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「じゃあ、また後でね」
一花はそう言い残し、教室へと向かった。
「また後でね。だって」
二人の様子を訝しむように、クラスメートは口を開く。後でと言い残した一花の真意が気になり、からかい混じりのクラスメート言葉は兼続の耳には届かなかった。
四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いたが、兼続は身動ぎもせずに机に向かい続けていた。朝からずっと一花が残した言葉の意味を考えており、授業など身に入っておらず、終了の合図も聞こえてはいなかった。
「浅井くん」
名を呼ばれ、兼続は声のした方へと視線を向けた。確認するまでもなく、そこには一花の姿があった。
何か用かと訊くのもわざとらしい気がして、兼続は一花の出方を待つ。朝、『また後で』と言った意味は昨日の発言に対しての答えを希望しているのか、それとも他に用事があるのか、逸る鼓動と共に一花の口が言葉を紡ぐのを黙って見つめ続けた。
「お昼、一緒に食べても良い?」
「え? あ、うん」
小首を傾げながら視線を向ける一花に、兼続は思わず了承の返事をする。
「ありがとー」
嬉しそうに一花は礼を述べた。
「ねえ。天気が良いから、外で食べない?」
窓の外へと視線を向けながら一花が尋ねた。昼食は弁当なので、どこで食べても良いかと思い、兼続は頷き答えた。兼続の様子に一花は更に嬉しそうな笑みを浮かべ、教室の外へと向かう。兼続は机の中から弁当を取りだし、その後を追った。互いに黙ったまま廊下を歩くのは少し気まずいと兼続は思ったが、だからと言って何か言葉を口にするのもはばかられた。
昨日、一花が残した『好き』というのはどういう意味なのかを兼続は考えていた。ただのクラスメートとしてなのか、友人としてなのか、異性としてだとは思い難く判断に悩んでいたのだ。周りとは多少異なる容姿のせいで、物心が付いた時から女子にはあからさまに避けられていたのだ。
中庭へと辿り着くとすでに弁当を広げている生徒達が数人おり、兼続達もそれに混ざるように空いた芝生の上へと腰を降ろした。
「浅井くんの名前って面白いよね」
別当を広げながら、唐突に一花がそう言った。
「そう?」
兼続自身、自分の容姿には似合わない名前だとは思っている。今時の名前として使用される物でも無いというのも理解しているが、面白いと思ったことは一度もなかった。
「名字が浅井なら、名前は長政とかじゃないの?」
一花の問いを聞き、そういう意味の面白いなのかと兼続は納得した。
「父さんが、日本男児みたいな名前にしたかったっていうのと、海外育ちで侍とかそんなのに憧れて気に入ったのを付けたとか言ってた」
「浅井くん、帰国子女なの?」
弁当に箸を付けようとした手を止め、一花は視線を兼続へと向けた。