リフレクターバレッツ!
ガバメントとデザートイーグル、二丁の銃から放たれる水弾。二丁合わせた水弾の弾幕が、再び藤沢を襲う。
「コレガ、ダイサンノトリックデスカ? コレガ、トリックナラバ、ヒョウシヌケデス」
「…………」
弾幕の中には、トリックワンの跳弾も含まれている。しかしこの軌道の過程では、二番煎じにすぎない。聴覚で判断し、受け流しに関して最高の技量を誇る藤沢の前には、例え上下左右、仮にも軌道が跳弾しようと円を描こうと、関係がないのである。
「……第三のトリック。……トリックスリーはもう始まってる」
「ハジマッテイル? ……ムッ!?」
一瞬飛んできた一発の水弾に藤沢は、間一髪でかわす。たった一発の弾に、初めて藤沢がよろめく。今までの攻防から、桐華の持つ軌道バリエーションの中に、藤沢の体勢を崩す一撃は無かったはずなのだ。
「ナ、ナンダ、イマノハ!? オトガ……オトガ、カワッタ!?」
「……トリックスリー。……跳弾する弾達」
残り時間も一分が過ぎ、藤沢に引き分け決着させるわけにはいかない桐華は、第三のトリック――リフレクターバレッツで攻勢に出る。全ての攻撃を余裕で避け続けていた藤沢の顔から、余裕の表情は既に無くなっている。むしろ正体不明のこの攻撃に、苦悶の表情さえ浮かべるぐらいである。
その正体不明の軌道は、遠目で見ているワタル達にははっきりと見える。
「――リフレクターバレッツ。跳弾する弾達……ねぇ。あの藤沢って奴には天敵な技だな、こりゃぁ……」
「うん、トリックワンとツーは視覚奇襲効果技。そしてこのトリックスリーは視覚にも聴覚にも有効。その技の性質は、名前の通り跳弾する弾達。跳弾する弾であるリフレクターバレットとの明確な違いは……例えば障害物に当てて、弾を跳弾させ軌道を変えるトリックワン。その性質上と使用場所から跳弾回数は一回。故に藤沢さんのように音で攻撃を、判断するタイプには弾の来る方向が違うだけで、通常の軌道のそれと何ら変わりはない。でもトリックスリーは違う、あれは……その名前の通り、地面に当たった跳弾を更に弾によって跳弾させている。跳弾した弾を跳弾させた弾で、更に跳弾させているから、視覚でも聴覚でも判断するのは極めて困難だよ」
「凄ぇ長い説明だな……しかも難しい」
「最近は出番が少なかったんだ。ちょっとぐらい出番をくれよ、兄貴」
「クゥッ、コウゲキガ、ヨメナイ……」
かろうじて攻撃を捌ききれていた藤沢だが、ついには直撃を許してしまう。水弾の威力は落としていても、それなりの威力がある為、一撃くらっただけでも足を止めるには十分すぎるダメージを与えられる。
「ガハッ……! マ、マルデ、オトガシホウハッポウカラ、オソッテクルヨウダ、ウグッ!」
一撃の威力が高かった為か、その一発で冷静さを欠いてしまう。最も、音で戦う藤沢の聴覚を狂わせ、視覚で判断できない為、水弾の襲ってくる恐怖からパニックに陥っても仕方のない事である。ただ小さくなり、急所への直撃を避けるように、防御して時間を稼ぐ。
「アト、スウジュウビョウモタエレバ、ジブンノカチダ。ソレマデ、ナニガアッテモ、タエテミセル!」
意気込んで防御に専念した藤沢の耳に、一つの足音が後ろから聞こえる。
「マサカ……ソンナコトマデ、シテクルトハ……」
「……これで終わりです。ギブアップしてください」
桐華のガバメントが、藤沢の頭に突き立てられる。防御の為に体を強張らせている藤沢には、咄嗟に攻撃に転じる事はできなかった。何よりも、そんな事をしても対戦相手となった桐華は、そんな隙すらも見逃さないプレイヤーだという事は、戦った藤沢本人が痛い程に痛感している。
「ダイサンノトリックデ、チョウカクヲミダシ、チョウダンノオトデ、ジブンノアシオトヲケシタ……イヤ、チュウイヲカンゼンニ、ソラサセタ、トイウワケデスカ。……フゥ、ワカリマシタ。ギブアップシマス」
藤沢自らのギブアップにより、予選四回戦、先鋒戦の一戦は残り時間一秒を残して、桐華が勝利を納めた。
「サクライトウカ」
「……はい?」
「アナタホドノプレイヤーニ、ソコマデノオモイヲ、イダカセルヒトトハ、イッタイナニモノナノデスカ?」
