本当の意志は!
人里離れた豪華な彩りの、館内にそれはあった。豪華な外装とは裏腹に、まるで剣道の道場のような内装、所々がよく使い込まれておりお世辞にも、綺麗だとはいえない作りである。
「ふむ……想像以上だな、君の実力は……。どれ、ヒロキ君。今度はこれだけの数のターゲットを見事かいくぐる事ができるかな?」
その道場にいたのは、ヒロキと謎の老紳士だ。老紳士はリモコンで操作し、数十個にもなるターゲットとなるであろう筒状の物を、ヒロキに放つ。まるでバッティングマシーンのような形状の機械から放たれる、無数の筒の速度はかろうじて目で追うのがやっとの速さである。
「さぁ、ヒロキ君。この弾幕をかいくぐり、ワシが持つこのリモコンを見事、はたき落としてみせてくれ!」
ヒロキは手に持つ木刀を構え、低い姿勢で老紳士を目指す。この時に特筆すべき事は、ヒロキの動きとその速度である。かつての面影がない程の身のこなしと速度で、筒状の物を避け、あるいは木刀で迎撃していく。それでいて前進していくスピードは全く変わる事がなく、余裕の表情で全てを捌いていく。
そしてあっという間に、老紳士の持つリモコンをはたき落とす事に成功する。
「なんと……!? 最大レベルの魔力式強化マシーンを難なくクリアするとは……」
「はぁ……、でも本当に強くなったんですか、これで?」
「馬鹿を言ってはいけないよ、ヒロキ君。今の君のレベルはあの少年と互角か、あるいはそれ以上のものになっているのじゃぞ。当初の予定はきっちり一週間で強化するつもりじゃったが、今日は七月二十七日で五日間の強化で全ての修行を終えている、まだ二日残してこれは凄い事じゃよ、ヒロキ君」
「そうなんですか、今の状態で兄貴と互角か、それ以上? とても実感が湧かないんですけど……それにここに来てからの五日間、基礎的な体力測定や、今みたいなバッティングマシーンのような物を使った修行しかやっていませんでしたよ?」
老紳士は滑稽だというように、一人で笑っている。
「魔法を使ったからな。通常のトレーニングで同じ事をしても、実力が上がる事はせんよ。それにワシは魔法を使ったが、キッカケを与えたにすぎん。そこから強くなるのには一種の才能が必要なのじゃ。才能の無い者はいつまで経っても弱い。クズ同然じゃよ……それに引き替え君は、才能の塊じゃよ、君は……ワシの最高傑作じゃ!」
「……僕にはその魔法っていうのがわかりません。この現代において魔法とかって架空の設定で……」
老紳士はヒロキの言葉を遮るように、自分の言葉を言う。
「魔法はっ、庶民共が知り得ないだけで、この世界は魔法で満ちあふれておる。魔法が架空の設定? いやいやそれは違う、魔法は、実在するのじゃよ」
不思議な目つきでヒロキを見る老紳士。何かに誘われるような錯覚を覚え、それを振り払うように目線を離す。
「ふむ、信じられないか。では身近な所でいくつか教えておいてやろう。まずは君のチームメイトの一人が魔法を使っているな」
ヒロキは自身の記憶を遡り、思い当たるフシがある事に気が付く。
「そしてヒロキ君のご両親、君がどうしてそこまでの潜在能力を持っていたのかが、わかるな」
「父さんと母さんが!? ……一体貴方は何なんです?」
「ヌフフフ……ワシはアバター。但し言えるのはこれだけじゃ。この世には数人のアバターがおる、そしてワシはその数人の中の一人じゃよ。但しワシはその中でも嫌われ者のアバターじゃがな」
「……アバター……。わかりましたアバターさん。修行をしていただいた事には素直に礼を言わせていただきます。ですが僕とアバターさんはこれ以上関わる事はありません。身勝手かもしれないですけど……」
老紳士から感じ取れる不思議な雰囲気。その雰囲気の正体はわからないが、嫌な感覚がヒロキを支配している。その感覚にめずらしくヒロキが他人に対して、敵意の目を向けている。
