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クロノツバサ  作者: 菅野いつき
旅立ちと生き残りのフェニックス
5/6

ラクサーシャ

お久しぶりです。

おそくてすみません。

 エルが姿を消してから数時間が経過した。慎の放った黒い光はちゃんとエルに届いたらしい。あの光がエルの居場所を教えてくれる。薄い黒い光。慎にしか見えない光。

「はぁ…」

 正直、めんどくさい。あの光を追ってエルを見つけるのがめんどくさい。なんでこんな行動をしているのか謎だ。そんな事をするような自分ではなかったはずだ。

(ゆう)のためだ」

変わるものだなと鼻で笑う。

 慎は自分にしか見えない黒い光を追った。まだそんなに遠くには行っていない。走って近づく。光が近くなる。いくつかの曲がり角を曲がる。

「これ、脱獄者じゃん」

「本当だ!これを王国に届ければ苦しい生活とおさらばだ」

 無邪気な子どもの声が聞こえて慎は足を止める。すぐそこにいる。声はすぐそこの建物の後ろから聞こえた。建物の壁に背中を合わせ、静かに息を吐く。そして、そっと覗く。そこにいたのは小さな角を頭に二つ生やした見た目は人間の子どもの姿をしているラクサーシャの双子だった。あの二人を慎はよく知っている。そしてもう一人、顔がよく見えず部族の特定が難しいが男がいる。

「あぁ、だが生きたまま渡さねばいかん。ラクサーシャの双子よ。間違っても血肉を食べるなよ」

 静かで冷静な声。

「えへ、えへへ」

「そんなことしねーよ。ラキ」

 小さな悪魔はかわいらしく笑う。それに答えるようにラキと呼ばれた男は軽く微笑んだ。

「はやく、はやく」

「王様に渡そうぜ」

「いや、まて。この女が一人でここまで来れるとは思えない。きっと誰かの協力がある。それもすごく強力な力の持ち主」

 ラキという名前の男は周りを見渡す。

「それがどうしたんだよ?」

「そんなのラキの力があれば大丈夫さ」

 彼らはクスクス笑いラキの服の裾を引っ張りながら「ラキは最強だから」「闇の三番目に強い部族だしな」といった。

 ラキは二人の顔の高さに合わせるようにしゃがみこむ。

「いや、俺でも勝てるかわからん相手だよ」

 そういいながら二人の頭を優しく撫でた。撫でられた二人は嬉しそうにクスクス笑う。しかし、突然笑い声はピタッと止んだ。

「ラキでも勝てない相手って?」

「ま、まさか」

 ラキは笑った。見えにくいが不気味な笑顔だと思う。

「あぁ、お前らのかたきがすぐ近くにいる」

 ラキは鋭いナイフをこちらに投げる。ナイフは慎のすぐ近くの壁に刺ささって爆発した

 慎は反射的に斜め上に飛び出す。

 ―ばれてたか― 

 慎は想像し、黒い光を捻じ曲げ短剣を作り出した。長い剣よりこちらの方が戦いやすい。 

「ほら、ラクサーシャの双子。あの小さくのどかな町の生き残りの双子。ヨーテとヨール。お前らの親の敵が今ここにいるぞ」

 ラキはさらさらとまるで準備されていた文章を読み上げるかの様に言う。そしてまだ空中で無防備な慎に向かいナイフを投げてきた。しかし、そのナイフは慎に到達する前に爆発する。ラキという男は慎を殺す気はないようだ。となると、双子に殺らせるのが目的らしい。ならば…

 慎は爆風と共に舞い上がる黒い煙の中をよく見つめる。今吹いている微かな風に揺られる煙の中イレギュラーな煙を見つけた。そのコンマ一秒後に双子の一人が飛び出してくる。慎は短剣をでこに構えた。振り下ろされた熱く燃えた剣にでこに構えた慎の短剣が当たる。短剣は熱さに溶けることはないが、熱を伝えていき手が熱い

