突然の来訪者!
屋上へたどり着くと、相変わらずヒロキが昼飯の準備をしている。
ヒロキもワタルと同じく、適当なコンビニ弁当などが主な食事だ。ヒロキのオススメはデカストップというコンビニのデザート各種である。デカストップは有名な大手メーカーコンビニである。
「お前も甘いもん好きだよな」
「うん、唯一好きだと言えるものだね!」
ヒロキは満足そうにデザートを食べている。バニラのアイスにマンゴーが入っているパフェらしい。
「ちょっと、ヒロキ君!」
「は、はい?」
突然の、かなの登場に目を丸くするヒロキ。ワタルの方を見ると、ワタルは「なるようになれ」と目で合図をする。
今までの付き合い上から、その合図を一瞬で読み取り実行する。
「まだ、かなの料理も食べないでデザートとは早いんじゃないかな?」
「え、料理?」
「どうやら、かなっぺがオレサマ達の為に料理を作ってくれたらしい。しかも特製のスタミナ弁当らしいぞ」
かなは意気揚々とシートを敷き、弁当を並べ始める。
良い匂いがするとワタルとヒロキも中身を覗きはじめる。中身もなかなかの出来映えだ。
「へー、凄いな……人は見かけによらないってやつだ」
「兄貴、それは失礼だよ」
「そうか? 事実を言ったまでだぞ?」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く食べてみてほしいかな!」
かなに急かされるので、弁当の中身を口に運ぶ。スタミナ弁当というだけあって、料理のほとんどが「にんにく」を使用したものである。非常に食欲をそそる。
「……うまい」
「うん」
「おっ、おっ、おおぉ!?」
「うん、うんうん!!」
非常に好評である。あまりの美味しさに二人で取り合いをするほどだった。
「うわっ、こんなに好評とは思わなかったかな……」
「いや、めっちゃうまいぞ!!」
「凄いね、かなさん!」
「えへへ、かなにまっかせなっさーい!」
かなは一人で自慢げに胸を張る。ワタルとヒロキは、そんな事にも目もくれずに弁当を全滅させる。
わずか5分で全ての弁当を完食する。きれいさっぱり、とはこの事だ。
「いやぁ、マジでうまかったぞ!」
「まぁ……ちょっと気合入れて作ったからね」
かなは照れ笑いを浮かべる。
料理が少し多かった為か、ワタルとヒロキはしばらく休憩をする。
「しばらく動かないの?」
「あぁ、休憩する」
「じゃあ、ちょっと教室に行ってくるね」
「がんばれよーい」
ワタルはやる気なく手を振る。ヒロキを見るといつの間にか熟睡していた。
そんな二人と一旦別れて、かなは自分の教室がある1Fへと移動した。
――かなが、1Fへと降りてくると、校舎内は騒がしかった。
廊下の向こう側を見ると、なぜか人が集まっている。
「何かあったの?」
「あ、相沢さん」
かなは、近くにいる友達に事情を聞く。
どうやら同じクラスに在校している不良生徒が顔を出してきたらしい。
「不良……二之宮さんね……」
三年B組在校の不良、二之宮小次郎。年齢自体は十九歳で、かな達の一つ上にあたる。
つまりはダブりである。七月現在までの出席日数の関係で今年も留年だろうと言われている。
かなは、人が集まる場所へと走る。
「てめぇ、何を見てやがんだ!」
「い、いや、僕はなにも……」
「あぁ!」
「うわっ……!?」
不良、二之宮は近場にいた気に入らない生徒を一方的に殴りつける。
その光景に近くにいた生徒は道をあけていく。その場にいた全員、恐怖の目で二之宮を見ている。
髪の毛は長く後ろで結んでいる。背も高く体つきも良い、それにギラギラした目つきが、生徒にとってはさらに恐怖心を煽った。
「へっ……、それで良いんだよ!」
「ちょっと、二之宮さん!」
わがもの顔で廊下を歩く二之宮の前に、かなが立つ。
自分を邪魔する奴がいるとは思わず、二之宮は少し呆気にとられる。
「んだぁ、てめぇ!」
「突然やってきて、他の生徒を怖がらせないでほしいんだけど!」
「あぁ? 何をざけた事を言ってやがるっ」
「迷惑かけるなら帰れって言ってるの!」
悪態をつく二之宮に、かなは一歩も引かない。
大変な事が起きないかと、見守る生徒達。その場に緊張が走る。張りつめた空気に見ている生徒は誰も動けないでいる。
「俺は女だろうが、容赦はしねぇぞ!」
拳を振り下ろす二之宮。言葉通り、その拳の勢いに容赦はない。
が、容易に拳をかわす。かなにとっては喧嘩の拳ぐらい避けるのは簡単な事である。
「……!?」
「暴力はいけないんじゃないかな?」
「てめぇ……」
身長差は10cmはあるか、それ以上か。二之宮はかなを悠然と見下ろす。
かなも臆する事もなく、二之宮を見上げる。
「……ふんっ、かっこつけると痛い目をみるぜ」
「それは二之宮さんも、一緒じゃないかな?」
「けっ……!」
根負けしたのか、二之宮は来た道を帰っていく。置き土産のように、帰りながら唾をはいていく。
ようやくいなくなった二之宮に、生徒達は安心した表情を浮かべた。
「ふー、恐かったぁ……」
かなも、安堵する。二之宮はただの不良ではない。対峙した瞬間に感じた。
周りの生徒もそんな、かなの姿を見てざわつきだしている。
(やばっ、少し目立ちすぎたかな……?)
あまり目立っても困るので、かなは屋上へと戻っていく。
――かなが戻ると、ワタルも休憩が終わったのか軽く体を動かしている。
「おう、かなっぺ!」
「その『かなっぺ』ってなに?」
「知らないのか? あだ名っていうんだぜ」
「そんな事知ってるって!」
ワタルはいつの間にかに、かなに「かなっぺ」というあだ名をつけていた。
「まぁ……良いけどさ」
「ところで下の方が騒がしかったけど、何かあったのか?」
「ちょっとね、野暮な事かな」
「ふーん、まぁ良いさ」
あまり乗り気じゃないように見えた為か、ワタルは深くは聞き入らなかった。
そんなワタルの態度に、内心良かったと思う、かな。ワタルはその辺に関してさっぱりしてる。
「さって、今日は早く学校も終わってるわけだし……」
「だし?」
「マックスハートの練習試合といきますか!!」
「練習試合?」
一人で熱が入るワタル。何をするのかと、かなは興味津々である。
まだ寝ているヒロキを起こす。ワタルの起こし方はいきなり顔面ビンタだ。
「ヒロキ、起きろ!」
「んあ、兄貴? 痛いよ……」
「シャキっとしろ! 練習試合やるぞ!」
練習試合とはなんなのか。かなはそれだけが楽しみだった。
逆に寝起きが悪いのか、ヒロキはあまり乗り気ではない表情をしている。
「昨日の公園で良いな、今日はヒロキと、かなっぺで戦ってみるか!」
「……って、えええぇぇ!?」
「なんだ、練習試合ってそのまま戦うのね」
全く余裕のないヒロキに対して、涼しい顔のかな。
昨夜の考え事は一瞬で現実のものになってしまった。