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MAX HEART!  作者: ユウ
――リトルウォーズ開幕編!
9/58

ショッピングkana!

 ――七月十六日。

 相沢かなは、一人で街を歩いていた。

 都会という程でもないが、それなりに栄えた街。暮らしに不自由する事もないぐらいに物品があり、人も多いとはいえないぐらいの人口であり、暮らしやすいといえる街並みではないだろうか。

 七月に入り、本格的な夏の暑さが照りつける。白い清純なワンピースを身につけて歩く姿は、涼しさを連想させる。

 かな自身もそれ程、暑いとは感じていないのか涼しい表情をうかべる。

 ただこうやって歩いていると、年相応の女の子である。実際、かなの目的もショッピングであり、あてもなく「良い物」を探して歩く。


 参加登録に向かったワタルは何故か、気合が入っていた。

 十四日に会ってから、ヒロキを連れてトレーニングや練習試合をしている。かなも、それなりの付き合いをしてから今に至る。

 かなにとっては、基本的なトレーニングというものも「今更感」が拭えないのだろう。何故ならそんな事は日課のようにやっているからだ。引き締まった美しいボディラインは日々の修練の賜物といえよう。

 それにワタル達とは会ってまだ数日しか経っていない。いくら同じチームにいるとはいえ、あまりベタベタした付き合いは好ましくはなかった。

 何よりも、相沢かなという人間は束縛を嫌う思考がある。根本的には自由人なのだ。

 だが自由人とはいえども、人付き合いの作法は承知している。だからこそ「それなりの付き合い」をこなしてからのショッピングなのだ。

「あいたっ!?」

 鼻先に衝撃がある。恐らくは誰かにぶつかったのだろう。

「てめぇ、どこ見て歩いてやがんだ、コラー!」

 やけにチンピラ風味な口調。明らかに格下な感じがする。

 実際、顔を見ると今時リーゼントな感じの髪型。ちょっと昔の暴走族漫画に出てきそうな髪型。強面(こわもて)とは言い難い、面白い顔がそこにいた。

 人数を見ても三人。ただのチンピラならば三人という数は、かなにとって雑魚と変わらない。

 だが三人の内の一人。雑魚二匹に囲まれた大物はいた。

「あ、二之宮さん」

「あぁ?」

 二之宮小次郎――以前、学校に現れて騒ぎを起こした人。

 街中に不良三人の構図。非常に「あり」な構図だと、かなは思う。

「雑魚二匹つれて……何してんのかな?」

 この問いに対して、周りの二人がやたらと騒ぐ。この反応がいかにも雑魚。

 二之宮はギラつかせた目で、かなを見ている。よく「殺す」という言葉で殺意を表明する事があるが、二之宮の目は殺意というといきすぎるが、それに近い何かを秘めている。

 まるで「復讐や妬み」といった負の感情からくるそれと、なんら変わりがない。

「おい女。あまり調子に乗るな、女なら我が身もかわいいだろ?」

「どういう意味かな?」

 その質問に質問で返す。うすうすだが意味はわかっている。

 善ではない人間に近づいて、その結果で女相手に何をするのかわかっているのか、と問う。

 勿論、かなはそうさせる気は無い。だがそれは、かなの過剰な自信からくるものだ。その証拠に、二之宮を相手にする際は、かなも警戒だけはしている。

「ふん。とにかく、あまり調子にはのるんじゃねぇ」

 捨て台詞だけを吐いて、二之宮は歩いていく。それにつられて歩く、雑魚二匹。

 街中で喧嘩沙汰にしないところが、二之宮の器の測りとなる。

 だが、かなには一つ疑問として思う所がある。何故、二之宮が不良なのか。二之宮は不良という枠に収まるべき人間ではない……かなの直感が告げている。


 二之宮に会うというアクシデントはあったものの、かなは気にせずにショッピングを続ける。

 明日からはリトルウォーズ開幕である。戦いの毎日になる為、今だけが唯一普通の女の子として活動できる瞬間。

 ふと思う。ワタルとヒロキはどうしているのか。

 恐らくはヒロキがこってりと絞られているのだろう。それを想像するだけでも面白い。

 結局は変なアクシデントと、適当な考え事をしていると日も暮れていた。

 立派に夕方といえる時刻なのだが、それでも暑さを感じる。根本的に風もぬるく、涼しい要素が一個もない。それでも夏の太陽が照りつけなくなってきているだけでも良いのかもしれないが。

「そうだっ!」

 恐らくはまだ練習をしているだろう、二人の為に飲み物を買っていこうとする。

 練習に付き合わなかったのだから、せめてもの付き合い。

 水分補給に適している、清涼飲料水を人数分だけ購入して恐らくは「いつもの公園」へと向かう。


 街から公園までは、およそ十五分の距離。

 何もない殺風景な公園に、二人の姿はすぐに発見できる。相当な練習をしたのだろうか。二人とも汗まみれで倒れている。

「お、やってるねー」

 かなは二人に声をかける。

 ワタルは完全燃焼しているのか、やる気のない声で返事をする。

 対してヒロキは、しっかりとかなを見る。

「ほらっ!」

 かなは、ワタルとヒロキに買ってきた飲み物を渡す。

「お、サンキュー!」

 今まで死に体だったワタルが、飛び起きる。

 ヒロキは疲労困憊なのに対して、ワタルはなんだかんだと余裕がある。このあたりがワタルとヒロキの「差」なのだろう。

 それにワタルは疲れた、というよりも暑さにやられたという方が近い。

 二人とも、渡された飲み物を一気に飲み干した。

「で、どうだったのかな?」

「何が?」

「練習はうまくいったかって事」

「見ての通りだ!」

 つまりは上々だという事だろう。汗もさる事ながら、砂地にある跡が物語っている。

「明日からいよいよ、念願のリトルウォーズだからな」

 そう言ったワタルの目には、自信に満ちている。

 汗に染まったトレードマークの赤いハチマキは、さらに赤く見える。ワタルにとっても、かなにとっても、最初で最後になるリトルウォーズ。

 それぞれの想いをのせて、時間が動き出していた。

 

 ――そして、七月十七日。

 いよいよリトルウォーズ開幕を向かえる。

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