1.こたつと神様
新シリーズ始めてみました。
こちらは不定期連載になります。
ここは、とある6畳一間のぼろアパート。
「メゾンドヘブン」
3階建てで、外装は剥がれかけ、階段の手すりは錆びだらけのボロボロ。
正面玄関の裸電球が哀愁を感じさせてくれる。
耐震性?人が通っただけで揺れますが、何か?
だけど、ここはただのぼろアパートじゃない。
ここは、神界にある神様の為のぼろアパートだ。俺が住んでいるのは203号室。ちなみに各階10部屋ある。
築500年。風呂なし、トイレ共同。小さな入り口兼台所を抜けた先に6畳の部屋がある、一般的な間取り。
家賃はひと月たったの25,000神ポイント。
それでいて、出雲に向かうターミナルには徒歩20分で行けるのはちょっとした自慢だ。
壁は薄いし、隙間風は吹いてくる上に、動物霊や虫の霊がうろちょろしている。
神なのにずいぶんな暮らしぶりだって?
悲しいかな俺みたいなマイナー神の給料は月に80,000神ポイントがせいぜいな上に、
お神酒やらお供えがあまりもらえないのも手伝って、食費含めて雑費に30,000神ポイント位かかっちまうから、雑費を引いたらほとんど残らんのよ。
神なら、死なないんじゃないのかって?確かに食べなくても死にはしないんだが、日々の潤いがなければ何のために生きてるのかわからんしな。
だから本当なら破格の25,000神ポイントでも我が家の家計はかなり苦しい。
…いかん本当に悲しくなってきた。
唯一の利点は職場が徒歩0分。つまりここだって事だけだな。
自宅勤務って奴なんだが、起きたらすぐに働けて、終わったらすぐに寝られる。
通勤時間がない分趣味にも時間が割けるしな。
給料3か月分をつぎ込んで買った、人間界製のこたつがあって、そこに足を突っ込みながら
仕事をする。
やはり、こたつはいい。仕事机にもなり、食事机にもなり、寝床にもなる。
大半の人間はろくなことしないが、こたつを考えたやつは神だね。
神である俺がお墨付きをやろう。
ちなみにレートは1円=10神ポイント。こたつの定価が5000円だったから、5万神ポイントだな。ママゾンの神界支店で購入した。
「うぃーす。セッチャン、こたつ入れてくれー。」
「セッチャン、ミカン買ってきたぞ。」
そんな高級品を無理して買ったから、ここには同じアパートに住む連中がたむろしに来る。
おかげで、俺の部屋が静かな時って寝るときくらいのもんだ。
それはいいんだが、あいつら人が隠していた菓子や酒なんかも目ざとく見つけて喰いやがる。
しかも、この前なんか俺の家宝のウズメちゃん(アメノウズメ)写真集サイン入りに折り目を付けやがった。
菓子はともかく写真集は許せん。トイレにでかいカマドウマが居座る神罰をくれてやった。
~その時の事~
ゴンゴン。ガチャ。
「うお、びっくりした~。でっかいカマドウマだなおい。」
「ギチギチギチ」
「おい、そこどいてくれないか?」
「ギチギチギチ」
「いや、ギチギチじゃなくてな。ってかこれ、セッチャンの仕業か。相変わらず怒り方が陰湿だよな。仕方ない、便所掃除するから許してくれ。」
「ギチギチ?」
「応。あいつにも謝っておくから。」
「ギッチギチ~」
「うお、飛び乗ってくるな~。じゃれつかれても怖いだけだ~。」
あ、紹介が遅れたな。俺はセッチンの神。愛称はセッチャン。いわゆるトイレの神様だ。
カマドウマは俺の眷属だな。他にもいるが、まあ、あいつら人間には嫌われてるかわいそうな奴らなんだよ。尻が光るかどうかでなんでこうも立場が違うのか。
…一度カマドウマを光らせてみたが、居合わせたやつが泡吹いて倒れたんだよな。不憫。
さて、仕事するか。
仕事内容は神様だからな。人の願いを叶えたり手助けするのが仕事だ。
今日一緒にいるのは、田島(食べ物の神様)と足利(活力の神様)か。こたつに居合わせた神様次第で、その日の願いの方向性が変わるけど、今日はスタンダードな願いになりそうだ。
ちなみにミカンを買ってきた方が田島。104号室。170㎝でぽっちゃり体系。まあ、食べ物の神様が痩せてたらご利益なさそうだしな。いつも何かを食べている奴だ。
