黒鴉
この話のコンセプトに関わる話です。
俺は家を飛び出した。気づかれるような事は無かった。そして、空気を蹴り、屋根に掛けのぼる。一気に加速して屋根の上を音も無く走る。否、音が置き去りにしているだけだ。ただ、俺が早いのではない。
俺はとあるビルの屋上に到着すると、周囲を見渡す。すると、闇の中から白い仮面、白い着物を着た白髪長髪の女が出てきた。
「・・・・・」
「遅いですわよ。ほら、いきますわよ。」
「・・・・ああ。」
俺は厳重に封鎖されたドアを俺のデバイスである黒い二丁拳銃で円形に打ち放ち、ドアを蹴破る。トゲトゲの太陽マークの様に穴が開いた場所から侵入すると、中では警報が既に鳴り響いていた。
「予定通りに。」
「分かっている。」
俺は打合せ通りに目的の部屋を目指す。その階は屋上から二つ下りた場所だ。屋上のすぐ下にはプールがあり、その横に螺旋階段があった。その螺旋階段を飛び降り、プールの水面に降り立つ。
「いたぞ!侵入者だ!」
「くそ!なんでこんなところに!」
このビルの者は皆俺たちを包囲する。そしてマシンガンを打ち放つ。
「打て打て打て!殺しちまえー!」
しかし、全ての弾丸が俺の周囲で何かに弾かれたかのように途中で落ちる。そうして待つこと30秒。硝煙が晴れた所には俺が無傷で立っている。
「な、む、無傷だと?」
「魔法無効の効果があるのに!?何故効かない?」
どうやらこのマシンガンの弾には魔法無効の効果があるようだ。だが、俺の知った事ではない。逆に俺は銃を4発撃ちだす。敵は30人だ。だが、これで十分だ。
「ふん、無駄だ!この防壁は魔法も物理攻撃も無効・・・・。」
その者は既に死に絶えていた。4発の銃弾は跳弾して次々にその場にいた者達を貫通し、命を奪っていく。それも頑丈そうな大楯を簡単に貫いて。
「ふん。」
俺は全員始末したことを確認すると、プールの水面を凍らせて階段に向かう。階段を降りるとそこには長い廊下があった。しかし、一つの部屋の前に白い仮面の女が立っていた。雪のように真っ白な彼女はその空間では異様な存在感を放っていた。
「どうやら当たりのようね。この糞野郎は生活保護の資金を当てにして、人々を救うとか甘言で騙してお金を騙し取っているようよ。最近流行りの弱者詐欺ね。それだけでは無くて、麻薬や闇金融にも手を出していたみたい。」
「・・・・・・。」
俺に異存は無い。ただ悪人を殺すだけだ。白夜叉に調べてもらった物を物的証拠として封筒に入れる。そこに俺は銃を向けて魔法を発動する。空中に浮いたそのファイルにタイマーの数字が表示されるように設置する。これはこのタイマーの表示が0になった時でないとこのファイルには何も出来なくなる。正確には、保護の魔法を掛けた上で、その魔法が効力をなくすタイミングを計算して、光の文字をタイマーのようにした。
「・・・・・・。行くぞ。」
「ええ、いつでもいいわ」
俺と白夜叉は扉を蹴り破る。その中は学校の教室程の大きさと本棚や金の調度品が並んでいた。場所には絵画なども飾ってある。
「なんじゃ!てめーらは!」
銃を向けて発砲してくる。が、俺には効かない。白夜叉も全ての弾丸を空中で弾き飛ばしている。この悪党は慌てて逃げだすが、扉を開けようとしている。
「な、なんで開かねー!」
ドアノブはピクリとも動かない。魔法で固定しているのだから当然だろう。そうして追い詰めた悪党に銃を突きつける。
「お、おい、俺が誰か知っているのか?あのオーディンの社長だぞ!?俺が死ねば多くの物が苦しむのだぞ!」
「お前のような悪党に生きる資格無し。」
俺はその悪党に銃を向けて撃ち放つ。その音を聞きつけてか、多くの武装した者達が部屋に入って来る。
「しゃ、しゃちょおおおお!」
しかし、その光景に驚き動きを止めていた。勿論悪党を生かして置く理由はない。
「あ、あ、お前ら・・・・。あの光のカウントダウン、黒と白の装束コンビ・・・・。お前ら黒鴉と白夜叉か!!?」
一斉に蜘蛛の子を散らしたように逃げ出すが、逃がすはずがない。
「ふふ、やっぱり黒鴉の固有魔法って最強じゃない?」
「どうでもいい。」
蹂躙しつくしてから引き上げる。最後にビルの屋上から社長の首を屋上から落とす。直ぐに銃を向けて魔法を発動する。今は深夜2時だ。5時間後でいいか・・・・。
「良し、解散だ。」
「お疲れ様。また明日、アジトで次のターゲットの確認だって。」
「分かった。」
「えっと、あの、そろそろリアルを・・・・。」
白夜叉が何か面倒な事を言い出したので、無視して帰った。
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ふにっ。
何か僕の頬っぺたを抓る感触が。
ふにふにっ!
