絆。

でも、今は絆を出す時ではない。

「愛人ぐらいにしておきなさい。それがあなたと、この組、後月会引いて、彼女のためにもなるのですからね」

そう言って、香絵は立ち上がる。

その動作は洗練されていて、美しかった。

だが、部屋にいる4人にそんなことを気づけるものはいなくて。

「では、御前失礼。あなたも、いい気になって妻の座は狙わないようにね」

でないと、恐ろしいものがやってくるわよ。

クスッと笑って香絵は出て行った。

部屋の中は静まり返っている。

恐らく、茅が怒り出すだろう。気にするなと彼女の友人が慰める。

そんな光景が目に見えて、香絵は笑ってしまった。




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