天才の視点!
――Fエンゼル――天才、三崎清純が率いるチームである――。
今までの戦績は、過去三年間の連続出場。そして三年間ともベスト4に入るという、真の強豪チーム。
事実、現在までに三連覇を果たし、今年で四連覇を成し遂げようとする王者、「T,O,テイカー」の最有力対抗団体である。プレイヤーとしての能力も、王者松原と天才三崎と言われる程の知名度である。
一昨年は、準優勝の二位。去年は惜しくも三位。そして今年こそはと炎を燃やすチームだ。
――七月十四日。放課後。
学校の事を片づけて、一人部室に向かう三崎。
三崎の学校は、リトルウォーズの為の「ちゃんばら部」なるものが、正式に部として活動している。
剣道部との違いは、と取れるところは「ちゃんばら」の名前にごまかされてしまうが、武器がいわゆる剣だけではないところである。
真剣や銃といった、いわゆる本物の使用は禁止。それ以外ならなんでも了承されている。それこそ喧嘩だろうと格闘技だろうと、だ。
「三崎!」
「やっ、勇!」
三崎を出迎えた男。池勇という男であり、三崎と同じく今年で三年生。つまりは今年で最後のリトルウォーズの為、三崎と共に優勝の二文字を目指している。
身長自体は165cmと小柄な方の部類だが、恵まれた筋肉隆々の体格が、小柄と感じさせないほどの迫力を持っている。頭も丸坊主にし、気合の入り具合を伺わせる。
「どうだった?」
「うん、まぁまぁ」
ハキハキと喋る池に対し、相変わらずマイペースを崩さない三崎。
この二人はうまい具合にバランスがとれている。Fエンゼルの代名詞である「天才三崎」の他にも「攻めの三崎と守りの池」と称される程の二人である。
「だけど……何人か良いのがいたね、この戦いを盛り上げてくれるだろうって奴が、さ」
「お前にそれ程の事を言わせるとは……いつしか俺達の足下を揺るがすかもしれんな」
「……それはない。良い素材だがまだ弱い。才能という点だけ見てしまえば、うちの『仁』に匹敵するぐらいの才を見出せたんだけどね」
「ほぉ……!」
池は内心、今までの考えが改まる程に驚いていた。
ここが守りの池、と称されるところ。楽観的に物事を見てしまう三崎に対して、常に計算しつくされた考えを持つ用心深さ。
才能に秀でる奴が、いかに恐ろしいものかという事。池は不安に駆られる。
「ところで仁は?」
「いや、俺にもわからん」
「ふーん。ま、仁ってマイペースな奴だからな」
「お前が言うな、お前が」
不安に駆られていた池だが、このマイペースさが三崎である。
三崎にはそういうオーラがある。どんなに不安に駆られていても、この男ならなんとかしてしまう。なんとかできてしまう。
そんな気持ちにさせるオーラ。天才のオーラとでもいうのか。
「じゃあ、僕はちょっと先生に会ってくるよ!」
「了解した。練習は適当に切り上げさせるぞ」
「任せたよ」
部活として活動をしている為、Fエンゼルには顧問となる先生がいる。
一応、本人に自覚はないのだが、三崎は部長である。前日の参加登録の事を、顧問の先生に報告するために職員室を目指す。
「失礼します!」
職員室に入る時の「お決まりの台詞」を言って、三崎は目で顧問の先生を探す。
放課後という事もあり、職員室に残っている先生は少ない。目当ての先生はすぐに発見できた。
「先生!」
「やぁ、三崎君ではありませんか」
三崎とは違った意味でマイペースな先生。
名を「石田孝三」という。外見だけ見れば、年齢は五十代にさしかかってそうである。白髪交じりの髪の毛に、やや、やせ気味の体型。一言で表すなら紳士だろう。
「昨日、参加登録を済ませてきたんで、報告にきました」
「ご苦労様です。本来なら私が行くべきなのですが……」
「いえ、気にしないでください。良い人間観察もできましたよ!」
「はっはっは、そうですか」
石田先生は、過去何年間もリトルウォーズの大会を見てきている。
しかし優勝の席だけはいまだに着いた事がない。Fエンゼルの部員とレギュラーメンバーは今年こそ、石田先生を優勝の台座へと座らせてあげたいという一心だ。
三崎も、そう考えている。
それに石田先生は、最近になって体の具合がすぐれなくなっていて、顧問として活動できるのも今年が最後と噂されている。
参加登録日も、突然の不調により、三崎が登録に行っている。
「じゃあ、先生。僕はもう帰ります」
「はい。気をつけて」
三崎は一瞬だが、今でも辛そうにする先生を見ている。
辛い体を押して、王者チームにどうしたら勝てるか。的確な練習方法は。――などといった、対策を熱心に研究していた。
そんな先生の熱心な姿を見て、さらに優勝の意欲をかき立てた。
校舎から出ると、池が待っている。
「なんだ、帰ってなかったのか?」
「構わんだろ? ちょっと色々と話もしたくてな」
「ふーん」
めずらしくもない。池はいつも真面目だからだ。
そんな池が、真面目に話たがっているように見えた為、三崎も案に乗る。
「正直、どうだ? 今年は優勝できそうか」
「おいおい、メンバーのお前がそんな事……」
「勿論、俺は優勝する気がある。しかし嫌な予感もある」
「勇は心配しすぎなんだ。もっと前向きにポジティブにいかないと、やれるもんもやれなくなっちゃうぞ?」
「そうなんだがな……」
池の心配性は今に始まったわけではない。
だが、三崎にも覚えがある。前に池の悪い予感が的中したのは、去年の事。
二年連続で優勝決定戦は「T,O,テイカーvsFエンゼル」だと誰もが予想していた。その絶対に覆るはずのない予想を、覆される。
去年の最優秀選手である「二之宮小次郎」――この男の存在により、Fエンゼルは、二之宮のいるライジングズに敗北。結果は三位終了という苦汁を飲まされた。
「……わかった。僕も少し楽観視は控えよう」
去年の嫌な思い出が、三崎の頭の中に広がっていく。
三年連続の優勝候補チーム。「候補」という二文字がついてるか、ついてないか、という差が今の王者チームと、Fエンゼルとの差なのかもしれない。
今年の戦いは、三崎にとってジンクスとの戦い。
三崎と池のFエンゼルもまた、優勝の二文字へ歩き出していた。