神さまのはかりごと
とある町にラチェスタという名前の少年が住んでいました。かれの家は町の川べりにあるそまつな小さな家でした。
ラチェスタが生まれてしばらくして不幸にもかれの親ははじこでしんでしまい、牛かいをしているおじとおばの家にあずけられていました。
かれのおじとおばはラチェスタのことがきらいでした。かれらは本当はこどもが大きらいなのでした。
けれどもしんでしまったラチェスタの親のざいさんがほしかったのでラチェスタを引き取ったのでした。ですからざいさんを手に入れた後は、ラチェスタの事がじゃまでしかたがなかったのです。だからラチェスタがどれだけがんばってもおじとおばはほんの少ししかたべものをくれませんでした。しかもすみかは家のやねうらで、冬はこごえるくらい寒いばしょでした。
しかしラチェスタは自分をひきとってくれたおじとおばのためにかれらの仕事をいっしょうけんめいしていました。まいにち、牛にたべさせるえさのために朝になると、とおくまでつれていって、暗くなるころに帰って来ました。
そんなかれに牛たちもなついていました。それはかれのまっすぐなこころによりそっていたからでしょう。
そのラチェスタのただ一つの楽しみはハーモニカをふく事。
よるおそく、ねるまえの少しばかりがかれの時間でした。ハーモニカをえんそうしているあいだだけはどんなにつかれていても、おなかがすいていてもぜんぶわすれてむちゅうになれるのでした。
夜な夜な聞こえるその美しいねいろに、町の人はだれがふいているのかうわさするほどでした。
しかし子供がきらいなおじとおばだけは、ラチェスタのそれさえも気に入らないのでした。
「また、はたらきもせずハーモニカを吹いているよ」
「ほんとうにろくでもない子供だ!」
ある日、楽しそうにふくかれの事が気に入らないおじはかれがふいているところを見つけてひどくぶちました。
その次の日もふくことを止めようとしなかったので、おじはかれのハーモニカをまどからなげすててしまいました。
かれは大事なハーモニカを追って家を飛び出しました。
あたりはすっかりくらくなっていました。ひっしになって探しますがなかなかみつかりません。
あぶなかったので近づきたくなかったのですが、川べりも探しました。とても暗くてなかなか見つかりません。それに穴だらけのくつから水がしみてきてあしのゆびさきのがこおったようになったころ、かれのハーモニカはぬかるんだどろのなかに見つかりました。
かれはそれを川でよくすすぐと、おじにぶたれたほおを、氷のような冷たい水で冷やしました。すこしだけいたみがひくと、かれはひとけのない静かな町はずれに向けて歩いて行きました。
このまま家にかえってもつらいことがまっているだけだったからです。
ラチェスタはいやなきもちをこらえるように上を向いて歩きました。
やがて町はずれにやってきました。
そこには人がちかづかなくなったぼろぼろの古いきょうかいが有りました。もはや、やねもなくただ壁があるだけのような場所です。
そこはゆうれいが出ると言ううわさもたつほどぶきみな場所だったので町の人はだれ一人近づこうとしませんでした。
だけど色々なきもちで心の中がぐるぐるとうずをまいていたラチェスタは、そんな事も忘れてやってきました。
彼の安心できる場所は、もうここくらいしかなかったのです。かれはここでならハーモニカをふけると思ったのでした。
こけでいっぱいの石の上にすわったラチェスタ。
これまでの事を思い出すだけでいろいろな気持ちがばくはつしそうでした。
それらをこらえて息を大きくすいこみました。それからハーモニカに口を付けてえんそうをはじめました。
かなしい、それでいて力強い音が辺りになりひびきます。まるでかれの心の声がとどくようです。
なだらかに、時には早く。そして強くやさしく。
ハーモニカの音色はまわりをふるわせました。
ラチェスタが息をととのえるためにえんそうを止めると、とたんにさびしい、かなしい、くやしいといったきもちがこみあげてきます。
ふたたびハーモニカに口をつけたその時でした。
「……どうして、ないているの?」
どこからともなく女の子の声が聞こえました。
「だれ?」
ラチェスタがたずねるとしばらくして柱のかげから白くぼんやりとしたすがたの女の子がすがたをあらわしました。
