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MAX HEART!  作者: ユウ
――もう一つの予選編!
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もう一つの四回戦!

 ――七月二十九日。この日、ワタル達は対フォースアラート戦を勝利で飾り、予選トーナメントを突破する。その他、数チームが予選突破の名乗りを上げる中で、もう一つの予選第四回戦が行われていた。

「――そこまでっ、予選四回戦の先鋒戦はFエンゼルの池勇の勝利とする!」

 そうマックスハートとは別会場にて、優勝候補の一角であるFエンゼルが、予選通過を目指し奮戦している。対戦相手はハッピーハピネス。チームレベルとしては、とてもまとまっていて、順当に行けば予選を無事に通過する程の実力を備えたチームである。

「ナイスッ、池!」

「当然だ、俺達はこんな所で止まるわけにはいかないだろう?」

 Fエンゼルリーダーの三崎と、先鋒戦を勝利で飾った池は、祝福のハイタッチを交わす。二人の信頼関係が成せる絵である。池はハッピーハピネスの先鋒戦の選手である阿部を、わずか三分で倒すという速く、且つ的確な戦いで盤石の勝利を収めている。

 この光景に、顧問としてチームをまとめている石田先生も、にこやかに見守っている。そして石田の目は、Fエンゼルの蛇竜である速水仁に向いている。

「おい仁よ。わかってるとは思うが、あまり気張らんで良いぞ。自分のペースで試合を構築すれば良いのだよ?」

「……チッ、誰に向かって言ってんだ、ジジィ! 仮に何かのハンデがあろうと、俺がこんな雑魚レベル相手にやられるとでも思ってるのかよ!」

 先鋒戦の勢いに乗り、Fエンゼルの中堅戦選手である速水仁が出る。ここまでの戦いの経過から、速水仁の名前は圧倒的に、今年度リトルウォーズに響き渡っており、仁がバトルリングに向かうと、一種の殺伐とした歓声が起きている。見物客のノリも、良い試合が見たいのではなく、仁が相手選手を容赦なく蹂躙する様が見たいという、ノリが多くなっている。

「――それでは中堅戦、速水仁と坂本明の試合を行います!」

 仁と戦う相手は、坂本明という。武器は木刀。元々がちゃんばらである事と、リーチ的有利な問題で、予選四回戦ともなると、木刀を主流とするプレイヤーが増えてくる。

「速水仁、かなりの実力者らしいが、君にはここで消えてもらうよ?」

「……言葉っていうのは、その野郎の人となりを表すには的確なものだな」

「……何だと!?」

 仁の言葉に、坂本は険しい顔つきで、仁を睨み付ける。ここまで来たプレイヤーだ。その眼光で並の相手は、威圧で押されてしまうだろう。しかし仁に限っては例外である。仁はむしろ、そんな相手の狂気の風を受け、逆に心地よく楽しんでいる。口元がうっすらと笑う。

「まぁ良い、早く来い。俺はお前みたいな奴と遊んでいる暇は無いんだ。……この後、今日発売の最新作のゲームを買いに行かなければならねぇからな」

「なっ、貴様……! ならお望み通りにしてやるよ!」

 坂本は挑発のままに、仁に向かっていく。四回戦レベルとしては、スピードはそれなりに速い。そして木刀を振るう旋回力も、並以上ではある。しかしその程度では、仁にとって避けるのは容易な作業である。流れるような流麗な動きで、その一つ一つの攻撃を避けていく。その正確に似合わず、しなやかな体躯は、見る者を虜にする美しさがある。

「くそっ、これだけ攻撃して、何故一発も当たらない!?」

「……ふっ、はっはっはっは! おいおい、そんな事もわからねぇでここまで来たのかよ!」

「な、何っ!」

 仁は鋭い攻撃を避けながら、高笑いする余裕を見せつける。

「一発も当たらない理由は簡単だろ、おい? 俺が強く、お前が弱すぎる、ただ一つの簡単な理由だろ、馬鹿がっ!」

「こ、この野郎っ、いくら優勝候補のメンバーだからって舐めるのも、いい加減にしろよ!」

 仁の安い挑発は、今の坂本に火をつけるのは十分だった。ただでさえ十分すぎる攻撃の弾幕は、怒りと共にその速度を増していく。

(――これだよ、これ。この怒りを俺にぶつけてきてくれよ。最っ高の気分だぜ)

