最弱の魔物使いの特技を披露してみた。
この世界で魔物使いの能力値は数ある職業の中でも最低レベルだと言われている。
一つは魔物を使って戦いその魔物が得た経験値の10分の1を魔物使いが獲得するため、他のメンバーに比べて成長が遅いというのと、慣れてきた魔物使いは段々と魔物に守られることが当たり前となり自身で戦闘をすることがなくなってしまうためと言われている。
ただ、マイルの師匠はその考えに否定的だった。
マイルは自分の両親のことをあまり覚えていない。
ただ、この世界では珍しい魔人と多種族のハーフだった。
この世界の魔人は世界を支配をたくらむような典型的な人類の敵とされている。
ただ、魔人の中にも人類と友好的に過ごしたいと思っている変わった魔人がいた。
その中の一人がマイルの父だった。
マイルの父たちは森の奥に住み、人類と魔人の争いにも参加せずにゆっくりと生活していた。
その村には色々な理由で街で住めなくなった多種族が混在していて、その時に母と出会ったらしい。
マイルの父はあまり話し好きではなかったが、マイルに
「お前は家族に望まれて生まれてきたんだよ。」
そうよく話をしてくれていた。
ただ、マイルの記憶の中に母の記憶はなかった。
マイルの父との最後の記憶は父が人間たちに殺されたこと。
数週間前に森で迷った商人を父たちが助けたところ、王都の兵たちに隠れ里を教えたのだ。
父たちは最後まで話し合いをしようとしていた。
でも、その言葉は届かなかった…。
マイルはその街で魔物使いをしていたドワーフに抱えられ命からがら森のさらに奥へと逃げた。
その人が師匠になるドワーフの魔物使い『クロリア』だった。
クロリアは俺に人と敵対しないで生活することの大切さを教えてくれた。
「今はこんな時代だから、お前の父は殺されてしまったが誰かを恨んじゃダメだ。他人を許せる強さをもて。」
そう何度も言っていた。
クロリアは正直頭のいい魔物使いではなかった。
ただ、魔物を使った戦闘や自身の強化、仲間のサポートにはたぐいまれな才能を持っていた。
師匠の教えの中でこんなのがある。
「例えばだけどな。
相手がレベル5の冒険者でこっちがレベル5の魔物を使っていたとする。
ほぼ同レベルだと冒険者を倒すのはほぼ不可能だ。
竜種など特別な魔物ならば別だが、このあたりで仲間にできるのでは良くても相打ちくらいだろう。
でも、もしここで俺が戦うことになれば?レベル5の冒険者同士+サポートの魔物になるだろ?
そうすれば負けることはなくなるんだよ。」
そしてこれはパーティを持った時でも威力を発揮する。
パーティメンバー1人1人を魔物がサポートをして相手の攻撃をずらしたり、身代わりになることで格段に勝率があがるのだ。
ただ、マイルも扱う魔物の数が増えれば増えるほど、自分は魔物の指揮に忙しくなり自分が戦闘に参加することは少なくなる。
それに、マイルにはミルクという最強の仲間がいる。
ミルクはマイルが初めて仲間にした魔物だった。
出会ったときミルクは古竜の古巣の中で生活していた。
普通古竜の住みかの近くにいく魔物はいない。
まわりには最近まで古竜が生活していた跡が見られたが、古竜たちの生死は不明だった。
ミルクは人間を恐れることがなかったため、マイルが餌を与えると嬉しそうにしていた。
師匠に従魔にしたいというと、
従魔にするための方法を教えてくれた。
それがマイルの魔物使いになった瞬間だった。
師匠はマイルにあまり余計なことは言わなかった。
スライムが最弱だとか、魔物使いは最弱な職業だとか。
師匠は魔物使いごっこをしているくらいにしか思っていなかった。
だが、魔人の力はマイルにものすごい才能を与えた。
その為、マイルとミルクのコンビは今までの常識にとらわれずどんどん強くなっていった。
本人も戦えるし、魔物を使ってサポートもできる。
かつて誰も見たことがない最強の魔物使いになっていた。
マイルが15歳になった時、クロリアは森からでて街で暮らせと言ってきた。
世界は広いのだから自分の目でいろいろな物を見て来いと。
そして色々な便利な道具をくれた。
クロリアは思った。
この青年ならば世界を変える働きをしてくれるのではないか。
そうしてマイルは街におりることにした。
ただ、クロリアは知らなかった。
マイルは今まで常識の中で生活をしてこなかったので世間と考えがずれていることを。
マイルは言われた通り冒険者登録をして受付嬢から言われるままに薬草採取のみを実施してランクを一つあげた。
その後、銀色の翼に誘われることになったのだが、銀色の翼では自由に動くことを禁止されていた。
前衛で戦おうとすれば、邪魔だと蹴られ。
攻撃をしようとすれば、魔物使い風情が余計なことをするなと殴られた。
「トロイ!!」
「クズ!」
「ゴミ!!」
マイルは最初どういう意味かわかっていなかった。
今までそういった感情をぶつけられたことがなかったのだ。
徹底的に魔物でのサポートと魔物を使っての荷物持ち的な立ち位置だった。
でも、マイルにとっては自分の力が仲間に必要とされていると思うと嬉しかった。
