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Vitamin☆Days

Summer Fragrance

作者: パルコ

『スニーカーとピーチウォーター』の二人です。

先にそちらを読んだ方が分かりやすいと思います。


 太陽が嫌いになりそうな季節、近くのカフェで買った焼菓子とアイスコーヒーを準備する。穂香ほのかちゃんの分はパソコンから離して置いておく。黒い液体の中を氷がカラカラ回って涼しげだった。

「それブラックー?」

「うん、危ないからちょっと離しとくね。準備できた?」

「うん!」

穂香ちゃんの隣に座らせてもらってパソコンを覗くと、そこには星景写真や街並みを撮った写真がずらりと並んでいた。


 穂香ちゃんの趣味に、写真がある。けれど、一つ一つ丁寧に説明してくれた写真の中には人物写真が一切見当たらなかった。何でだろうと思って聞いてみたら穂香ちゃんの場合、人を撮るには自分と被写体の個性を上手く擦り合わせないといいものが撮れないらしい。無邪気に見えて、結構難しいことを考えている。


 一通り写真を見せて貰って、僕たちは一息つく。穂香ちゃんはフィナンシェを頬張りつつ少し薄まったアイスコーヒーをすすっている。その時、写真を見ていたときには意識していなかったあることが気になり始める。

「穂香ちゃん香水つけてる?」

「う? つけてないよ?」

「なんかいつもと違う」

「えー? アタシ今日なんかしたっけー?」

 いつも穂香ちゃんと話していると、いつもグレープフルーツのような爽やかな香りが周りに流れる。フレッシュな、それでいてスッキリした甘さのあるシトラスの香りは、朗らかに笑う彼女の健康的な女の子らしさを引き立たせる。しかし、今日の穂香ちゃんは香りに甘さはほとんどない。ミントのような、冷涼感のある香りがした。隣にいるだけでも鼻がスーッとする。

「あぁ、えっくんのデオウォーター借りたからだ。うんうん」

「えっ? 僕、穂香ちゃんに貸したっけ?」

「洗面所にあったから使ったー」

「何で勝手に使うの……」

嗅いだことあるなーと思ったら僕のを使ってたのか。できればそれはやめて欲しかった。別に嫌じゃないんだけど、何のケア用品使ってるか知られるのって少し恥ずかしいから。

 香水の類が苦手な僕は、汗ばむ季節になるとデオドラントウォーターを使う。濃厚に香りが残る香水と違って、すぐに香りも消えて、何より肌のベタつきがなくなるから。友人から江夏はミントとか似合いそうって言われたから、ミント系のものを使っている。僕が恥ずかしさで俯いてるところに、勝手にじゃないよー、と穂香ちゃんの声。

「えっくん使わせてーって言ったよ」

「それ僕がいないところでじゃん!」

「そんなに恥ずかしかったの?」

ごめんね、と言いながら穂香ちゃんはワッフルに手を伸ばした。いいよもう、と僕は笑った。穂香ちゃんのグラスが空になっていたので新しくストレートティーを注いだ。


 僕の左からは相変わらずミントの香りがする。けれど、僕のデオウォーターを使ったのに何だか香りが違うような気がする。同じものなのに、穂香ちゃんの匂いになってるな、なんて……うわ、気持ち悪。そんな考えを飲み下したくて、ワッフルを飲み込んだ。

「でもいい匂いコレ。今度コレにしようかな」

この香りが気に入ったのか、穂香ちゃんは手首を嗅いで顔を綻ばせる。

「男っぽい匂いになりそうだけどね」

「うーん……アタシ甘いヤツ嫌いだから良いと思ったんだけど……」

手首を嗅いで、への字口にして言う穂香ちゃんは、僕を見ると口角を上げてうん、と一つ頷いた。

「やっぱりコレはえっくんだね」

あっけらかんと言う穂香ちゃんに何それ、と僕は笑った。

「穂香ちゃんはシトラス系が一番似合うよ。好きな匂いでもあるんでしょ?」

「アタシ薔薇っぽい匂い嫌いだもん」

一通り笑って、穂香ちゃんは僕の肩に顎を乗せた。

「ねぇ、えっくんもアタシが使ってるヤツつけてよ」

いいけど、顎で肩口グリグリしないで欲しいな。結構痛い。


 数日後、スタジオで……

収録が終わって、先輩の女性声優さんが食事に行こう言ったので、僕はご一緒させていただくことにした。僕の隣を歩く先輩があれ?と声をあげた。

「江夏くん、香水とかつけてる?」

「え? あぁ、いつもと違うデオドラント使ってるからそれかも知れないです」

先輩は僕に顔を近づけると、いい匂いだね、と笑った。

「江夏くんのイメージと違うけど……爽やかで良い匂いだよ。 誰かに勧められたの?」

「つけてって言われましたよ」

僕は苦笑いで先輩の質問に答えながら、穂香ちゃんのおおらかな笑顔を思い出した。そして、にぱーっと笑う彼女から香るのは、甘すぎない爽やかなシトラス。

「それって例の後輩ちゃん?」

「へっ!? え、えーと……はい……」

このタイミングで先輩が当ててきたから思わず変なリアクションを取ってしまった。へー可愛いー、と先輩が面白がっているのは見ないフリをしよう。


 じゃあ、行きましょうと僕たちはスタジオを出た。

東京の夏は本当に暑くて嫌になる。でも、僕がいま纏っている香りが、穂香ちゃんがいつも纏っている香りが引き立つなら、馬鹿みたいな暑さを許せるんじゃないかと思えた。


ありがとうございます。

香りネタって難しいですね……。

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