septem
「いや。俺は日本生まれの日本育ち」
そう答えると兼続は、箸で掴んだ卵焼きを口へと運んだ。毎朝、父親が作ってくれる弁当は、今日も文句の付け所がない見た目と味である。
すぐに会話が途切れ、兼続と一花は少し居心地の悪い沈黙の中で弁当を食べ続けた。何か話を切り出してくるのではと思い、兼続は箸でおかずを口に運びながら横目で一花を確認した。だがそのような様子は見受けられず、楽しそうに一花は弁当に箸を付けている。
「あの……さ……」
このまま黙って弁当を食べ続けてもと思い、兼続は重い口を開く。
「昨日の事なんだけど……」
口を開いたは良いが、やはりどう切り出して良いのか分からず、兼続はそのまま口を噤んでしまった。一花の箸が止まり、先ほどまでよりも思い沈黙が兼続を支配する。何か言葉を口にするべきなのだと思いつつも、兼続の鼓動は早鐘を打ち乾いた喉からは声が出てこなかった。
「好きって言ったこと?」
特に気を張った様子も無く一花が聞き返した。
「あー、うん。そう」
何故か、兼続の方が気まずそうに答える。
「そのままの意味だけど……」
少し哀しそうな表情で俯きながら、一花はそう呟くように言った。
「そのままって……。えっと、その……」
今まで女子から好意を寄せられたことなど無く、兼続の思考は混乱した。
「友達としてとか……?」
そう口にした途端の一花の表情を見て、兼続は今の言葉が間違えていた事に気が付く。
「えっと……、その……。ごめん……」
間違いに対して謝罪をした兼続の言葉に、一花は哀しそうに視線を伏せる。
「……そっか……。ごめんね……」
視線と同時に顔を伏せた一花の様子と言葉に、兼続はその意味を理解出来ずに固まってしまう。しばし後、先ほど口にした謝罪が告白を断るものだと判断されたのだと気が付いた。
「あ、違う。ごめん」
「違う……?」
兼続の言葉に、一花は顔を上げ視線を向けた。
「……女の子にそんなこと言われたことなくて……。だから、よく分かんなくて……」
兼続の体温が急激に上昇し、心臓も驚くほどの勢いで早鐘を打つ。今まで、特に女子を意識したことはなく、初めての感覚に兼続は戸惑う。
「嘘……」
驚いた表情を浮かべ、一花は兼続を見つめた。
「嘘?」
一花の言葉が理解出来なくて、兼続は反射的に疑問を口にした。
「浅井くん、女子の間で凄い人気なんだけど……?」
「え?」