銀色の翼最後のクエストででマイルが従魔をかばったのはリーンが怪我をすることはないと思ったのと、リーンをカバーする従魔がいなくなることでその先の戦闘に支障がでると判断したからだった。
ただ、その結果リーンは運悪く怪我をし、クエストは失敗してしまうのだが、本来であればマイルがいなければあそこまでたどり着くことはなかっただろう。
ただ、銀色の翼にいてよかった点はある。
それは少しだけ人と会話をするという能力を身につけられたこと。
銀色の翼のメンバーが残念だったのは。マイルの話しをきちんと聞かなかったこと。
もし、マイルの本来の能力を知っていれば切り捨てることもなかっただろう。
★
森の中を進むマイルとリウス、そしてミルクの姿があった。
「こっちへ進んでいますね。」
マイルの追跡能力で街道から森の中へ入りモデデビルを追いかけていた。
マイルは魔物使いの魔物追跡という能力を使っていた。
魔物追跡は使用者の集中力を高め、五感をフル活用させて痕跡を逃さないようにする魔法だ。
この能力は人間にも応用ができるのだが、今までマイルは魔物との追いかけっこくらいでしか有効活用はされていなかった。
今回の相手は痕跡を隠そうともしないため迷うことなどない。
「マイルさんすごいですね。こんな森の中を迷わず進めるだなんて。」
「いえ、小さい時に森の中で住んでいたことがあったので。」
マイルは余計なことは言わないようにした。
銀色の翼の時に最近まで森で住んでいたといった途端に田舎者扱いされて急に扱いが雑になったのを思い出したからだ。
「しっ!止まってください。」
マイルが見つめるその先にはモデデビルたちが数匹群れをなしている。
幸いにもこっちは風下のためまだ、相手には発見さえれていないようだ。
「リウスさんどうしますか?」
小声でリウスに聞く。
「モデデビルだけならばそれほど脅威ではありませんので、さっさと退治して子供を連れ帰りましょう。」
そういうとリウスは剣を抜きながら恐れもせずに進んでいく。
「ギャーグー!!」
モデデビルたちが威嚇の声をあげる。
その時、群れの奥からモデデビルをさらに二まわり大きくしたモデデビルの主のようなものがあらわれる。
「グールーグググ、ガガガ」
「えっ?」
リウスさんは表情を変えずにモデデビルに切りかかる。
モデデビルはリウスの攻撃を避け武器だけを吹き飛ばした。
リウスさんはショートソードを抜く!
「リウスさんちょっと待ってください!相手に敵意はありません。」
モデデビルは追撃をしてこようとはしなかった。
「ガウッ!ガウッ!」
「リウスさんどうやら子供を保護してくれているようです。」
リウスは驚いた顔でマイルを見る。
「マイルさん…あなた魔物の言葉がわかるんですか?」
「えっと…上級の魔物の言葉ならばなんとなく…ですかね。意思の疎通ができない魔物の場合は雰囲気で伝えたいことはわかるって感じですね。」
「ガウッ!」
モデデビルのボスが一声鳴くと、誘拐されたと思われていた子供が群れの奥から連れてこられた。
子供の服は破けていたが、怪我はなさそうだ。
その服の破れ方に特徴があった。
「子牛野ねずみか?」
子牛野ねずみは子牛くらいまで大きくなったねずみで、他の魔物の子供や人間の子供を平気で襲う。
親がいればまず襲われることはないのだが、たまにこういったことが起こる。
「ガルル!ガウッ!ガウ」
「その人間の子がモデデビルの子を助けようとしてくれて怪我をしたからここへ連れてきてくれたようです。それで、ボスが治療をしてくれたみたいですね。」
モデデビルは人間と敵対する意思はないという。
モデデビルはその子に恩を返したかっただけだという。
このまま森の奥へと帰るというので子供を預かって引き上げることにした。
「マイルさん…普通魔物と話せる人間なんてそれこそ、国の上の方にしかいませんよ。そんなことができるならば…」
「そうなんですか?うーん。でも戦闘にならなくてよかったです。」
マイルがにこやかに笑いかけると、
「はぁいろんな意味ですごい人とパーティを組んでしまったようですね。でも、その魔物と話せるのはあまりおおっぴらに言わない方がいいですよ。」
「大丈夫ですよ。敵対してくる魔物がほとんどなので普通ならば会話にならずに戦闘になってしまいますから。」
魔物の言葉がわかると知った時、俺は少しだけ魔物と争いのない世界が…なんて思った時もあった。でも結局、お互いが憎しみに憎しみを重ねている今の状況では話し合いなどは無理だった。
その無理を俺は通そうとは思わない。でも、今後できるならば…。
「リウスさん、俺のこと信じてくれてありがとうございます。普通はだいたい信じてもらないので。」
「うん。むこうにも敵意がないのがわかっていたからね。」
「前のパーティの時は誰も信じてはくれなくて俺の力発揮できなかったので、リウスさんのためにどんどん力使っていきますね。」
「うん。頼りにしてるよ。これからもよろしく。」
そう言ってリウスは手を出してきた。
俺はその手を握り返し、何か胸の中で温かいものが大きくなったきがした。