無遠慮に入ってきた足利は202号室。180㎝でがっちりした体をしている。無駄に明るくて体を鍛えるのが生きがいみたいな人間が大好きな奴だ。人間界に出かけて行ってはボディビルの大会で一際大きな掛け声をかけている奴が居たら、こいつの可能性が高い。
どちらもトイレの神様である俺とは密接な関係にあるから、仲は良い。
俺の容姿?誰もがうらやむ美形男子ですが何か?……すまん。嘘ついた。
165㎝、中肉中背。顔は中の上!(だと思いたい。)髪がいつもしっとりしている。まあトイレの神様だからな、多少の湿り気は勘弁してくれ。
反対に芸能関係の神様だと俺を避ける傾向にある。アイドルはトイレに行かないからな。べ、別に悲しくなんてないぞ。違うんだ。俺の手は綺麗なんだ。握手会で拒否らないでくれ!
…ハッ!おっと、脱線しちまった。何か悲しい記憶が流れたような気がするが気にしないで行こう!
仕事仕事。
こたつでミカンを剥きながら待っているとこたつの上にある吊り下げ式の電球の辺りから、ヒラリヒラリと
ハガキが落ちてきた。
こんな感じで切実な願いがはがきになって落ちてくる。
それを叶えるかどうするかは俺たち次第。まさに神のみぞ知るってやつだ。
最初のお便りは佐藤佐久間さん54歳。農家を営む3男坊。善人ポイント2500か。
善人ポイントってのは良い行いをすると増えていく奴な。悪人ポイントもあるぞ。
善人悪人それぞれ1500~2500ポイントが普通の人間かな。悪いことをしたくなくても悪いことをしないと生きられない人間もいるからな。そのくらいは誤差の範囲だ。
天国地獄に行くのは4000ポイント超えたあたりから。それ以外は転生することになる。
ちなみに善人ポイント1万を超えると鶴が恩返しに来るレベルな。現代社会じゃそこまでの善人は極わずかだが。
~日照りが続いて作物の育ちが悪いです。どうにかしてください。~
「うーん。俺たち向きじゃねーな。三隈(雨神様)は今どうしてる?」
「こないだ好きになった子が鬼子母神(人妻子持ち)だったみたいで部屋で泣いてる。」
「んだよ、またか。セッチャンちょっと連れてきてくれよ。」
「ここは俺の部屋なんだがな。」
まあ、俺の部屋で受けた願いだ。面倒だが行ってくるか。
ちょっと強く踏み込んだら抜けそうな階段を上り、309号室のドアをノックする。
「おーい。三隈~。仕事だ、出てこ~い。」
しばらく待つが出てこない。
「入るぞ~。」
俺ら神様は寝るとき以外鍵を掛けないから、(足利なんかは寝るときでもかけない)勝手に入らせてもらう。相変わらず、湿気がすごい。それに色とりどりのキノコが生えてる。
「いつか腐って床が抜けそうだな。」
自分の部屋よりも慎重に歩いて部屋にたどり着く。
「さめざめ。しくしく。」
「相変わらず、判りやすい鳴き声だな。三隈、仕事だ。お前がさぼって泣いてるから佐藤さん54歳が困ってるぞ。」
「放って置いてくれよう!降らせたら降らせたで迷惑がる人間の事より僕の気持ちの方が重いんだ!」
「そう言ってやるなよ。なんだまだ相手が人妻だったことにショックを受けてるのか?」
「ちがう!確かにそれもショックだったが、問題はそのあとだ。彼女の子供を見せてもらったんだが、それがもうかわいくて、ひとめぼれしたんだ。そのことを彼女に言ったら100m以内に近づくなと神界警察が。」
「ちょっと待て、お前警察のご厄介になってたのか!」
「僕の愛は本物だったんだ!それを警察がNGだって。年の差1500歳なんて普通じゃないか!」
「いや、それは警察が正しいだろ。ったく、正月の時のアマテラス様のプロマイドやるから、働け。」
ちなみに太陽神であらせられるアマテラス様は1年単位で生まれ変わるから、月ごとに容姿が違うので有名だ。老婆にはならない。ひと月に3歳くらい年齢を重ねていくから、40歳前後で幼女に戻る。
俺?俺は9月(27歳位)ごろが一番好みかな。恐れ多いが。
トレカになって売られているのを集めるのが俺たち下級神の楽しみの一つだ。
それならまあとついてきた三隈と共に、203号室に戻る。
田島と足利がミカンを食べながらウズメちゃんの写真集を見ていた。っておい!