「…………さぁ? 実のところ私にもよくわかりません。……ただ、その人と一緒に夢を見たいし、追っていきたい。そう思ったから私はここにいます」
「ソウデスカ。ジブンのオモイハ、ハタスコトガデキマセンデシタガ、アトノフタリガ、カナラズハタシテクレマショウ。……サクライトウカ」
「……まだ何か?」
「イエ、ジブンハ、コノグライチカケレバ、シンオンガキコエルグライノ、チョウカクヲモッテイマス。ソコデヒトツオセッカイナガラ、アドバイスヲ」
「……アドバイス?」
「ジブンノココロニスナオニナリナサイ。イマデハナクテモイイ、シカシ、オモイハツタエナケレバ、ツタワラナイノデスカラ」
藤沢はその言葉を残し、静かにリングを後にする。桐華はその後ろ姿を、静かに見送り、そしてマックスハートのベンチへ戻っていく。
戻るとヒロキと、ボコボコの顔をしたワタルが待っている。かなと結衣は、まだ戻ってきてはいない様子である。
「お疲れ様です、桜井さん!」
「トーコ、ナイス!」
ワタルは、その言葉と共に、桐華に向けて親指を上に突き上げる。ボロボロな体で、精一杯な笑顔をジ自分に向けているのを見て、桐華は二人にわからないような、小さな笑みを浮かべていた。
「……ワタル、当たり前。……私は、私の仕事をしただけ」
それだけ言うと、桐華は汗を拭う為に近場の水道へ向かっていく。
「相変わらずクールだね、桜井さんは」
「あぁ、だけどトーコはあんなので良いんだよ。オレサマはチームで一番トーコを信頼してるさ!」
「……一番の信頼……それは強さっていう意味で?」
「強さ……っていう面でもそうだが……まぁ、色々とな」
ヒロキはワタルとの会話に、何かの引っかかりを感じていた。その正体がわからないヒロキには、静かな苛立ちが満ちている。行き場がわからない感情が、ヒロキの中で渦巻いている。
「……っ!」
その小さな苛立ちを、舌打ちにして外にはき出す。
「どうしたんだ、ヒロキ? お前が舌打ちするなんてめずらしいな」
「……いや、何も。……ねぇ、兄貴?」
「どうした?」
一呼吸置いて、ヒロキは口を開く。
「今のマックスハートって、何て言うか賑やかになったよね」
「あぁ、リトルウォーズ開幕前の状態が嘘のようだぜ。オレサマとお前しかいなくて、マサとケン誘ったけどオレサマが怒って却下しちゃってさ」
「あははは……あったあった」
「それで、かなっぺ誘って、トーコが来て、気がついたら結衣まで入って……いつの間にか五人!」
「うん……」
「だから行こうな、優勝決定戦の舞台へ。そして優勝の栄光へさ!」
ヒロキはワタルを見ると、まるで光を見ているような錯覚がする。ワタルの良さは常に前向きに物事を捉え、且つ目標がはっきりとして純粋にそれに向けて走れる事なのだ。だからこそ今のヒロキには、ワタルの光は眩しすぎたのだ。
「兄貴、もしも……もしも、だけどさ」
躊躇いながらも、心にうっすらと浮かび上がっている正体を、口に出してみようとヒロキは思う。理性では、言うべきかは迷っていたが、理性よりも感情が勝っているのかもしれない。
「もしも、僕が兄貴の敵だったら……いや、敵じゃなくても、僕が兄貴の対戦相手なら、僕がマックスハートを抜けて、僕のチームで優勝を目指したい……って言ったらどうする?」
そのヒロキの言葉に、何かを感じたのか、ワタルは真っ直ぐにヒロキの眼を見た。
「ヒロキ……? ……もしも、お前がそういう事を言ったなら、リーダーとして、お前の兄貴分として、応援してやるさ!」
「ありがとう……兄貴」
ワタルとヒロキの会話はそこで終わる。数分の沈黙の後、リング整備が終わり、黒子から中堅戦の合図がされる。
「ふぅ……かなっぺに結衣、それにトーコも戻ってこねぇか。……ヒロキ!」
「えっ……!?」
「お前が何を考え、どうしたいのかはわからない。でも男なら自分の信じた道を進めば良い。その答えが正解なのか間違いなのかは問題じゃねぇ、本当の問題は全力でやってその答えに満足できたのか、だ」
「兄貴……」
「オレサマは進むぜ、何があろうとな。それがオレサマ響ワタル様だ!」
中堅戦始まりの為、いつもの赤いハチマキに木刀を持って、リング中央へ向かっていく。
その背中には何が映っていたのだろうか。