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MAX HEART!  作者: ユウ
――フォースアラート戦編!
53/58

数秒間の攻防戦!

(――自称天才プレイヤーらしいけど、でも実力は文字通り天才の名をあげても良いぐらいの、モノを持っているみたいね――)

 その言葉は一体誰の言葉だっただろうか。防戦一方になるワタルの頭の中に、その言葉が確かな実感となって襲いかかっている。そう対戦相手の少女、梓=クゥ=コードベルの事である。

 ワタル自身の体調不良は、言い訳にならない。それは今現在、戦っているワタルが正直に感じた事である。梓は間違いなく天才、あるいはそれに匹敵する実力を確かに持っている。弱冠十三歳の少女が、これ程の能力を持っているのだ。仮に万全の状態で、能力的にワタルが勝っていたとしても、近い将来、自分を超える実力を以て、立ちはだかるであろう少女。

「ワタルさん、もうここいらでギブアップとちゃう!?」

「…………!」

 たった今まで梓の攻撃に耐えてきた理由。それはこの小さな攻撃故の攻撃力の低さ、確かに小柄な割に攻撃力はある方なのかもしれないが、ワタルはもっと強い攻撃を何回も受けて耐えてきた。

 そしてもう一つは、自身の夢の為。優勝する男は小さな石にもつまずかない、というプライドの為である。しかしそのプライドも、一人の男に託す事により、今まさに折れんとしていた。

(へへへ……なるほど、こいつは天才級だ。仮にオレサマの体調が万全だったら……いや、そんな事を考えるのは、この目の前の凄い相手に失礼だ。……でもどっちにしても、今の状態でこいつに勝つのは不可能だ、大丈夫……次はヒロキだ……オレサマは知ってる、ヒロキなら必ずフォローしてくれる、と)

 梓自身の圧倒的な旋回性能、小刀独自の手数と小回り、これらの要素から遂にワタルの口から一つの言葉が出る。

「悪ぃな、ヒロキ……後は任せる。……ギブアッ――」

 その時、周りの大歓声に今まさにかき消されんばかりの小さな、それでいて感情の集約された声が、ワタルの耳に微かに届く。

「黒子さん、ワタルさんはギブアップしたんちゃうか!?」

「むっ……!?」

 攻撃を仕掛けながらも、ワタルのそんな小さな言葉を聞き取る余裕が、梓にはある。そんな梓の言葉通りのものなのか、黒子も注意深くワタルの様子を見る。最も、このまま防戦一方が続いてしまうと、黒子からのTKOテクニカルノックアウトもあり得てしまう。

(なんだ、何が聞こえた……? もう一度、言ってくれ……)

「……さん、がん……!」

(もう一回……もう一回だけで良い……、もう一回だけ言ってくれ!)

 その願いは届いたのか、かき消えそうなその叫びは、確かにワタルの耳に届いた。

「――ワタルさぁぁぁああん、がんばれぇぇぇーっ!」

(――結衣!?)

 一瞬だが、ワタルは声が聞こえた方向を見る。そこにはいたのだ、ヒロキが、かなが、桐華が、そして結衣が、全員がワタルを応援しているのが見える。

「チッ……何を他力本願になってやがんだ、オレサマはよ」

「ワタルさん?」

「うっ……おおおおおぉぉぉりゃあぁっ!」

「きゃあっ!?」

 被弾を覚悟で、全力で木刀を薙ぎ払う。その攻撃は防御されてしまったが、小柄な梓には防御を貫通してダメージを与える。何よりも、ワタルのパワーを抑えきれず、この試合中初めて大きく後退させる。

「オレサマとした事が……うっかり自分の信念を忘れてやがったぜ」

「うぅ、この力……ほとんど死に体だった人が、そない馬鹿な事があるんか……?」

「よぉ、ガキんちょ。覚えておけよ……オレサマ達はマックスハート、マックスハートは全力の心! 全力でやればできねぇもんなんてねぇ……そして、体力がやばいなら気力で補え、言い訳はしねぇ。常に全力、それがマックスハートだ!」