「くっ」

 小さな声が聞こえた。慎は腕に力を込め押し返す。ラクサーシャ族の小さな体は意図も簡単に吹き飛ばされた。だが、やつらは双子。吹き飛ばされた小さな体は煙に穴を開けそのまま地面に突き落とされる。それを避けてすぐ後ろからもう一人飛び掛ってきた。また同じのを受けるのはごめんだ。熱くて手が焼ける。慎は飛び掛ってきたラクサーシャを避け地面に着地した。飛び掛ってきたラクサーシャは建物の壁を軽く蹴り体制を整えて着地する。ラクサーシャの二人に挟まれる形になってしまった。

「よぉ、慎。裏切り者の慎。どうだい?旧友との感動的な再会は」

 それまで見ていたラキが手を叩きながら不適な笑みを浮かべている。

「感動的?どこがだよ。ヨーテもヨールも敵意むき出しじゃないか」

 ラキにナイフの先を向ける。ナイフの先は月の細い光を浴び鋭く光る。

「お前の相手は俺たちだ」

「よくも、俺達の両親を殺したな。俺達はもう二度と大人になれなれないんだぞ」

二人が阿吽の呼吸とも言えるぴったりの呼吸で声を上げた。流石は双子。成長すれば、厄介な相手だな。

だが、こいつらが大人になろうがならなかろうが俺には関係ない。俺は俺の目的の為のみに動く。それにはまず、ラキの後ろに寝かされているエルを取り戻す方法だ。

慎は考えた。しかし、彼らは考える時間を与えてはくれなかった。ラクサーシャの二人は見事なまでのシンクロを見せる。二人同時に右回りに慎の周りを回りだしたのだ。ラクサーシャの体温は熱いのを思い出す。彼らは常に微量な熱を自らの身体から放出させている。彼らは慎の周りを回り、熱風を巻き起こそうとしている。その熱は時に太陽の彩層の最高温度八千度にもなる。焼け死ぬことは明確である。しかし、慎は冷静だった。今慎がいるところもどんどん温度が上がり暑くなってきている。暑いが熱いに変わる前になんとかしなくてはならない。ラクサーシャの感じている体感温度は慎が感じているより熱いはずだ。ラクサーシャが耐えられる温度は大人で二千五百度。これはマッチの発火直後の温度と同じだ。しかし、彼らはまだ子ども。子どもの彼らが耐えられる温度は八百五十度だろう。そこまでなら耐えられる。熱い熱風が巻き起こる中。他の方法も考えられたが慎は彼らが自分の熱に耐えられなくなるまで付き合うことにした。その方が無駄な力を使わずに住むと考えたからだ。

慎は自らの闇に閉じ籠るように闇を操り闇で自らの周りを覆った。一気に体感温度が下がる。自分の作る闇は冷たいことを思い出す。冷た過ぎて何も温められない闇。凍えを癒さない闇。思い出したらなんとなく悲しくなった。闇の外の音がふと消えた。寂しさを覚えた。懐かしさを感じた。あぁ、昔は何もなかった。そんな事を静かに思った。ラクサーシャの悲鳴が聞こえた気がした。慎は頃合いだと判断して闇を周りに放つ。爆風が巻き起こり多くの建物が音を立てた崩れ去る。ラクサーシャの作り出した高熱を使い爆風を巻き起こしたのだ。今ので何人の関係ない者が死んだか。思考を働かせる。煙に包まれた周囲を見渡す。ラクサーシャの双子が倒れている。更に見渡す。ラキという部族も知らぬ男が瓦礫に紛れている。燃えている建物の残骸がある。その後に奇跡的に無傷なエルがいた。

ゆっくりと意識のないエルに忍び寄り口元に手を(カザ)す。微かだが呼吸しているようだ。空気を弱々しく吐いているのが手に感じた。安心する。弱りきってはいない。

しかし、疑問が残る。エルを(さら)っていった奴らはこんな強者ではないはずだ。もう少し、この街の住民らしい奴等だったと思う。考えられるのは、そいつらがこのラキ達に渡したことだろう。となると、そいつらは何処かに潜んでいる可能性もある。なんて、考えすぎだろうか。

慎はもう一度瓦礫に埋もれたラクサーシャの双子とラキを見た。しかし、ラクサーシャの双子とラキの姿はなかった。それどころか双子とラキの倒れていた所には全く知らない別の闇の者が倒れていた。そして、エルの横には...