町でうわさされていた女の子のゆうれいです。
ふつうの人であれば逃げ出したでしょう。
けれどラチェスタは気になりませんでした。なぜなら女の子がおそろしいすがたに見えなかったからです。むしろきれいだと思いました。それに、女の子は自分と同じくらいのとしに見えたのです。
女の子のゆうれいとラチェスタはだまったまま見つめあいました。しばらくすると女の子のゆうれいはラチェスタのために静かに歌い始めました。
それはとても美しく、やさしくなでるような声で、まるでこもりうたのようでした。
ラチェスタはしぜんとハーモニカを彼女の歌声に合わせてふきます。
けれど、ハーモニカには投げすてられたときの土がまだつまっていて音が少しくるっていました。
それを聞いた女の子のゆうれいはおかしくなって笑いだしました。
「くすくすくす」
あんまりおかしそうに笑うので、ラチェスタはおこるよりも、つられて笑ってしまいました。
そのようすを見ていた女の子のゆうれいは首をかしげます。
「あなたは、わたしがこわくないの?」
「こわいものか。笑うゆうれいなんてきいたことが無いよ」
ラチェスタは女の子のゆうれいといっしょになって笑いました。
「ぼくはラチェスタ、きみは?」
「わたしはロネ。ロネ・シーラ」
ラチェスタのみなりは穴があいたりつぎはぎだらけの服でみすぼらしいものでしたが、一方のロネの身なりはきぞくが着るようなきれいで美しいドレスでした。
ラチェスタは、ロネがふつうのゆうれいではないと思いました。みょうじがあるということは、生きているころはきっとおかねもちの子供だったのだろうと思いました。
でも二人はおたがいにともだちになれるような気がしていました。なぜなら二人とも音楽が大好きだったからです。
「私、歌う事が大好き! ラチェスタ、もっとハーモニカをふいてほしいわ!」
「わかったよ。ロネ、歌って!」
ロネは歌い、ラチェスタはハーモニカをふき続けました。
わらって、歌って、あんまりむちゅうになっていたので、まよなかになったのもわすれるくらいでした。
それからお話したり、笑ったり、からかいあったり、まるでむかしからしっていた友だちとひさしぶりに会った時のようになかよくすごしました。
いよいよたいようがのぼり始めるころになって二人はひと休みました。
「こんなに楽しかったのはひさしぶり」
「ぼくもだよ。それにしてもロネの声はとてもきれいだね」
「ラチェスタはハーモニカがとてもじょうず」
二人は顔をみあわせて笑いました。
その時、明るくなり始めたちへいせんを見てロネは少しまぶしそうにしました。
「もうすぐ夜が明けるわ。今日はさようならね」
「朝はきらいなの?」
「ひかりのなかではきえちゃうから、きらい」
ラチェスタはハーモニカをポケットにしまうとロネに言いました。
「なら、明日の夜もぼくと歌ってほしいな」
「また来てくれるの?」
「もちろん!」
二人はやくそくをしました。
それから二人はほとんど毎日、夜になるといっしょに歌い、笑いあいました。
二人にとって生まれてはじめて心からしあわせを感じられる日がつづきました。
ところがある日、ロネはラチェスタがときどきくるしそうに息をはくことに気が付きました。
「どうしたの、ラチェスタ?」
「……何でもないよ、ちょっとはりきって息をするのをわすれてしまっただけさ」
ラチェスタがそのようなようすかと思えば、ロネはときどき悲しそうにうつむくことが有りました。
「どうしたの、ロネ?」
「……何でもないの」
「何でもないという事はないでしょう? どうか教えて」
かのじょは口を開きました。
「ラチェスタが居てくれてうれしいの。でもそのかわりにあなたが居なくなったらと思うとほんとうに悲しくなることがあるの」
長い間手に入れられなかったものが手に入ると、それがいつ無くなってしまうのかと不安になるものです。
ロネはせっかくできたともだちのラチェスタが居なくなることをとてもおそれていました。
ラチェスタはあんまり楽しくて忘れていましたが、かのじょはだれも居ないきょうかいに住んでいるのです。さびしくないわけがない。と、ラチェスタは思いました。
「ここにひとりぼっちなの? どれくらい?」
「もう、ずっとずっと前から。このばしょでかぞくとわかれたの。ここにいればまた会えるとやくそくしたのよ。そのときにお母さまからもらったハンカチもずっと持っているわ。とてもいいものだからだいじにしなさいと言われているの」
