表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAX HEART!  作者: ユウ
――リトルウォーズ開幕編!
4/58

三人の気持ち!

挿絵(By みてみん)

 ――七月十一日。夜の事。

 ――ワタルは日課の筋肉トレーニングをしていた。

「ふんっ……ふんっ……!!」

 腕立て100回、腹筋100回、背筋100回、スクワット200回、ランニング10KM、そして木刀の素振りが1000回がワタルの日課である。

 勿論、これはあくまでノルマとして設定した内容であり、もっと回数をこなす時もある。

 やっと念願のリトルウォーズに参加できるとあって気合が入りすぎ、結局はノルマ+100回、ランニング5KM、素振り1000回をやってしまっていた。

 それでも気が済まないのか、最後のストレッチも念入りにやる。

「よっしゃっ!!」

 ワタルは自分の頬を思い切り叩く。弾けるような良い音がする

 気合一閃、ワタルは汗を流すべく風呂に向かう。あっという間に素っ裸になり適当に体を洗う。

 湯船にダイブすると一人、意気揚々と鼻歌を歌い出す。

「オレサマたちゃーマックスハートぉーゆうしょうゆうしょうゆうしょうだー!」

 あまりの下手さだった。



 ――ヒロキの家。

 ヒロキもまたワタルに言われ、筋肉トレーニングをしていた。

 しかしヒロキの場合はワタルの半分の回数である。

「よんじゅう……きゅうっ……ごぉ……っじゅう!」

 腕立てを50回達成する。腕がふるえて自分の体を支えきれなくなる。

 床にすいこまれるようにヒロキは倒れた。

「はぁ……」

 軽い溜息をはき出すと同時にヒロキは数時間前の事を思い出す。

 ワタルと、かなの戦い。二人ともさすがというべきで動きが超人的だった。

「僕に……あんな戦いができるのかな……?」

 誰に問いかけたわけでもない。そんな言葉を言うヒロキ。

 もしも自分が相沢かなと戦っていたら――。

 勝てただろうか。答えはノーだ。自分で心強い味方になると言っていたのに、今となっては強すぎるメンバーの存在と弱い自分にコンプレックスを抱くようになっていた。

 ヒロキは誰よりも強くなりたい。だからその強さを持つワタルに惹かれ兄貴と慕うようになった。

 強い人の側にいれば自分も強くなれる。しかし結果は甘くなく、成長しない自分に対しさらに強くなるワタルに焦りと苛立ちを感じるのだった。

 根が真面目で素直だから、余計にあるがままを感じてしまう。

「くそっ……!」

 その苛立ちを床を思い切り殴る事で発散させる。

 拳に伝わる痛みに、発散させて良かったという気持ちと、やっぱりやめておけば良かったと思う気持ちが入り乱れていた。



 ――相沢かなの家。

「あら……かな、また自分でお弁当作ったの? お母さんが作ってあげるって言ってるのに」

「良いのっ、かなは料理大好きだもん!」

 エプロンをして、台所に立つ姿は「蹴り技の天才」という言葉が似合わない姿である。

 知らずに見れば立派に女の子の姿そのままだ。

「よし、下味はこんなもんで良いかな……お母さん、かなはもう寝るね!」

「はいはい、おやすみなさい」

「おやすみー!」

 母親に挨拶を済ませて、かなは自分の部屋に向かう。

 部屋にたどり着くと写真立ての前に、かなは立っていた。

 その写真には今よりも少し幼い、かな。その写真のかなは、今のようにショートではなく長い髪をポニーテールで束ねていて、とてもおしとやかそうである。

 そしてその写真には、かなともう一人の少女が写っている。

 逆にこの少女はショートヘアであり活発そうな女の子である。

「みな、今日はね、面白そうな人達に会ったんだよ!」

 かなは写真に向かって話しかける。

「……かなね、その人達とリトルウォーズに出ようって決めたんだ! だから……みな、応援よろしくね」

 いつもの元気な少女の顔がそこにはない。

 みな、というのは、相沢かなの実の妹である。みなは、かなの一つ下である。

 だが3年前に突然の事故により、この世を他界している。普通に生きていれば高校二年生だった少女。

「みな……がんばるからね」

 かなは写真を力一杯抱きしめる。



 ――七月十二日。

「兄貴、おはよー!」

「おうヒロキ、ちゃんとノルマこなしたか?」

