octo
一花の言葉に、兼続の口からは無意識に疑問が零れた。更に、その言葉の意味を理解するのに五秒ほど要し、兼続は軽く口を開けたままの間抜けな表情で一花を見つめた。
「えぇーっ! 何で!?」
素直な疑問が兼続の口を付いて出る。今まで、女子からはあからさまに避けられるばかりで、そのような話など聞いたこともなかったのだ。そのため、高校に入学後も今までと変わらず避けられているのだと思っていた。
「何でって、カッコイイし可愛いし……」
一花の答えに、それは何か相反していないかと兼続は思う。
「俺、カッコイイの?」
兼続の問いに、一花は無言で俯いた。
一花の頷きを見ても、なんだか信じられずにいた。幼い頃は『ガイジン』と陰で呼ばれ、この容姿は嫌悪を与えるもので、今でも遠巻きに向けられる視線やヒソヒソとされる女子の様子は、昔と変わらず嫌悪を与えている物だと思っていた。
「俺、可愛いの?」
再び、兼続の質問に一花が頷く。信じられないという表情を浮かべたまま、兼続は黙り込んだ。今まで好意とか恋愛感情のようなものは、女子から受けたことがない。男子は、割と兼続の容姿を気にせずに接してくれていたので、そう惨めな子供時代ではなかったのがせめてもの救いだった。
「だから、誰かに先を越される前にと思ったんだけど……」
不安を浮かべた表情と視線を、一花は兼続へと向けた。
「あ、俺……。本当に今までこういうのって無かったから、よく分かんなくて……」
一花の言葉にどう応えてよいのか分からず、兼続は悩む。クラスメートとはいえ、昨日までは特に意識したこともない相手である。とはいえ、昨日の発言が頭から離れず、一花が気になる存在に成っている事は間違いなかった。
「ごめん……どうしていいか分かんなくて、今、ちょっとパニック」
兼続の言葉に、一花は首をゆっくりと横に振る。
「私の方こそ、ごめんなさい。突然だったから浅井くん困ったよね……。」
落ち込んだ声音と共に少し視線を反らした後、一花は僅かに顔を伏せる。
「あ、いや、別に困ってないし……っていうか、嬉しい……」
困っていないというのは多少嘘になるが、嬉しいというのは本当である。だが、それが恋愛感情なのかどうかは、兼続には判断出来なかった。上がりっぱなしの体温と早鐘を打つ鼓動が、兼続の思考を鈍らせた停止させたのだ。
「ありがとう」
嬉しそうな笑みを浮かべ、一花が礼を述べた。その様子に、限界だと思っていた兼続の心臓が更に跳ね上がった。