一緒に旅にでないかと誘われました。
そこはすごく温かい場所だった。
ぬくぬくの手触り。もしかして…ここが天国なのだろうか。
確かにあれだけ痛かった身体の痛みがなくなっている。
地獄にいくような悪いことはしていなかったと思っていたが天国へこれて幸せだ。
パーティ仲間といた時は俺だけいつもソファの上だった。
個室やベットなんて使わせてくれなかった。
誰よりも早く起きて部屋の片づけや掃除、飯作りがあったから別にそれでも良かった。
でもふわふわの布団。
もう死んでもいい。
いやもう死んでいるんだっけな。
これからどうしようか。
死んでしまった以上このまま寝ていればいいのかな。
「起きました?」
そう声をかけてきたのはとても美しいエルフのような女性だった。
「…エルフの女神様?」
その女性は一瞬クスッと笑うと、
「私はエルフですけど女神ではありませんよ。さぁさぁうつ伏せなってください。」
そういうと俺は言われるがままにうつ伏せになり、背中に手を当ててくれる。
回復魔法を唱えているようだ。
じんわりと背中が温かくなる。
「幸せだ~。」
また俺の意識はそこから遠のいていった。
「それにしても、これだけ回復が早い人も珍しいわね。」
女神様が俺を褒めてくれたような気がしてそのまま気分よく寝入った。
次に目が覚めた時、俺の顔にひんやりとした冷たいものが当たっている。
なんだろう。このポヨポヨ感。
このやわらかい弾力。クセになる感触はもしかして…。
うっすらと目をあけるとそこには見覚えのあるスライムがいた。
「ミルク?」
そう声をかけると嬉しそうにぷよぷよ動いている。
ここは…あたりを見渡すとどこかの部屋の一室だった。
部屋の窓から空にきれいな2個の満月が浮かび上がっているのが見える。
「グゥ~~~~!!」
盛大にお腹が鳴る。
そう言えばクエストに行ったときの夜飯から食べていない。
今夜ということは…少なくとも1日はご飯を食べていないようだ。
部屋の外からクリームシチューのいい香りがしてくる。
クリームシチューは色々な野菜をごちゃまぜに入れてそこに少しのお肉を入れるだけのお手軽料理なのにもかかわらず栄養をまんべんなくとることのできる万能料理だ。
魔牛からとれる牛乳をふんだんに使ってつくるシチューは身体の回復を早め、魔力を回復させてくれる。
旅の途中で魔力の回復薬の変わりにもちいられることもある。
あまりにお腹が空き口の中がよだれでいっぱいになっていた。
俺はベットから起き上がり部屋をでた。
身体が少しふらつく。
身体の痛みはほとんどなくなっていた。
こん棒で殴られ曲がった膝も…大丈夫だ。
多少の違和感はあるが別に異常はない。
どうやらば俺はまだ天国へは行けてないらしい。
でも、こんなに完璧に治せるだなんて王宮専属の魔術師くらいではないか?
やっぱり死んでいるのか?
部屋から出ると俺に気が付いた女性が声をかけてきた。
「あら、もう起きたんですね。大丈夫ですか?」
「めっ女神さま?」
どうやら天国は意外と庶民的らしい。
女神さまは笑いながら
「ハハハ、まだ言ってるんですか。私は女神ではありませんよ。エルフのリウスと言います。」
「あっ初めまして、マイルといいます。あの…俺はどうして?」
「冬の寒い夜に川のほとりで倒れていたんですよ。そこのスライムさんが私のところに助けを求めにきてくれて。」
従魔の契約を解除したはずのミルクが俺を助けるために人を呼びに行ってくれたのか。
俺は涙を流しながらミルクを抱きしめる。
ミルクは嬉しそうにポヨポヨ動いている。
「助けて頂いてありがとうございます。」
「もうすぐシチューができますから今後の話しはそれからしましょう。」
そういうと席で座って待っているように言われ、温かいシチューができるまでミルクを抱いてまっていた。
かなりの怪我をしたはずだったがすっかりどこも痛くない。
あれだけの回復魔法を使えると言うことはかなり上位の回復術師なのだろう。
「さぁどうぞ飯あがれ。」
誰かに温かい料理を作ってもらうのは何年ぶりだろうか。
仲間ができても俺がずっと料理担当をしていたから誰かが料理を作ってくれるということはなかった。
温かくて美味しい料理を食べながら俺はまた涙を流していた。
「あらあら。」
そう言いながら、リウスは俺の頭をなでてくれる。
大人になってはじめて人の目を気にせずに号泣した。
今までこんなに誰かに優しくしてもらったことはなかった。
俺のまわりに集まる人はいつも俺を利用しようとして集まってくる人ばかりだった。
結局仲間だと思っていた奴らにも使い捨てられ、もう死んだと思って人生諦めた時にこんな素敵な人と出会えた。人生はわからないものだ。
俺はおかわりまで頂いてお腹がいっぱいになるまでシチューを堪能した。
こんなに心も体も満たされる料理は生まれて初めてだった。
「ごちそうさまでした。」
そういうと、リウスはタオルで俺の口を拭いてくれた。
まるで子供扱いのようだ。
「ところでマイルさんはどうしてあんなところで寝てらしたんですか?」
俺はかいつまんでリウスに説明をした。
決して冬の川沿いで寝るのが好きな変態でないという話しと、依頼の失敗を俺のせいにされ追い出されたこと、背中からファイヤーボールをぶつけられたこと、自分が魔物使いであることなど説明が下手ながらにいろいろ話をした
話を聞いてくれている途中からリウスさんは俺の為に涙を流してくれた。
「どこかいくあてはあるの?」
「いえ、両親とも今はいないので天涯孤独です。これからのことはわかりません。」
「そう!それは良かったわ。ちょうど私冒険にでようと思っていて頼りになる仲間が欲しかったのよ。」
リウスさんは嬉しそうに俺の両手を握りながら、
「もしマイルさんさえ良ければ、私と一緒に冒険の旅にでてくれません?」
どこへ行くのかも、何が目的の旅かもわからない。
もしかしたらば、またおとりに使われるだけとか、外国で奴隷として売られるのかも知れない。
でも、一度この人に助けられた命だ。
この人の役に立てるならばそれでいいと思った。
それに少しうるんだ瞳の中にとても優しい光が見えた気がした。
もちろん断る理由はなかった。
「こんな俺でよければよろしくお願いします。」
リウスさんはそれじゃあこれから忙しくなるわね。
そう言って片付けをしながらいろいろな話をしてくれた。
リウスさんはエルフで聖霊魔法や回復魔法、その他少し攻撃魔法が使えるということだった。
今回の旅の目的はいなくなった妹を探しに行くこと。
妹さんは2ヶ月まえにこのあたりでは手に入らない薬草を求めて旅にでたそうだ。
いつもならばどんなに長くても1ヶ月くらいで帰ってくるのだが、今回は2ヶ月たっても帰ってこないためちょうど探しに行こうと思っていたらしい。
「こんな初対面の俺と一緒で大丈夫ですか?」
「うん…そうね。確かに危険かも…。でも、悪い人じゃないってエルフの感が言っているから大丈夫よ。」
そう言ってニコリと笑う彼女にドキリとした俺がいた。