「……だがお前の狂気も、飽きるな。俺を楽しませるには、お前の狂気ははした金にならねぇ」

 ただその場で避けるだけだった仁は、初めて大きく後退する。いや後退して間を離し、自分が攻撃する上での適正距離へ移動したのだ。小回りは利いていたが、やや大振り気味になっていた坂本は、大きくその体制を崩してしまう。

「覚えておけよ、怒りのままに戦うのは所詮、三流のやる事だってよ。……シャアァァァ!」

「は、速水、貴様ぁ! ……っふぅぐ……!」

 その蛇の鳴き声のようなかけ声と共に、一気に坂本のみぞおちを突き刺す。仁にとっては当然の話だが、みぞおちを突いたのはわざとである。そして、みぞおちを突かれた坂本は、声にならない声を出し、腹部に走る痺れるような激痛と、そこから襲ってくる鈍痛に、ただ悶絶し倒れる事しかできない。

「そこま――」

「ちょっと待てよ、審判よぉ! ……この野郎は、まだ降参してないぜ?」

 言葉が喋れないほどの、痛みと戦い、ただ悶絶しながら倒れているだけの坂本に、仁はゆっくりと近づいていく。坂本は目の焦点が合っておらず、近づいてくる仁を見る暇もない。

「お楽しみは、これからだろ?」

 仁は坂本の顔面を蹴り飛ばした。気持ちの悪くなる鈍い音が、リング中央から響く。加減無しに蹴り飛ばした為、坂本の鼻は陥没し、大量の鼻血が噴き出している。

「やめなさい、仁君。テクニカルノックアウトだ、それ以上攻撃するなら、君だけでなく、チーム全体を失格とするぞ!」

「……わかりましたよ。やめれば良いんでしょ、どっちにしてもやめてましたけどね。トドメをさした獲物に用はない」

 仁は不敵に笑いながら、リングから離れていく。蹴った右足には、坂本の返り血がべっとりと残っている。

 こうして波乱の展開を続出させながらも、優勝候補チームであるFエンゼルも、予選通過の名乗りを受ける。しかし栄光の歴史に彩られた天使チームには、ここまでの仁の戦いによる評価により、戦いに勝利した後は、必ずブーイングが起きるようになっていた。

「俺達は、お前らなんて認めねぇぞ!」

「天才の名も、墜ちたもんだなぁ、三崎!」

「Fエンゼルじゃ、T,O,テイカーには勝てないぜ! 今年も天使は墜ちてしまえよ!」

 いつからか、このようなブーイングがつきまとっているのだ。酷い時には、物を投げる人間もいる。

「仁、お前は……。あんな戦い方いい加減にしないか!」

 激しい怒りを見せつけ、仁に怒声を浴びせるのは池だ。

「あぁ? 俺は別に不正はしてねぇだろ、言いがかりはよせよ、先輩」

「そうじゃない、最後の顔面蹴りは必要無い行動だっただろう!」

「戦いはまだ続いていた。それに戦っている相手にトドメをさすのは、当たり前の話だろ?」

「そうだったとしても、あの行動はやりすぎだ!」

 浴びせられるブーイングの中、池と仁はお互いの意見を引かせずに言い合いになる。その勢いは言い合いに止まらず、今すぐにでも殴り合いに発展してしまう勢いである。最も、今ここで試合外の喧嘩になってしまったら、Fエンゼルの大会失格は目に見えている事である。

「おい止めないか、二人とも。今ここで、喧嘩になるのはまずい。頭を冷やすんだ!」

「しかし三崎っ!」

「良いんだぜ、喧嘩になってもよ。この先輩面した野郎に、二度と先輩面させねぇようにするからよ」

「……仁もやめろ! この事は、明日に反省会をする。とにかくここで騒ぎを起こすな!」

 栄光の道を歩んでいたFエンゼルだが、予選トーナメントを波乱の展開で終了する。天使は過去最高に荒れているのだ。

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