「構わんよ。君がそうしたいのならワシは構わん。だが君の感覚はワシを求める。下界に下りて戦い続ければ、嫌でも思い出す。君は一体何の為に強くなりたかったのだ!? ……ワシは君の為にあと数日は待つ事にしよう。だがこの機会を逃せば次にワシがここへ来るのは何年か先じゃ。わかっておるな、ヒロキ君?」
「……ありがとうございました」
軽く一礼をして、ヒロキはその部屋から、その館から出て行く。目指すはヒロキを待つマックスハートメンバーの元だ。
「来るよ、君は。君の本当の願いはあの少年と優勝を目指す事だったのかね? それは違う。君にとってあの少年は『超えるべき壁』だったはずじゃ。その感情はいつしか少年への『憧れ』へと変わっていった。わずか五日間の付き合いじゃったが、ワシにはわかるのじゃよ。君はワシと似ている……君は……再び明確な意志を持ってワシの前に現れるじゃろう。絶対にな」
――七月二十七日。ディーパーディーパー戦から二日後。
ワタル達、マックスハートメンバーは、大会本部からの連絡がいまだに無いという事で、息抜きにピクニックをしていた。場所は相変わらず、学校の屋上である。
「さぁ、どんどん食べてほしいかな!」
シートの上に、かなの作った色とりどりの弁当が並ぶ。
「……相沢さん、凄い」
「おぉ、さすがだな、かなっぺ! これなら良い嫁さんになるぞ!」
「良い嫁さん? もらってくれるかな、ワタル君?」
「いや、それはない。浮気したらその蹴りで殺されそうだから」
他愛の無い話と、笑い声がその場に響く。天気もおおむね良好である。
すると、誰かが急ぎ足で階段を上ってくる音がする。その場にいた三人は一体誰が来るのだろうと、出入り口を見ている。そして見知った顔が姿を現した。
「やっぱりここにいた」
「ヒロキ!?」
そうそこにいたのは、ヒロキだった。食事を中断して、三人はヒロキの元へと集まる。
「帰ってきたよ、兄貴!」
「一週間って聞いてたけど、早かったんじゃねぇか? それにしてもどことなく変わったな。五日間で一体何をしたんだ?」
「うんうん、見るからに強くなったって感じかな」
「……ん?」
思うままに言葉を投げかけるワタルとかなに対して、桐華はヒロキに何かを感じ取っていた。
「とりあえず三回戦は突破したぜ。次からはパワーアップしたニューヒロキを見せてくれよな!」
「ニューヒロキだなんて、それに僕自身も本当に強くなったのか実感わかないんだよ……」
「でもどこかが変わったぜ? どこがとは明確に言い難いけど、強くなった感じがする。……強いて言うなら感覚が」
「……感覚……。そうだ、試合に備えて色々と準備しないと、僕はこれで帰るよ」
思い出したかのように、足早に帰っていくヒロキ。
「あ、おい、弁当は食べていかないのか? めちゃくちゃウマイぞ!」
「ごめんね!」
来た時と同じような、階段の音をたてながら、ヒロキは下りていく。
「……ワタル。ちょっと待ってて」
「ん、どうしたんだよ、トーコ!?」
桐華はヒロキの後を追うように、階段を下りていく。
「一体なんだってんだ?」
「さぁ?」
途中から走るのをやめたのか、桐華はヒロキにすぐ追いついた。
「……川崎君!」
「ん、桜井さん。どうしたんですか?」
「……川崎君。一体誰に教わったの? 貴方に残る微かな力が見える」
「やっぱり、桜井さんにはわかったんですね? 僕を教えてくれた人は魔法を使ったって言ってました。それって桜井さんの魔法銃と同じですよね? そしてその人はアバターって言ってました」
「……アバター。何のアバターかは言ってなかったの?」
「何のアバター? いえ、ただアバターとしか言ってなかったです」
「……川崎君。私の魔法銃もアバターが作ってくれた。名前はマジックアバター。……そしてその人から聞いた事があるの、アバターは常に人間に味方をするけど、中には魔法を悪い事に悪用するアバターもいるって。そしてそういうアバターの大半は自分の名を名乗らないって……」
「……!?」
「……川崎君。精神を強く保って、それがアバターの魔法に対抗する手段だから」
「ありがとう……」
ヒロキは残る階段を下りる。桐華はヒロキをただ見ている事しかできなかったのだ。