慎は一瞬困惑したがすぐにというより反射的にエルを左腕で担いでその場から飛ぶようにして離れる。数秒後さっきまでいた所は爆発して爆風が巻き起こる。その爆風により視界が悪くなる。

「よく避けたなシン。キャハハハ」

「オレこいつみたいに弱くないしクック...」

二つの聞き覚えのある無邪気な笑い声が聞こえてくる。

ーまさかラキという男はー

「だけど、エサ作戦は失敗だね。ラキ」

「どーしようなぁ?」

二つの赤い影が煙の中で揺れている。

「そうだな。せっかく俺の力使ったのに。(ここ)の雑魚共は使えなかったなぁ」

埃が舞う中に高速で近づいてくる熱気を感じ慎は後ろに飛び距離をとった。

「オレは後ろにいるのにね」

無邪気な声が右後ろから空気を振動させて伝わってくる。しまったと思ったがもう遅い。右腕に違和感を感じた。その違和感は高熱を帯び出す。

「いっ...」

慌てて自らの闇で右腕を覆う。

「あっぶなーい!」

右腕の違和感は元気にそういうと消えていった。

視界が開いてくる。開けた視界にはごうごうと燃え上がるラクサーシャ、その間にラキが立っている。

右腕はジリジリと痛みがあった。確認すると肌が黒くなっていた。溶けてないだけましだと思い前の三人を見据える。

「そうかラキお前は影武者を操るんだな。化けさせて操れる...と」

ラキは口角だけを上げて笑う。

「そうだとも。流石はシンだな。まさかとは思ったが天使に協力してるのが本当にお前だったとは。嫌なものだ」

だが、きっとラキの能力はこれだけではないはずだ。これだけならば先にラクサーシャの皮を着せられていた二人が言った「三番目」は嘘になる。奴は俺を警戒してる様子も伺える。

「また厄介な奴に絡まれたものだ。そうだとも。協力とは違うがな」

ラキはため息をついた。

「闘いたくないのだが、その天使を渡してくれないか?」

渡せるわけがない。

勝算を考える。ラクサーシャだけなら余裕、ラキだけなら微妙。三人揃って三十パーセントと計算する。

正直勝てる気がしなかった。こんな強敵。下手すると奴は未来が見れるかなんかの能力もある。それがあった場合は十パーセントもない。幸いにも後ろに逃げ道があることだ。しかし、ここからアーシュのところまで逃げ切れる気がしない。召喚魔(アイツら)を使えば逃げられるかもしれないが、此処(ここは)で出したら新手が来た時に対応できる自身も今の慎には無かった。何よりもエルを逃げるにしても成功率も低い。

「俺も闘いたくないな。何よりもラキさんはまだ何かを隠してそうだしな。見逃してくれないか?」

一歩後ろに下がり様子を見る。

「それは残念だ。お前がその天使を渡すならお前の指名手配を無くしてやっても良かったのだがな」

ラキは言いながら黒い光をゆっくりと出していく。

慎も同じように自らの闇を操り細長く伸びる玉を数個作り自分の身体の周りを周回させた。両手が使えない今はこれで防御攻撃をおこなうしかない。同時に逃げ切る方法も考えなくてはならない。脳が悲鳴を上げそうだ。

その時何処からか微かにキャーンという鳥の鳴き声が聴こえてくる。その声を聞いた時逃げられる確率はグンと上がったと慎は確信した。あの声はアーシュの召喚魔だ。エルを横にして抱く。つまりはお姫様抱っこをする。

慎は一つの玉を天高く上に放ち爆発させる。そして、居場所を伝え他の玉で三人に攻撃を仕掛けた。ラキは自分の闇を膨れ上がらせ防御する。慎はその間に瓦礫の山を上り民家の上に飛び移り登って行く。後ろから火の雨と鉛のような硬さの雨を浴びせられる。それを力を使って防御するが足りずに攻撃を受けてしまうが耐えるしかない。

慎は登り終えると今度は屋根を伝い、絶えず聞こえてくる鳥の声を頼りに走り出した。

ありがとうございました

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