記憶喪失の異世界人の誕生
「君は何者?」
中汰英千は、気がつくと広い部屋のベッドの上にいた。
「私は、水崎玲奈。牢屋であなたを助けた人よ」
水崎玲奈と名乗る少女は、どうやら英千を牢屋から助けたらしい。
「え?牢屋」
「そう。ガレンド牢屋。世界最大にして最凶の牢屋」
英千は記憶を探る。しかし、
「あれ?俺ってなにか罪を犯したっけ?」
記憶が無いようだった。
「あなた、まさか……記憶喪失?」
「ッぽいね」
これは、まいったと言わんばかりの顔をする玲奈だった。
「分かったわ。最初から話すわ」
お困りのようだった。
「私がガレンド牢屋の近くを飛んでいたら、1つだけ神々しい魔力を持っている人を見つけたの。この魔力は絶対に悪い人ではないと思って釈放してもらったの」
英千はいきなり混乱していた。
「あ……えっと、俺がわかる範囲では空を飛んだり、魔力とか知らないんだけど……」
英千は記憶喪失だが、わずかに記憶があるようだった。
「俺が覚えている最後のことは……自殺だった気がする」
どうやら、英千は自殺をしたのにもかかわらず生きているようだった。
「自殺?でも、それなら死んでいるはずじゃないの?」
当然の質問をする玲奈。
「それが分かったら苦労しないよ……」
途方に暮れる英千だった。
「にしても、なんで俺は牢屋に入れられていたのだろうね?」
「私が分かるわけないじゃない」
当然である。
「そういえば、あなたの名前は?」
「高校2年生の中汰英千。趣味はありません」
「得意な魔法は?」
「俺は、魔法なんて使えないよ」
「うそっ。でも、今でも神々しい魔力が出ているけど」
「だから、知らないって」
英千はどこに来たのか、どうやってここにいるのかも分からないのである。
英千は玲奈にここの世界について教えてもらった。
「じゃあ、ここはブリゼン王国の名門学校のワリュナ高校ってわけ」
「そう」
「そして、この世界では魔法が使われている」
「そう」
「人々は、魔力による戦いが絶えない」
「そう」
「因みに俺は、神々しい魔力で今だ発見されていないような魔法を使えるかもしれない」
「おわかり?」
「まあ、何となく分かったけど俺が何で記憶がないとか、前のわずかな記憶では魔法はないことになっているとかの説明は?」
「ということは、もしかして、まだ分からないけど……あなたは違う世界からこっちの世界に飛ばされたとか?」
誰もが信じることはないだろうと思う言葉だったが、英千は真剣に考えた。
「まさか」
しかし、信じられない。
「でも、魔法がないって分かっていることは違う世界ってことじゃないの?」
確かに。と納得する英千。
「ありえるな」
「でも、まだ分からないし調べる方法もないから……とりあえずここにいたら?」
それに2年生は明日からだし。と付け足す玲奈に、
「でも、転校手続きとかお金とかは?」
と、悩む英千。
「それは、私が何とかするけど……」
「そんなの悪いよ。見ず知らずの奴にお金を渡すなんて」
英千の言うことはごもっともだ。
「でも、こんな魔力を持っている人を見捨てるなんて神を見捨てることと同義だから絶対にできないよ」
玲奈の目を見て英千は諦める。
「分かった。でも、どうやってお金を返せばいい?」
英千はたかが、高校2年生の人間だ。何かが出来るわけではない。
「じゃあ……私に着いてよ」
「着くって?」
「2年生になると任務が与えられるの。でも、最低2人で組まないといけないの。で、私と組んでくれる人が誰もいなくて困っていたところ君が現れた。君は成長したら強くなりそうだし、どう?一緒に組まない?」
と、予想する玲奈。
「でも、それだけでいいの?」
「もちろん。でも、戦ってもらう時は一緒に頑張ってね」
戦うってどういうことか分からなかったが、
「分かった。でも、この世界にいつまでもいたら家族が心配するだろうから帰る方法を探しながらならいいよ」
「よし。じゃあ、交渉成立ね。さっそく転入手続きをしないとね」
英千と玲奈はそう言って校長室に向かっていった。
「英千君は異世界人かもしれないと」
「まだ分かりませんが」
ワリュナ高校の校長、オリマは若いながらたくさんの出来事があったらしいがこれは1番の驚きだった。
「そうか……。じゃあ、とりあえず転入は認めるが他人にこのことは絶対に言わないと誓う?」
「はい。言ってもメリットないですしね」
「今は魔力で世界が動く。まだ未知力の君を外国に出すわけにはいかないからな」
「はい」
「そして、水崎君。君は英千君から神々しい魔力が出ているといったね」
「いまもでています」
「私には出ているようには見えないのだが?」
どうやら、英千の魔力は玲奈しか見えないようだった。
「まあ、水崎君が嘘をつくとは思わないけどね。まあ、この件は私が調査しておこう」
「ありがとうございます」
英千は今すぐにでも寝たい気分だった。しかし、
「あ、校長。任務のペアの件ですが」
「ああ、あれは今日までだったな」
「私は英千と組んでいいですか?」
「君と相性いい人はなかなかいないだろうからな。いいだろう。許可しよう」
「ありがとうございます」
そういえば、俺がこっちに来た時も相性いいとかいっていたな。と思いだす英千。
「失礼しました」
2人は校長室をでる。パタン。とドアを閉じる音がして玲奈は英千に話しかける。
「というわけで、今日から英千と私はペア。頑張りましょう」
うん、とうなずく英千だが、ふと思う。
「そういえば、俺の部屋は?」
ないね。と以心伝心する2人。
「しょうがないんじゃないの。廊下で寝るとか、あるじゃない」
英千は180度体の向きを変え、校長室のドアを見る。そして、
「校長~。助けて」
英千はしばらく泣きやまなかったという。
「とにかく、1部屋借りたけど期限が1カ月だからそれまでに対策を考えないと」
英千は校長に部屋を借りた。
部屋は学校にあり、ワリュナ高校は割と大きいので生徒全員が部屋を借りている。
「でも、部屋は広いな」
そんな驚きを抱いていると、
「うわっぁ」
英千にすさまじい頭痛が起こる。まるで、脳細胞があの事を思い出そうと必死になっているようだった。
「何だ……これは」
頭の中に映像として何かが現れる。
「これは、パーティーか」
頭痛は治まり映像に必死になる。
「大人がいっぱいいて、誰かがスピーチしている……うわぁ」
再び頭痛が英千を襲う。
「はぁはぁ。でも、なんだったんだろう。今のは」
いきなり映像が出てきたと思ったらいきなり消えるし。流石にこれが続くと困るなぁ。と思う英千であった。