ロネがラチェスタにみせたそれはすり切れてぼろぼろの茶色い布きれでした。ですが、ずっと昔は、かのじょのいうとおりに上等できれいなハンカチだったのでしょう。
「ラチェスタにかぞくは居ないの?」
「しんせきのおじさんとおばさんがいるけど……あんまりなかが良くないんだ」
ラチェスタはおじにぶたれたほおを押さえました。
「だいじょうぶ? いたそう……」
ロネはラチェスタのほおにそっとふれました。
かのじょの手は氷よりももっと冷たく、いたみも何も感じなくなるほどでした。
「かわいそうなラチェスタ……」
「ありがとうロネ。だいじょうぶだよ。なれっこなんだ」
その時です。町のひろばから大きな音がきこえてきました。
「あの音はなに?」
「あれは明日からおまつりがはじまるというあいずだよ」
「まいとし、ずっと気になっていたの! そうだったのね!」
「神さまにおくりものをして、おねがいごとをすると、だれかに『一つだけ』きせきがおきるんだ」
ラチェスタはロネにおまつりのことを話しました。
「自分のねがいごとをかなえてもらうために、いちばんさむい日に、ほかのだれよりも目立つようにきかざって神さまにおくりものをするんだよ。神さまにえらんでもらえるようにね」
それから一つだけ付けくわえました。
「……だけど、ぼくはかみさまに見てもらえるようなきれいなふくをもってないし、おくりものもできないから、おまつりにはいかないんだ」
ロネはラチェスタのことばをきいてたいこの音がひびいてくる町のほうをざんねんそうに見ました。
「いきたいなぁ。おまつりはたのしそう」
「いやだよ! ぼくはおまつりなんかにいきたくない!」
かれのきいたこともないような大きなこえにびっくりしてロネはふるえました。
ラチェスタは、ほんとうはロネをおまつりにつれて行きたかったのですが、ついロネをびっくりさせてしまって、もやもやしたきまずいきもちになりました。
だからその日、ラチェスタは早めにロネとわかれました。
はじめていけんが合わなかった二人は、はなれてからもかなしい気持ちになってしまいました。
次の日、いよいよまつりの日になりました。
朝から町のひろばではにぎやかなもよおしものがなされました。それは夕方になってもにぎやかでした。
その頃、ロネがとおくからきこえるおまつりの音を聞きながら、町はずれのきょうかいでラチェスタをまっていました。
けれどきのうの、おまつりに行きたくないというラチェスタのことばで、くらいきもちになっていました。
そこへいっぴきの白いフクロウがとんできて、こわれかけたきょうかいのかべにとまりました。
フクロウは言います。
「あわれなゆうれい。これいじょうあの子にかかわるのはおよし」
「どうして? どうしてそんな事を言うの?」
「――君はゆうれいだ。生きている人をじょじょに冷たくして、いずれはころしてしまう。きみはかれのことをふこうにするつもりなのかい?」
「……そんなことは思っていないわ! だけど、だけど……」
ロネは目に涙をためて今にも泣き出しそうです。
フクロウは首をぐるりとまわすと言いました。
「かれのことがたいせつなら、もう会ってはいけない。きみとかれはいっしょにいてはいけないのだ」
フクロウの言うとおりでした。ラチェスタとはじめてあった時から、かれの手が少しずつ冷たくなっているのはかのじょも気が付いていました。
ロネはそれがゆうれいである自分のせいである事もわかっていました。ロネはこれ以上かれのそばにいると命をすいとって、いずれはかれがつめたくなって死んでしまうというふあんをかんじていたのです。
「もう、ラチェスタに会うことはできない……」
ロネがかおを手でおおって泣きはじめると、フクロウは目をつぶってそれっきりだまってしまいました。
一方のラチェスタはおじとおばのいえでるすばんをしていました。
夕方になって、とおくから祭りの音が聞こえてきます。
かれはにぎやかな祭りにさんかすることもなく、ただやねうらべやでぼんやりとその音を聞くだけでした。
ラチェスタはロネに祭りを見せたいと思っていたのに、つい行きたくないと言ってしまった自分にこうかいしていました。
その時、かべにあいた穴からいっぴきの白いネズミがかおを出しました。
