ふわふわサンドの誘惑
時は真夏、夏休み真っ最中。外に出たらリア充どもがうようよしてるし、暑くて茹ってしまう。部屋着から着替えるのも面倒。あーダリい。なんだかんだと理由をつけてここ数日、外に出てない。バイト以外、外に行かなくなった。
「…ん?」
ラインのピローンという間抜けな音がした。誰だろうと思ったら例の灰原だった。「別れたもの同士、仲良くしようぜ」なんて言ってたもんだな。…向こうはすでに彼女候補がいるらしくてよ。
「ボウリングか…。俺、苦手なんだよな」
迷うな。体を動かしたい気もするが、苦手なことは避けたい気もする。どうすればよいのか…。
「相馬!いい加減に外を歩きなさい!」
「分かったよ!…ったく」
あーもう!母さんはうるせーな。しゃーない、外に出よう。ちょっと出りゃ文句は言われないだろう。ジャージに着替えてあのコンビニにでも行くかな。
「行ってきまーす」
「あ、相馬!コンビニ行くなら私のも買ってきてよ」
俺には大学3年生の姉貴、相華がいる。この字で「あいか」って読む。県外に1人で暮らしてるのだが、ここ何日間はこっちに帰ってきてる。向こうでは1人なのだからといって、親は姉貴に甘い。だが、俺はそんな姉貴に甘くするようなできた弟ではない。
「はぁ?自分の分は自分で買えよ。姉貴の方が稼いでるだろ?」
「ちっ…クソ弟が。姉さまがせっかく帰ってきてるっていうのに」
たまにさ、姉貴がいるっていうと羨ましがられるけど、これが姉貴だと現実見ろよって思う。妹が欲しかった。…でも、この姉貴が年下になったって考えると癪に触るから妹もいらん。兄貴が良かったかもな、うん。弟でもよかったな。
「あっつ…」
外に出た瞬間、猛烈な日光が俺を攻撃してきた。日光が痛いってこういうことなんだな。肌にチクチクと攻撃される。女性が日焼け止めを塗ってるのが理解できる気がする。でも…俺は少し焼かないと夏休み、ニートしてたことがばれてしまうぞ。
「いらっしゃいませー」
なーんていうのが3日前のこと。それ以来、このコンビニまで歩くようにしている。そう、肌を少しでも焼くためだ。もうそろそろしたら友達と海に行くことを俺は、すっかり忘れていたのだ。水着になるのに、真っ白はさすがにマズイ。あいつらのことだ、ナンパでもする気なんだろう。そこでいい女性でも…なんていうのは夢のまた夢って奴だよな。
「…何にするか」
昨日はコンビニ限定のお菓子を買ったんだよな。そしたら姉貴に取られてしまった。あの妖怪食い意地め、全部食べちまった。今日は姉貴が苦手なものを買っていこう。姉貴が苦手なものは…。
「ふわふわサンド?」
そういうや姉貴、生クリームが苦手だったよな。じゃあ姉貴はこれでいいや。…いや、まて。あえてこれを2つ買っていって、俺が2つとも食べるというのも手だな。あ、だったら生クリームが入ってるもんにすればいいのか!じゃあこのふわふわサンドと…。
「もちぷよ?」
小さいおまんじゅうみたいだな。てか、安いなコレ。ワンコインでお釣りがくるぞ。でも、これはカスタードクリームか。これだと姉貴は食べれるな。こっちも捨てがたいけど。じゃあ、このまんじゅうは先に食って、姉貴にはふわふわサンドをみせつけよう。
「合計で200円になりまーす」
最近、甘いものばっか食べてるけど体重増えたんじゃね?結構、ガリガリだから少し欲しい。じゃあ、筋トレしろって話か。これでも中学、高校は運動部だったんだ。なのにな…どこに消えたんだろう、俺の筋肉。
「ありがとうございましたー」
さて、炎天下の中だが俺はこともちぷよを食べるぞ。袋を開けて少し触ってみる。…後察しの通り、モッチモチだ。大福とはまた違く、女性の頬のような感じだ。弾力がある。
「うお、ぷよってしてる!」
もっちりな皮は意外にもぷよっとしてる。しかもこの皮、少しのびるぞ。あー中のカスタードもいい感じだ。甘い、これは甘党にはうってつけなスイーツだ。しかもモチモチだから腹持ちも良さそうだ。サークルの前に食べれば、帰り道に立ち食いせずに済みそうだ。
「うまかった…」
この後、家に帰り姉貴にふわふわサンドを見せたところ残念なことに食われてしまった。どうやら1人暮らしの中で生クリームを克服したみたいだ。これは計算ミスだな…。全くもってショックすぎる。それに加えてそれ以来、近所のコンビニにふわふわサンドが入荷されなくなってしまった!これは全て帰省中の姉貴のせいだ。