「食べながら写真集を見るな!」
「ん?おお、悪い悪い。」
「ああ、三隈君も来たみたいだね。」
「んじゃあ、一つ頼むぞ。」
こたつの真ん中に鳥居のミニチュア模型を置く。
それを俺たち4人は四方から囲むようにして手をかざす。
神力をつかって奇跡を起こす。それが神の仕事だ。
奇跡にも神ポイントを使用する。当然叶える奇跡が大きければ大きいほど多くのポイントを使用する。それと専門職の神がいるかどうかでも違ってくる。今回は雨を降らせるだけだし、雨神の三隅がいるから、1500pって所かな。4人で割れば400p行かないくらい。で、与えられた奇跡に関しての感謝が、神ポイントになって返ってくる。まあ先行投資みたいなものか。
『コーン』という鳴き声と共に神ポイントが支払われ、地上に雨が降った。
ひび割れた地面に雨が降り、大地が潤っていく。
佐藤さん54歳ほか、近隣に住む農家からの感謝の気持ちが伝わってくる。
『ケーン』という鳴き声と共に払い戻しが帰ってきた。
3200神ポイント。4人で割って800ポイント。結構おいしい仕事だったな。
ふう。まず一件。
「ちょっと一服するか」
そういってどこからかプロテインを取り出す足利。シェーカでシャカシャカやって俺たちに差し出す。
「お前のその筋肉至上主義なんとかならないのかね。」
「バッカ。筋肉は活力の源だぞ。俺が信奉して何が悪い?」
「まあまあ。食べ物に貴賤はないよ。もぐもぐ。」
「あーー。それ俺が買って置いたせんべい。勝手に食うなよ。」
「アッごめん。今度また補充しておくから。」
「まあそれなら許すが。でもお前補充したの自分で食うからな~。」
「何か口に入れてないと落ち着かなくて」
「ふふふ。アマテラス様正月バージョン小さくてかわいいな~。」
俺があげたトレカを見ながら、不気味に微笑む三隅。
「おい、あいつロリコンだったのか」
「どうも、気になってた鬼子母神の子供の方にひとめぼれしたらしい。」
「うわ。業が深いな。相手の女怒り狂ってるんじゃないのか?」
女としてのプライドと子供を変質者から守らないといけないからな。
「文字通り鬼だしな。神界警察のご厄介になってたみたいだぞ。」
「そりゃ災難だね。鬼子母神の方が。もぐもぐ。」
そんなことを話題にしていると次のハガキが落ちてきた。
うげ、このハガキ黒い。
黒いハガキは神罰を落とさなきゃならない。悪人ポイント4000以降の人間を対象とする。
与えた罰に対して反省の意を示すと神ポイントになって返ってくるんだが、悪人っていうのは中々改心しないから悪人なんだ。その分改心した時のポイントは3倍返しだが。
基本的に黒いハガキは断れない。誰だってハイリスクローリターンなんて遠慮したいから神界政府から通達が出ている。
~三島建設の三島社長に田畑をだまし取られました。三島社長に天罰が落ちますように~
どうも依頼人、三島社長に金を借りたみたいなんだが、契約書が2重になっていて利息が払いきれるものじゃなくなって、ついには田畑を手放すしかなかったみたいだ。
三島幸久 42歳 悪人ポイント5600。本当の悪人だな。
こいつ地獄に落ちますからって天啓してあげるだけじゃダメかな。だめだよな。
「さてどうするよ?」俺が聞くと、
「田畑をつぶしてゴルフ場にするなんて死刑!もぐもぐ!」
「食い物関係になると過激だよな田島は。俺が活力を奪うのはどうだ?活力がなくなれば悪いことをする気も起きなくなるだろう」
「局地的な大雨で押し流す?」
「それじゃあ、改心はしないだろう。神ポイント払い損になるぞ。局地的な雨は無関係の人間も巻き込むしな。」
