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クロノツバサ  作者: 菅野いつき
旅立ちと生き残りのフェニックス
4/6

暗い街

お久しぶりです。

遅い投稿ですね

あはは…

 慎達は今ある街にいた。

 運び屋アーシュの商売のために目的の街に来たのだ。

走っていた馬車が完全に止まるとエルは窓の黒いカーテンを捲りそこから見える街並みを興奮気味に見渡した。

「この街は広いですね」

 エルがぼそっと呟いたのを聞きながら慎も同じ窓からちらっと街を見る。

 広いかどうかは置いといて、いつ来ても暗い街だ。

 街中から悲しみが溢れ出している。

「なんだか、活気がないですね」

「そりゃ、今の時代に活気がある街の方が珍しい」

 あくまで人間の活気を慎は言った。

 この街の正式名所は知らない。呼ばれ方は様々である。イルッターナ。この呼び方が最も一般的だろう。

  馬車から飛び降り、フードを深く被る。

「でも、闇の方まで活気がないのはおかしいのでは?」

 鋭い所を突く奴だな。荷物を下ろして商売の準備をしているアーシュの横を通る。

「アーシュちょいと散歩行く」

 言うとフードを深く被り馬車から飛び降りた。

「はいよ」

 荷物を馬車からせっせと下ろしていたアーシュは一瞬顔を上げ笑顔で答える。その声に親しみと安心感を感じ慎は小さく「行ってきます」と呟き歩き出した。

 後ろからアーシュとエルの短い会話がなんとなく聞こえてくる。その会話が終わると何を思ったかエルが後からついてきた。慎はめんどくさいと思い深くため息をつく。エルの面倒を見るのがだるい。連れてきたのは俺だが、それでもだるい。馬車で待っていればいいものを。しかし、彼女に今の世界を教えるのには一緒にうろついた方が良いのかもしれない。その方が身の守り方も知るだろうし今後を考えるとめんどくさいと思うことも減るだろう。なら、仕方ない。きっと長い付き合いになるのだから。

「フード、深く被れよ」

 吐き捨てるように言う。言うとエルは慌ててフードを被り直した。

「手伝わなくてよかったんですか?」

「手伝っても邪魔になるだけだろう」

 大通りから人通りが少ない細い道に入る。

 街中からは、怒濤や静かにすすり泣く声が聴こえてくる。やはり、前に来た時とは何も変わらない。いや、この前よりも悲しい空気が流れている。そんな気がする。

「なんでこんなにも活気がないのでしょう?街全体が深い悲しみに囚われているかのようです」

「街に活気がないのは見捨てられた街だからだよ」

「見捨てられた街」

 エルは不思議そうに呟くと周りを気にしだした。そしてもう一度ぼやくように「見捨てられた」と繰り返す。

 そう見捨てられた街。ちょうどよいゴミ箱、不良品の寄せ集め。ここは王からも見捨てられた街。ここに住む住人は王から不要とされたものが多い。理由は様々だ。王を恨む者も少なくないはずだが、ここにいる者は逆らう力も気力もすでにない。ただ息をしている。負け犬。そんな言葉がよく似合う。何もせず何もできずこの町に流れ着き目的もなくそれでものうのうと生きている。たまに王族の悪口を言い合い共感しあう。言い合うこと共感しあうことしかできない。まさに負け犬の遠吠えと言えよう光景。そんな町だがまだ諦めず王族からの信頼を回復させようとしている者もいるらしい。俺はまだ会ったことないが。

 目的があるわけでもなくただただぶらついた。強いて言う目的なら暇つぶしだろう。後は少しの期待。叶わないであろう期待。

 細い道。建物と建物の間の道。人が横に五人は並んで歩ける道ではあるが、人は少ない。その道を歩き続け、水がチョロチョロと流れる川(川と言えるほど水は流れてないが)にたどり着く。そこに橋が架かっている。その橋を渡りさっきよりも細い道を歩く。家と家の隙間が濃く黒く染まっている。黒い町。

「よぉ、ねーちゃん。いい話があるんだがよ」

「え、あ…あの…」 

 謎の男がエルに話しかけてきた。家と家の間や建物と建物の隙間には暗い路地。その路地には悪徳業者が潜んでいて通り掛かる者をまるで獲物を狙う獣のように待っている。そして、獲物を見つけると闇に引きずり込み薬を売りつけるのだ。一度その薬を取り入れたものはその薬に依存する。おまけに脳が破壊され、生き物ではなくなるという。無意識にその辺を歩き回ったり、寝っ転がったり、赤ん坊のように泣きじゃくる奴もいる。街が暗い理由はこの街が一番多くの薬が出回っているからもあるだろう。

 薬は元々、この世界が光に包まれているときからあったらしい。その時は完全に闇とされていた。

 そうなると、この暗い時代隠れて売る必要もないのではと思う。しかし、この時代になってもこういった薬は悪いこととされている。それは、時たま闇一族に売って儲けようとする輩がいるからだ。闇一族の方がお金を持っているから。人間なら罪に問われない。

