人生での空気の読み方
朝食を食べ終わった俺達はドラゴンモドキという魔獣を購入した。
この世界で通常の移動手段は馬か徒歩が多いが、このドラゴンモドキは暑さ、寒さに強く馬よりもスピードが速いという優れた魔獣だった。
ただ、繁殖力が馬よりも弱く値段は馬の10倍する。
それでも、馬よりも戦闘力も強いため貴族や王族の移動に使われることがおおかった。
リウスは今回ドラゴンモドキを2頭購入していた。
それに幌馬車をつないで水や食料などを積み込む。
普通の庶民の感覚ではありえないのだが…。
リウスさんにそのあたり大丈夫なのか聞いてみると、
「大丈夫ですよ。それなりに長く稼いでいますから。」
とにこやかに言っていた。
もしかしてかなり年齢が上なのかと思ったので、
「そんななに長く…」
と言ったところドラゴンモドキが恐慌状態になりそうなくらい怯えていたので、
「…若いのにそんなに稼げててすごいですね。」
と言いなおすと嬉しそうに
「エルフの秘伝ですっ♪」
と言っていたので危なく踏んではいけないものを踏むところだったのを理解した。
危ない。せっかく買ったドラゴンモドキも使い物にならなくなるところだった。
ドラゴンモドキも本来扱いが難しいとされている魔物の一種ではあったが、俺の魔物使いの能力と、リウスの威圧で、というかほぼリウスの威圧でかなりおとなしくなった。
本来ならば、調教で午前中が潰れてしまってもおかしくはないのだが、ものの数十分で準備が終わった。
それから俺達は二人で王都を目指すことにした。
今までこんなきれいな人と旅をしたことがないので正直ドキドキしている。
時々横目で見てしまう。
でも目があった瞬間に俺の目を見ながら微笑みを返してくれるリウスにドギマギしてしまって、だんだんと目を見れなくなっていた。
目で殺すというのはこういうことなのだろうか。
師匠に相談したくなった。
夜の旅は、夜目がききにくいドラゴンモドキでの旅では夜はしっかり休むことになっていた。
別にドラゴンモドキがまったくみれないわけではなかったが、それでも夜進むことは疲労につながり事故の原因になる。
事故は結果として足を止め長時間の拘束につながるため、急いでいても休める時に休むのが鉄則だ。
「マイルさん、テントの準備お願いしてもいいですか?私は料理を作ってしまいますね。」
リウスに声をかけられてこわごわ聞いてみる。
「あのーテントなんだけど…。」
「ん?どうしました?もしかして立て方がわからないとか?それならば一緒に手伝うので大丈夫ですよ。」リウスはにこやかに答えてくれる。
「いや、そうじゃなくて…。」
「…」
言葉が詰まっている俺にたいしてリウスはせかすことはなく、
「大丈夫ですよ。ゆっくりマイルさんの話したいことを話してください。」
そう言って俺の手を握ってくれた。
実は俺には苦い思い出があった。
前のパーティの時に初めて野営する時に俺がテントの準備をしようかと聞くと、
リーンが、
「あんたね。そうやってゴチャゴチャ言っているあいだにさっさと準備をするのよ。ホント使えないわね。一度生まれる前からやり直した方がいいわよ。」
そう言って後頭部にジャンプしながら蹴られた。
実は、師匠が俺のためを思って作ってくれたテントがあった。
それを使えばだいぶ時間が短縮になるのだが、リーン達は俺の話しを聞いてはくれず、それどころか俺の提案をことごとく却下した。
何かを話そうとすれば、
「黙れ。」
何かをしようとすれば、
「動くな。」
そのため今回もテントをはれと言われた時に提案するかどうか迷っていたのだ。
「リウスさん…せっかくテントを準備してもらったんですけど、実は師匠から仲間ができた時にってテントを預かってまして…前の仲間だと…使えなかったので…その…。」
「マイルさんはその師匠のテントを使って寝たいってことかしら?」
「はい…。」
最後の方は蚊の鳴くくらいの声になっていた。
リウスは少し考えて、
「一度見てみましょう。それで快適な方を選ぶっていうのはどうかしら?」
リウスは両手を胸の前であわせながら俺に聞いてくる。
「とてもいい考えだと思います。ここでだしてみてもいいですか?」
「いいわよ。じゃあ準備できたらば呼んでね。先に私は料理しておくから。」
「わかりました。」
俺は師匠から渡されたテントをマジックボックスから引っ張り出す。
「マイルさんできました。」
そこには大きなゴルという地方の放牧民族が使う簡易式の家が建っていた。
「…リウスさん…これは…?」
「えっと…やっぱり師匠の家はまずいですよね?前のパーティの時はとりだすことすら許可されなかったので、やっぱりしまいます。」
「いやいやいや。しまわなくていいですよ。中はどうなっているんですか?」
俺がドアをあけてリウスさんを招きいれる。
中にはベットが5台と家具一式、そして水の魔石を使ったシャワー室と簡易トイレ、それに暖炉と夏用に風の魔石を使った扇風機が置いてある。
「あれ?リウスさん?」
リウスは完全に固まっていた。そのキレイな顔が崩れるくらい唖然として。
「あの…俺なにかやらかしました?」
リウスの首は油が切れたロボットのようにぎこちなく、ギッギッギっと動いて俺の方を見る。
なんだろう。やっぱりやらかしてしまったのだろうか。
「これは…前のパーティの人は知らなかったの?」
「はい。」
「それもそうよね。こんなの知ってたらば…。」
それから何か一人でブツブツ言っていたが、
「うん。マジックボックスの容量とかあきらかに異常だけど、気にしたところで意味がないから美味しい料理でもつくりましょう。」
「えっと…じゃあこれはこのまま使っても…。」
「もちろん大丈夫よ。それに何か他にも前のパーティでは言えなかったことがあったらばドンドン教えてね。」
そう言って二人で料理を作ることになった。
俺のマジックボックスから、前に捕まえた虹色鶏を取り出してさばいたらば
「こんな高級食材を…。」
ってまた美人が台無しになる顔してたけど、喜んでくれたならばよかった。
リウスは
「あのマジックボックスは市販のものと違って中に入れといても劣化しないのね。それにどれくらい入るのかも気になるわね。」
そんなことをブツブツ言っていたけど聞かなかったことにしておいた。
師匠、俺ちゃんと空気ってやつが読めてきてます。