「...。俺と田所の合体技、「食中毒」で入院してもらうか。そこを足利が活力を奪ったうえで悔い改めるように俺の眷属を飛ばすよ。」
話がまとまったところで、中央にある鳥居に神ポイントを注ぐ。
掛かったポイントは8000ポイント。一人当たり2000ポイント。やっぱり支払いがきついな。
『コーン』という鳴き声と共に奇跡が発動した。
ー現世ー
三島は専務の中条と食事をとっていた。
「くくく。ゴルフ場建設の件うまくいったな。」
「ハイ社長。借金の利息も合わせれば、億単位の儲けになります。」
「そうかそうか。それだけの金があれば、町長選に立候補してもいけそうだな。」
「そうですね。地元の名士さえ丸め込めばどうとでもなりますよ。」
「よし、明日は根回しに行くか!」
「ハイ社長、いえ町長」
「くくく。がははは。」
なんとも下衆な会話が聞こえてくる。
専務の方にも食中毒の天罰が落ちてしまったが、まあ共犯みたいだしいいだろう。
翌日、三島と中条は地元名士の家に来ていた。
「大島様、町長選にはぜひともこの三島をお願いします。つまらないものですが、こちらをお納めください。」
菓子折の箱は2重になっていて下には札束が入っていた。
どうでもいいが、その箱特注なのか?
「ふむ。うまそうな饅頭じゃないか。わかった。私の力をお貸ししよう。」
「ありがとうございます。」
その時、グギュルルルという腹の音が三島と中条から響いてきた。
「ぐ、なんだ急に腹が、大島様申し訳ありませんが、トイレを貸してください。」
「社長。私もです。おかしなものでも食べましたっけ?大島様私にもトイレを・・・。」
「そこの角を曲がって突き当りだ。だが、一つしかないぞ。」
それを聞いた三島と中条は我先にと走り出した。
「中条!貴様。わしが先に入る!」
「社長こそ部下に譲ってくれてもいいじゃないですか!」
「ふざけるな。わしは町長になる人間だぞ。漏らしたらどうしてくれる!」
「それとこれは別です。早い者勝ちです!」
トトトと腹に負担を掛けないようにしながら走る。
トイレの扉をどちらかが触る直前、元気な男の子が二人を抜いてトイレに入っていった。
『あああああああああああ』
ふたりは悲痛な叫び声と共に扉を叩く。
だが、二人は忘れていた。ここが名士の家だということを。
男の子はドンドンと叩かれる扉の音に泣いてしまい、それを見た大島は激怒。
そのまま家の外に放り出された。
失意と便意を抑えきれずにいる二人、
そこにいたのは金色のカマドウマ。
『汝、悔い改めよ』
二人は天に召された(社会的に)
地元名士の後ろ盾も失ったことで、警察が査察に入り、不正な契約書も見つかった。田畑は願いをしてきた人のもとに取り戻された。
神界
『ケーン』払戻金が返ってきたようだ。
28000神ポイント。一人当たり7000神ポイント。田んぼを取り戻した分も加算されたようだ。
「よっしゃー。ちゃんと改心したみたいだな。」
「今日は豪勢になべにしようぜ!」
「すき焼き食べたい!もぐもぐ」
「僕はアマテラス様のトレカにつぎ込むよ。3月以降が出たらあげる。」
「他の奴も読んでパーティだ!」
俺たちはみんな宴会が大好きだ。一人違ったことを言っているが、どんちゃん騒ぎをしているといろんな神がやってくる。
おおむね楽しいこのアパートでの生活が俺は気に入っている。
お読みいただき、ありがとうございます。
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