 なぜ、こんな話をしたかというと……今現在、エルが被害にあっているからである。おどおどしていたから世間知らずに見え狙われたのだろう。闇の商売人の男に今薬を売られている。それを冷静に眺めている俺は何なのだろうと、慎は素直に思った。

「あ、あの…私…」

 エルがこちらを見て、助けを求めているのがわかる。これは、結構めんどくさい無視していいだろうか……。よし、無視しよう。困難は自分で乗り越えるべきだ。それに、なんだか面白そうだ。そう思ってしまう自分に嫌気がするがこればっかりは闇に生まれた(さが)だ。逆らえない。慎はエルに背中を向けた。

「慎……さん……」

 他人のふりをかまし、慎は近くの建物の壁に貼ってあったさして興味もない音楽のチラシを眺めて様子を伺う。

「お姉ちゃん実はさあここに俺良いモノ持ってるんだ。これをな」

 エルは薬を売ろうとしている男と慎を交互に見て弱々しくため息をついた

「ちょっと聞いてますぅ?おねーちゃん」 

 商売人はエルの様子に気づいたらしい。声を荒げる。慎はその荒げた声を聴き商売人の死角となる位置で黒い光を操り手の中に小さなナイフを作る。

「ん?おねーちゃんあそこにいるフード被ったお兄ちゃんは知り合い?」 

 闇の商売人は慎を見る。

「あ、いえ…あの、えぇと」

 このまま見ていても良かったんだが…。

「おにいさんもこちらへ来て、話だけでも聞いていきませんか?」

 もはや無視することはできない事を悟った。ナイフを握った手を背中に隠しゆっくり歩み寄る。商売人はナイフの存在に気づいていない。

「話か……面白そうだな」

「でしょでしょ?おにいさんも聞くべきですよ」

「そうだな。精神や脳を壊す薬とは面白い。興味がある。使った者への興味で自分は使おうとは思はないが」

「へ?まだ話してないよな…俺…」

 なんとも情けない「へ?」に慎は鼻で笑う。

 こいつは馬鹿か?話を聞かなくてもよっぽどの世間知らずじゃなかった場合は気づくだろ。よっぽどの世間知れずじゃなかった場合だけだが。

 慎は一気に距離を詰めて、ナイフを男の首にあてた。男は震えて地面じべたに座り込む。怯える顔。すごい快感だ。怯える顔は人間だろうが闇の住人だろうが見ていて楽しくなる。できることならこのまま苦しめてやりその苦痛に歪む顔を一日中堪能していたい。おいしい紅茶でも飲みながら。少しだけ手に力を込め男の首を切る。赤い血が流れ出す。

「ひっ、やめてくれ」

 慎は満足そうに笑うとナイフを首から離した。

「悪徳業者が。消えろ」

 男は震えながら立ち上がり、奥に行こうとするが足が上手く動かすことができずよろけて転ぶ。なんとも滑稽だ。男は苦労して闇に消えていった。

 慎はナイフを落とすように離す。ナイフは黒い光となって慎の中に入っていった。

「なんですぐに助けてくれなかったんですか」

 エルは半泣き顔で慎の顔を睨んだ。慎はその返答に実に素直に無表情で「面白かったから」と答えエルの返答を待つ。

「面白かったからってサイテーですね」

「性には逆らえんよ」

「逆らおうと努力すればよかったじゃないですか?怖かったんですよ」

「お前はメルヘン国から来たお姫様かよ。俺は王子じゃない」

「そういう意味で言ったんじゃないです」

「俺は都合の良いお前の保護者じゃない。それに最後には助けた」

「それでも、他者の恐怖を楽しむなんて本当に最低!外道」

「それが闇の種族なんだよ。それに種族的に元々外道だ」

 エルは勝てないことを悟ったのか言い返すのを止めてその代わりに小さく呟いた。その呟きは慎の耳にはっきりと聴こえた。慎は呆れた。元々心が綺麗な光の部族はなんて夢を見ているのか。彼女は慎の一言に「そんなことはないのに」と言ったのだった。

 エルは気を取り直してと言いたげに先ほど闇商人が出てきた路地を見つめる。

「え、えっと……あの方は何なのですか?」

 何事もなかったかのように、ではなかったが放たれた声に慎は丁寧に答える。

「変な薬を売って生計を立ててる奴等だ」

 それだけを言うと慎は周りの風景を眺め歩き出した。

 エルはいそいそとついてくる。

「変な薬というのは?精神や脳を壊すとは?」

 まるで、母親に何でも聞く無知な子どものようだ。と思い鼻で笑う。

「徘徊するとか、急に怒り出すとかそういった類のものですか?」

 無知な子どもではなかった。知った上での確認か。慎は苦笑した。

「頭はいいよな」

 呟くようにいい彼女を横目で見ると彼女は驚いた顔をして立ち止まった。

「何してるんだ?行くぞ。世間知らず」

「世間知らずなんかじゃないです」

 エルは膨れ顔を見せて追いかけてきた。その表情がなんだか面白い。いや、こいつは楽しませる才能があるのでは?この感情は悪い気はしなかった。

 目的もなく街を歩き回る。どこを見てもやはり活気はない。人々に笑顔はない。少しは明るくなっている場所があるんじゃないかと期待したんだが…慎は苦しくなりエルにばれないように胸を静かに抑えた。こんな街は…

