SLの待ち方は人それぞれの御様子。
ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ。
なんだかSLの煙突みたいだ――と他人事みたいに思ってしまった。
わかっている、現実逃避である。
しかし、どもるといっても限度があるだろう。これでは話しかけられた相手は目が点状態ではないか。彼女には怪訝な顔をしていてほしくない。彼女というか、目の前にいる沙織さんなんだけれど。さっきから、不完全燃焼した黒い煙の効果音みたいな台詞しか僕が言わないから、彼女は首を傾げて、こちらを見つめるばかりである。
「どうしたの。具合が悪いの。何かのごっこ遊び?」
「僕は」
やっと先が言えた。
このままするっと先を続けられればいいんだけど、って、ああ、今度はなんだか。
「君が好きです――」
「え」
するっと言えすぎてしまった。なにこれ、恥ずかしい。
自慢ではないが、僕は自分を信用していない。もう、全然、まったく、これっぽちも。奥手も引っ込み思案も、言葉が綺麗すぎて、僕は僕の属性を的確に表現できる単語をまだ知らないのだ。毎日鏡の前に立つたびに、うわあなんて冴えない男が鏡の向こうに立っているんだろうと、それだけで僕の朝は憂鬱になる。とにかく僕は、僕に秘められた可能性とやらを(先生は時々僕をそういう言葉で励ます。学期末が近づくたびに、きまって一回だけ)全く信じていないのだ。その点に関してだけは、強く信じている。
てっきり、僕のことだから、告白に際して更に十五分はずっとSL状態を続けるのかと思った。
彼女は、さながら駅のホームで来ない電車を待っている人のように、その内、くたびれて返ってしまうんじゃないかとも思った。
なのに、この状況は何なんだ。
どうする。
僕は考える。
どうする、どうしよ、ええ、この僕が? なんてするりと言えてしまったんだ。
こんな、こんな、人生初すぎて、この先のプランが全くない。
とにかく何か続けないとと思って、僕の口はほぼ自動的に動く。
「とか言うと思ってました?」
巻き戻してどうする。
照れ隠しとして最大のタブーである。何をやってるんだ。何を言っているんだ、僕は。間違えるのにもほどがある。ただの自意識過剰な嫌な奴じゃないか。こういうこと言って許されるのは、イケメンと金持ちくらいなんだぞ。僕のような人間がこんなことをしたら、もうおしまいじゃないか。フラれるくらいでは済まない。遠くから見ていることもできなくなる。彼女の目にフィルタがかかって、多分、僕の姿かたちは検閲処分されてピーマークが入ってしまう。
「思ってたよ」
気付けば、彼女が泣いていた。
それと、何か言っている。どういうこと――と僕は訊けない。僕の人生にこういう展開は今までなかったのだ。僕は自分を全然信じていなくて、それで、それで――。
「思ってたけど」
「え」
「ダメなの?」
そういうことになった。