 薄れゆく意識に勝つ為に、声と共に気合いをはき出す。その気合いに梓は一気に、自分が精神的に飲み込まれていく感覚を覚える。

「こ、これが、噂に聞くマックスハートのリーダー……響ワタル……。す、凄い気迫や」

 この年齢にして、この強さと技量を兼ね備えた少女ではあるが、ある意味ではこの精神力が梓に足りないものなのかもしれない。

「残り時間も無い事だしな、一気に行くぜ……コノヤロー!」

「ひっ……!!」

 ワタルの気合一閃。その一撃で梓は精神的に追いつめられてしまう。

(と、いってもまいったな……結衣の一言で、切れそうだった精神はつなぎ止めたが、残念ながら体のダメージはそうはいかねぇときたもんだ!)

 ワタルは再び木刀を構える。いや正確には構える事しかできないのだ。自分から攻撃をする事は勿論、まして大技ぶったぎりなどは使う事はできない。同じくして梓も萎縮してしまっているのか、変に身構えてしまい、攻めてくる事がない。

「どうした、さっきみたいに攻めてこないのか?」

「……うぅ……!」

「残り時間はあとわずか……先鋒戦はオレサマ達が取ってる、そして仮にこの中堅戦を引き分けたとしたら、お前達のチームはかなりの痛手になるぜ?」

「そ、そないな事はわかっとるわ!」

 これはワタルなりの駆け引きである。気力は充実しても、体力的に動けないワタルが狙うのは、梓の動きに合わせたカウンターである。そして仮にカウンターのチャンスが来ても、結局は大振りは禁物。梓は確かに精神的には年相応な部分はあるが、タイプ的には速水仁タイプであり、確実に仕留めなければならないのだ。

(さぁ来い! 引き分けても別にオレサマは痛手にはならないぜ、何よりもお前みたいな凄い奴とは、お互いの持てる力をぶつけて終わらせたい……早くしろよ、オレサマの意識もいつまで保ってられるかわからねぇからな)

(ど、どないする!? アカンわ、怖くて足が竦む……こないな恐怖を埋め込んできたプレイヤーは初めてや……いや、アイツ(・・・)に似とるわ。あの王者……松原要にっ)

 試合はそのままお互いに見合ったまま膠着状態となってしまう。ワタルと梓にはその時間が何分経過した出来事なのかはわからない。それでも時間は気にしていられない。お互いに気を抜いたら、ワタルは精神を保っていられない、梓はいつ攻められるかという疑心暗鬼にかかってしまっているからである。

「どうした二人とも、残り時間はあと二分を切ったぞ!?」

 時間の感覚が無くなっていた二人は、黒子の言葉でその概念が戻ってくる。

(あと二分、か。……二分……長い、さっきから意識が飛んでんだぜ、早く来い! 何もしないで二分は耐えられねぇぞ……)

(そ、そうや、残り二分しかないんやで!? 梓、今動かんでいつ動くんや、行くんや、ビビるな梓!)

 長いワタルの呪縛を克服したのか、梓はようやく構えが前傾気味になり、攻撃のタイミングを伺い始める。だがワタルは勝利を確信している。梓本人は全く気がついていないようだが、恐怖は払拭仕切れていない、それ故の固さが構えから見て取れる。

「行くで、響ワタルッ! 最後の勝負やで!」

 最後の勝負、その言葉通り、小柄な体格に似合わないステップを踏み、一気にワタルとの間合いを詰めてくる。その速度は、この試合でみた梓の最高速に、勝るとも劣らないぐらいの速さである。

「クッ……!?」

 これはワタルの誤算である。何故なら梓はこの試合終了まで、多少の畏縮が残るものだと予想していたからだ。その畏縮により、梓の速度は飛躍的に落ちる予定だった。その誤算というのは、梓は動き出せば吹っ切れてしまうという点である。恐らく、梓の頭の中にはワタルへの畏怖の念が、今だけとはいえ克服されている事だろう。

「そうや、何をしてたんや、ウチは! 相手はほとんど死に体や、気合いだけで肉体のダメージはどうにかなるもんちゃうで!」

「……気合いだけで肉体ダメージは、か。……いや全くその通り、だから来てもらうぜ、勝利にな!」

 最後の攻防戦(ラストスパート)。残り時間数秒の、ワタルと梓の戦いは終局を迎える。

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