ネズミは言います。
「きみ。ここのところ夜になっては、まちはずれにでかけているようだけど、だいじょうぶかい? いったいなにをしているのだい?」
「ひとりぼっちのともだちに、あいに行っているんだよ」
ラチェスタはため息のあとにつづけました。
「……でも、さいきんはかのじょがかなしそうにしているんだ」
ネズミはしばらくけづくろいをしてから言いました。
「であれば、もうその女の子には会わないほうがいい」
「なぜ? なぜそんなひどいことを言うんだい?」
「――女の子はきみに会うことでさびしくなったのだ」
ネズミは続けました。
「今まで一人でさびしかった女の子はきみに会って、はなれたくないと思ったのだろう――ひどいのはきみの方だよ。きみはかのじょとずっといっしょにいきられないだろう。なのにしあわせを味あわせておいて、それをうばうなんてとてもざんこくだね」
「……そんな、そんなつもりではないのに」
「いまのようなせいかつをしていたらきみはしんでしまうぞ」
ラチェスタはくやしくてハーモニカをにぎりしめました。
ロネがときどきかなしそうなかおをしている事は気が付いていました。それをどうすることもできない自分がくやしくて、やりきれない気持ちになりました。
「ロネ……」
ラチェスタがそれきりだまってしまうと、ネズミは穴のおくに引っ込んでしまいました。
かれはその夜、しずんだきもちで町のはずれに向かいました。とちゅう、立ち止まったり、このまま引き返そうとしたりしました。
でもこのままロネにあわなくなるのはもっといやな気持ちになると思って町はずれのきょうかいにむかいました。
「ラチェスタ! きてくれたのね」
「ロネ……」
ラチェスタにあえてうれしそうな顔のロネ。
えがおのロネに会うとラチェスタのくらい気持ちはどこかにいってしまいました。
やはり来てよかったとおもえました。
その日もいっしょに歌いました。
けれどふたりはこれまでいじょうにいっしょうけんめいに歌い、吹きました。
おまつりはすでに終わっていましたが、たのしそうにあそびました。しあわせなじかんはあっというまでした。
月がいちばんたかくのぼったころのことです。
ふと、ロネが歌うのをとめました。ラチェスタもハーモニカを口からはなしました。
「ロネ。どうしたの? つかれたの?」
「ラチェスタ……もう、あしたからここにきてはだめ」
「こないほうが……いいのかな」
そう言ったっきり、ラチェスタもロネも何もしゃべりませんでした。
ふたりとも、なんとなく今日がたのしいよるのさいごになると思っていたのです。だから今日はおたがいをよろこばそうとしてはりきってえんそうしたのでした。
ふたりはながいじかん、ずっとだまっていました。
やがてロネの目からぽろぽろとたまのようななみだがこぼれました。
かのじょがとても悲しそうに泣いていたので、ラチェスタは何とかロネをげんきづけたいと考えました。いっしょうけんめい考えました。
ほんとうにたくさんかんがえて言いました。
「ロネ、おまつりに行こう。きのうはあんなことをいってごめんね。ぼくもいきたかったのだけど……みてのとおりぼくのかっこうでは、きみにはじをかかせるとおもったんだ」
ラチェスタはじぶんのぼろ服をきたかっこうをはじて言いましたがロネは頭をふってこたえました。ロネはかすれた声でつぶやきます。
「おまつりに、いってもいいの?」
「うん、もちろんだよ。行こう!」
その日はまんてんの星空でした。とても寒い日でした。ラチェスタは冷え切った自分の手よりも冷たいロネの手を取るとまつりのひろばに向かいました。
ラチェスタはいっぽあるくたびにあしがなまりのように重くなるようでした。いきもきれて、むねはくるしくかんじました。けれどそんなことをロネに気付かれないようにげんきをふりしぼってあるきました。
ロネは町に近づくにつれてかなしくなってしまい、やがておとずれるわかれをおもって、なみだがこぼれそうになるのをこらえていました。それをラチェスタに気付かれないようにがんばってやさしくわらいながらあるきました。
しばらくあるいて、まちのひろばにつきました。あちこちがかざりつけられていていますが、すっかりおまつりはおわってしまって、もうだれもいません。
「ここでおねがいごとをするんだよ」