「もちろんさ!」

「そうかそうか、オレサマはノルマ以上の事をやっちまって久々に筋肉痛だ……」

 体中が痛いのか、動きがぎこちないワタル。同じくヒロキも動きがぎこちない。

 ワタル程ではないにしても、筋肉の張るような痛さが少しあるのだ。

「おっ、かなっぺだ」

「本当だ」

 少し前を、かなは友達と歩いている。こうして見ると本当に普通の女の子である。

「あれ兄貴、かなさん呼ばないの?」

「んー……、いやいい。人には人の空間ってのがあるもんだ」

 ワタルはかっこつけた言葉を言い放ち、歩いていく。

 そんな意外なワタルの言葉にヒロキは呆然としている。

「こらぁ! ヒロキ置いてくぞ、コノヤロー!」

「あ、待ってよ兄貴!」

 いつもの日常である。そんな日常が変わるまであと五日。

 あと五日でリトルウォーズの開幕である。


 この日は土曜日であり、学校も午前のみの半日授業である。

 授業も四時間で終了するとあって、生徒達もがんばって授業を受けている。

 ワタルもがんばってみようと決意するのだが、十分程して睡魔に負けて結局、四時間の授業は、八割寝ていた。

 そして、いつもの屋上に行こうと歩いていると、かなに声をかけられる。

「あ、響君」

「ワタルで良いよ」

「じゃあワタル君、今日のお昼ってどうするのかな?」

「どうするって、屋上行ってヒロキと雑談しながら適当に」

 その言葉を聞いて、かなは嬉しそうに鞄から弁当箱を取り出す。

「じゃーんじゃじゃーーん!!」

「うお!? なんだそれ?」

「かな特製のスタミナ弁当なのだ!」

「お前が作ったのか?」

「あったぼうよ、兄ちゃん!」

 昨日、蹴りで殺人未遂な事をされた為に、かな=料理という式を思いつかない。

 しかも弁当箱を包んでいる袋がまた可愛らしい柄なもので余計に思いつかない。

「すっげぇな、料理もできて蹴り技も……っ!?」

 言いかけた時に、かなはワタルの口を塞ぐ。

「それは言わない約束だったんじゃないかな?」

「そうだったな、悪い悪い」

 ワタルは本当に軽い平謝りをする。とりあえず反省はしているみたいなので、かなも手を放す。

「で、早く行こうよ!」

「どこに?」

「屋上に」

「誰と?」

「かなと」

「なんで?」

「仲間でしょ」

「……それもそうだな」

 変なやりとりの後、ワタルは納得する。

 ヒロキが来ないって事は、きっと昼飯の準備をしてくれているはずだ。相変わらずワタルの都合の良い解釈である。

 いなかったとしても屋上で待っていればヒロキは来るだろう、と判断してワタルとかなは、屋上へと歩いていく。


 歩いている最中、ちらほらと生徒からヒソヒソ話をされる。

 どうやらワタルとかなのツーショットがめずらしいという事。当然だ。

「お前、結構人気なんだな」

「え、そうなのかな?」

「そうだろ」

「そうかな」

 本人は人気があるとは思っていないようである。

 だが事実、相沢かなは可愛い。美人タイプか可愛いタイプかといわれれば、後者だろう。

 そんな可愛い女の子が殺人キックしてくるのだから、と思ったところでワタルは考えをやめる。

「何か想像してないかな?」

「いや、なんもしてない」

 変な殺気を感じた為に、ワタルは考えるのをやめた。どうやら直感も鋭いようだ。

「でも屋上って解放されてないでしょ、良いの入って?」

「オレサマは顔パスなんだよ」

「ってそんなの、あるわけないと思うけど!」

「屋上はオレサマの場所なの!」

 なんとなく納得してしまう。ワタルのオレサマ主義により本来は解放されていない屋上を開放した。

「納得はしたけど、ワタル君……不良の人とかに狙われない?」

「向かってくるなら返り討ちにすれば良い話だ」

 どうやら狙われているようである。だが、自分と互角にわたりあった人間という事であまり心配はしない。

「オレサマは暴力反対なんて言わねぇ、むしろ喧嘩上等だからな!」

「喧嘩バカそうだもんね」

「一度殴り合った方が人間って奴は良いんだよ、痛さを知れば怖さも知るだろ」

「ほー……」

 まともな言葉に少しだけ見直すかな。

 階段を上りながら喋り、程なくすると屋上へとたどり着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