5月8日
5月9日 12時13分
私達の学校は“矛盾”に包まれた。
「今月ってまだ春だよね…?」
「多分もう脳内では夏という判断になってる」
5月初めとは思えない暑さのある日、いつも通り私は友人と下校していた。歩くだけでじわりと内側からかく汗は、地味にダメージが大きい。これでまだ冬服を着ている子がいるのだから尊敬する。とはいえ、もうじき駅に付けば日本人の適温で調整してある電車に乗れるのだが。
「というか、明日休みなの知らなかったんだけど」
「結構前から言ってたよ…」
「先生の話は頭に入ってこないからしゃーない!」
「この先どう生きていくのだ貴様は」
the女子校ガールの彼女は、ノー天気でマイペース。課題の提出日を1ヶ月間違えていた時は、本当に将来大丈夫なのか心配になった。
地下鉄で帰る友人と別れ私は改札をくぐる。ホームには心なしか明るい顔をしたサラリーマンが多い。流石金曜日。私がいつも乗る5両目3番ドアの場所を見ると、見覚えのある顔を見つけた。
「瀬川さんだ」
「おす」
振り向いたのは短髪のイケメンガール、瀬川海晴。私の所属するテニス部の部長でありエースである。勿論同い年。訳あって名字にさん付けで呼んでいるが、別に仲が悪いわけじゃない。むしろ結構仲良しなんじゃないだろうか。てか、そうでないと私泣いちゃう。
「瀬川さんと帰るの久しぶりだわ」
「部活の日も別に一緒に帰るってわけじゃないしね、橋村と」
ホームに来た電車に乗り込み、二人で座席横に並ぶ。彼女と帰るときは大体この並び方だ。私の学校は私立なだけあって、電車や路上でのマナーが悪いとすぐに学校へ連絡が入ってしまう。一見面倒そうに見えるが、社会的常識があれば当たり前に守れる事なので、別に大したことではない。
適温電にゆられて3駅ほど進んだ頃に、唐突に瀬川さんは私に質問した。
「橋村はさー」
「うん」
「夢とか、見る?」
「さっきまでの大根の話と全く脈略ないけど、ハイよく見ます」
「なんか、テレビで見たんだけどさ。夢って人に話すと正夢にはならないんだってさ」
「そうなんだ、じゃあ金絡みの夢は絶対人に話さないようにしないとじゃん」
「それテレビでも言ってた。でも、悪い夢は人に話すと正夢にはならないけど、話された人が続きを見ることになるんだって」
「迷惑な話だねぇ」
胡散臭いなぁとも思ったけど、前にどっかの脳科学のお偉いさんが人間は思い込みに弱いって言ってたし、あながち嘘でもないのかもしれない。
「あ、それと明日は1時から練習になりました」
「らじゃっす」
そんなことを話していると私の降りる駅に到着したので、瀬川さんに別れを告げて降りる。本当に遠くから見るとイケメンにしか見えないなぁ、とか思いながら改札をくぐる。何となく空を見上げれば、雲ひとつない空。腕時計を見れば16時11分を指している。長針はまだまだ短針に追いつけない。何だか永遠に追いつけないように感じるけど、どうせあと20分もすれば何事も無かったように通り抜けると考えたら、不思議な気持になる。
家に着いて今日の復習、次の予習、追加の自習をして、夕飯を食べて、風呂に入り、寝る。今日もいつも通りだった。目を閉じて思う、今日は夢をみるだろうか、いい夢は話しちゃいけないんだよな、確か。
そんなことを考えてるうちに意識は飛んでいった。