「アーシュさん。こんな所で商売やって儲かるのかな?」

 不意にエルが呟いた。その声に慎は救われた。会話の内容も身近な存在の内容だっただけに気が紛れる。

「この街に来る商売人は少ない。その中でもアーシュの店はこの辺では手に入らない沢山の食材や品がある。アーシュが来るのは一ヶ月に一度」

 そこまで言うとエルは納得したように頷いた。 

「それなら、売れますね」

 意外と頭の回転が速いな。などと感心する。

「それに、彼奴アイツは商売人としては腕が良い。彼奴の口車にのせられて買ってく客はいっぱいいる」

 それが彼奴の種族の特徴なのだが。アーシュの種族は商売上手のストアキーパァと呼ばれる種族で生まれつき口が上手い種族で知られている。沢山の情報を入手するんのも彼らの得意分野で彼らに聞けば大抵の事はわかる。だが、一つ気を付けてほしい。この種族はお気楽気紛れ楽観的な種族で嘘つきが多い。嘘つくのが上手い種族でもある。そして、何らかの理由で絶滅寸前の種族でもある。

「すごいなぁ」

 感心したような声を出す。

「私は何か得意ななことがあった試はないので、いつもみんなに置いて行かれてる気がします。あの子にだって置いて行かれて」

 ふと悲しそうな顔を見せ、その後は何かを振り払うように首を振って見せた。

「だめですね。こんなんでは、せっかく皆に期待され任されたのだからしっかりしなくちゃ」

 よーしっと気合を入れて手を天高く持ち上げ彼女は笑った。その瞬間かぶっていたフードが剥けて金髪のウェーブのかかった髪が丸見えになる。その美しさに一瞬目を奪われたが

「おい、コラ!」

 慌ててエルのフードを掴み被せた。短い悲鳴が聞こえたが気にしてられない。

「ちょ、びっくりするじゃないですか!!」

「びっくりするじゃない!俺がびっくりした」

 エルはふと立ち止まり周りを見渡した。道と道が交わる十文字でのことだった。なんとなく空気が違うのに気付いたのだろう。慎も釣られるように足を止める。そしてほぼ無意識に左の道を目で辿っていった。人だかりがある。彼処にいるのは皆闇の住人だ。何やら盛り上がっている。

「なんだろう。あの人だかり」

 エルも見つけたようだ。

 慎は溜め息をついた。

 人だかりにいる者は皆手を挙げて仕切りに何かを叫んでいる。何を叫んでるのか耳を澄ますと数字が聞こえる。その人だかりの中心は少し高くなっていて何人かの人が立っている。

 まじまじと見つめなくてもすぐにわかる。

 慎はもう一度溜め息をつく。

 人身売買だ。

 あの人らは人を買い取って奴隷にでもする気だろう。

 慎もかつては奴隷が何人か存在した。酷くこきおろしたものだ。もう、昔の話だが。思い出したくもない。と言うと若干嘘だがそういうことにしておいてほしい。

「ひ、酷い」

 エルもようやく気づいたらしくかすれたような声を出す。それにしても酷いか…

「関わらない方が身のためだエル。助けようなど………っておい!」

 言葉を言い終わる前にエルは走って人身売買の現場に向かっていた。

 闇につけられた傷はまだ完全に癒えていない。呪いのような傷だ。エルは力を少しも使うことはできない。それにエル自身は気づいているのか。あの状態を見ると気づいていないだろう。迂闊(うかつ)だった。やばい。

 慎は走り出す。全力で走った。心拍数が上がり息苦しくなってくる。他人のことで…でも、最後の光だ。

 エルのマントが飛んできた。エルが放つ光を隠す役割のマントだ。それプラス闇の力を抑える役割もある。

 ますますやばい。

 闇一族の何人かがエルに気がついた。エルに向かって暗い光を放つ。

 —間に合わない—

 慎は無意識に手を伸ばした。その手の先からこれまた黒い光が飛び出し一目散にエルの方に飛んでいった。

 エルは黒い光に包まれて数名の闇たちと共に消えていった。慎の放った黒い光が届いたかはわからない。届いてくれていることを祈るしかない。

 慎は冷静さを取り戻そうと息を吸い込みフードを深く被り直し低い屋根に飛び乗りそこからそこよりも高い屋根高い屋根となるべく高い所を目指して上がっていった。

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