「んんんんー。もうちょっと寝かせて・・・。」
ふにふにふにふに!ふにふにふにふにふに!
頬っぺたが高速で弄られる。どうせ加奈だろう。手で払い除けて目を覚ますとそこには・・・・
「おはようございます。棟院君!」
「め、命輪さん!?」
なんと命輪さんだった。けれど、何で僕の部屋に・・・・。
「あれ、なんで・・・・。」
「昨日加奈ちゃんとおしゃべりしてたら長くなっちゃって・・・・。泊まっちゃった。」
てへ、って可愛く舌を出す。これは天然だろうか、ワザとだろうか。あざとい・・・・・。
「そっか・・・。ごめんね、昨日早く寝ちゃって・・・」
「ううん、いいよ別に。聞かれたくない話とかもあったかも・・・だし・・・・」
そっかならいいけど・・・。
「朝ごはんが出来ているから降りて来て!あのね!あのね!私が作ったんだよ?」
「ほう・・・。それは楽しみだ!」
一気に目が覚めて下に降りていく。
・・・・・・・。
ご飯に味噌汁、サラダに焼き鮭だ。
普通に美味しい・・・・。はず!
「く、朝起きたばっかりは味が分からないから、出来たらお昼なんかも・・・・。」
「じゃーん!お弁当出来たよ!」
水色のエプロンを着た鈴はお弁当を掲げてみせる。これは・・・・。
「ええ嫁や!」
「お兄ちゃん・・・。鈴ちゃんがお兄ちゃんみたいなののお嫁さんに来るはずないよ?現実見よ?」
「一々辛辣だな!うっさい!分かってるよ!」
「えへへ、えへへへ。」
顔を真っ赤にしている鈴を見ると、少し脈があるのかと思うだろう・・・。違うのだ。ただ鈴は天然なだけだろう。帰る時に男子に一緒に帰ろうと誘われている時に何日に・・・という約束を全員と律儀に決めていた。まあ、多分悪気はないんだろうけど、男殺しだ。
『本日のニュースです。速報が入りました。また黒鴉です。本日未明オーディンの社長の生首がビルの上から落下し、通行人の前に落下したという事件です。警察によりますと、また黒鴉の文字と悪事が掛かれたファイル、そしてカウントダウン。次々と悪事を働く者達を粛正しているようです。おっと失礼しました。警察は現在オーディン社長の余罪と殺人犯として黒鴉を追っているとの事です。・・・』
「また、この黒鴉のニュース?最近多いね。」
「うん、そうだね。でも悪人が消えるのは良い事じゃないの?」
「でも、それだったら、私たちみたいに警察になって悪人を捕まえればいいのに・・・。」
加奈のなんでもない感想に僕は悪人が居なくなる事を肯定した。それに対して鈴はもっともな意見を言う。でも僕は心がざわざわと木を揺らすようにざわつく。
「さ、遅刻しちゃうからさっさと片付けて学校行こ?」
「あのー。命輪さん?朝ごはん食べたの?」
「ああー!」
飛んだドジっ子でした・・・・・。
悪人・・・・・。正義・・・・・。
それってどんな基準で決まるのでしょうか?