「神さまにおねがいするなんてはじめてよ」
「ぼくもだよ。神さまへのおくりものはぼくがよういしてるからだいじょうぶ。だからロネはなんでもおねがいしてね」
ラチェスタは自分のポケットをたたいてそう言いました。
ロネはこころのそこからうれしくなりました。
「ありがとうラチェスタ……じつは、わたしもおくりものをもってきたの。だからいっしょにおいのりしましょう」
――かみさまは一つしかきせきをおこしてはくれない。
ラチェスタはそういいかけましたがだまっていました。ねがいごとがかなわなくてロネをきずつけたくなかったのです。
すっかりしずまりかえったひろば。
ラチェスタはかみさまへのおくりものをロネからは見えないように、かくすようにしておきました。
それはかれがいちばんに大事にしていたハーモニカでした。
ロネもラチェスタにきづかれないように、そっとおきました。
それはかのじょがながいあいだ大切にしていたハンカチでした。
それから二人はいのりました。たくさんのほしがきらめいて星がさざめくようでした。
(――もしも、願い事がかなうのなら――)
ラチェスタは静かに祈りました。
(神さまどうか――ロネがこれからはさびしくないようにして下さい)
ロネも静かに祈りました。
(神さまどうか――ラチェスタを大切にしてくれるかぞくとすごせますように)
しばらくいのると二人はかおをみあわせました。
「ロネ。かみさまにおねがいごとはできた?」
「うん。ラチェスタ」
ラチェスタがほほえみながらロネの手を取ったとき、ロネのひょうじょうがほんのいっしゅん暗くなりました。
彼の手がさらに冷たくなっている事に気が付いたからです。
そして、ラチェスタはロネがかなしそうにしたのを見て、さびしそうに笑うと彼女の手をつよくひっぱりました。
「ロネ、おどろう!」
「ラチェスタ?」
二人は手を取り合いました。
右に左に、くるくると。
それはもうきえかけたろうそくの火のようでした。しかし消えかけたろうそくはさいごにもえあがります。そんなかなしいおどりでした。
あんまりつづけておどりつづけたので、つかれてあしがもつれると、ふたりともじめんにあおむけになってころがりました。
あんまりおかしかったので、ふたりともこえをあげてわらいました。
もうすこしもげんきはのこっていませんでしたが、しあわせで、たのしくて、うれしかったのです。
その時です。
ながれぼしがつぎつぎにながれはじめました。
光はつぎからつぎにおりてきます。
黄色に赤、白に青。色とりどりのほしぞらがくるくると回りながらふってきます。
まるで夜の空に広がるにぎやかなパレードでした。
はじめて見る美しいそらにびっくりして、二人ともなにも言えずにただ空を見上げていました。
きっと神さまが自分たちにおくり物をしてくれたのだと思いました。
ラチェスタはあまりの寒さにからだはしびれて、二人はつかれてとても眠たくなってきました。
もうあしのちからがぬけて立てませんでした。いきもくるしくてひとことだけ言うのがせいいっぱいでした。
「かみさま……ありがとうございます」
――つらい毎日がまっているのなら。
いまはラチェスタもロネも同じ思いでした。
だからおたがいに手をにぎってはなしませんでした。
そうして星がすっかりおちきったあと、ひろばは静かに、とても静かになっていました。
朝になりました。とおくの丘から太陽がのぼります。
あたたかい光が町を明るくてらしはじめました。
早おきの牛たちがつぎつぎにひろばにあらわれました。
その中でいちばん大きくて白い牛はひろばによく知っている男の子をみつけたので、そのかおをべろりとなめました。
目をこすりながらラチェスタは目をさましました。
すでに朝になっていました。
それからはっとしてふりかえりました。
そこにはねむっているロネが朝のひかりにてらされていました。ロネは光をあびたにもかかわらず、すうすうとねいきをたててねむりつづけていました。
ほおはわずかに赤く、まるで生きているようです。ラチェスタがにぎっていたロネの手は、とてもあたたかく血がかよっていました。
ロネはゆうれいから人間に生まれ変わっていたのです。
ラチェスタは心もからだもぽかぽかとあたたまるのをかんじました。
神さまは小さな二人の幸せをねがいました。
もしも、一つだけきせきを起こすならば――と。