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MAX HEART!  作者: ユウ
――勝利を掴め、三回戦編!
36/58

ウォーターウォール!

「ちょっ、まっ……!」

 弾切れを起こし、そのリロード最中の純。勿論、リロード中は攻撃する手だてが無い。桐華はそんな純に対して、全くといって良い程、無感情、いやあるいは気持ちのこもりすぎたショットを放つ。

「うわっつ……!!」

 最大出力のガバメントのショットは、純の頬をかすめるようにして、通り過ぎていく。

「……次は、外さない。痛い目にあいたくなければ、ここで降参。どう?」

 無表情な桐華が、めずらしく不敵な笑みを浮かべながら言う。その表情は正に不敵。今まで攻められながらも、余裕というのが目に見えてわかる。

 予選三回戦にして、圧倒的な力の差を見せつける桐華に、会場の熱気も一気にヒートアップする。熱気の最大の原因とも思える、大歓声が会場を包み、その大音響が心地よく体を支配する。

「トッ、ウッ、カッ、L・O・V・E トッ、ウッ、カッ!」

 そんな心地よい大歓声の中で、異質な応援が聞こえてくる。桐華含め、マックスハートのメンバーは全員がその方向を見る。すると明らかにスポーツマン、という雰囲気ではない方々がいた。その歓声は明らかに、どうみても桐華一人に向けられている。

「……ぅげ……!」

 桐華らしくない声が漏れる。それ程、桐華にとっては悪い意味で衝撃だったのだ。

「ハッハッハッハ! トーコ、良かったじゃないか、ファンクラブなんて簡単にできるもんじゃねぇぞ!」

 ワタルはさも他人事、といった感じで、桐華をおちょくる。かなも笑いはしているものの、後が恐いと判断してか、目立たないように徹している。

「……ワタル」

「ははは……ん?」

「……後で覚悟」

 冷静に淡々と発したその言葉に、異常なまでの殺気がこもっていた。ワタルの笑いは一瞬で止まる。

 ――そうこうしている内に、純のリロードも終わり、試合の中には再び緊迫感が生まれていた。

「むかつくなぁ。人がやられている間に、アンタは大歓声かよ、気に入らねぇ!」

「……ふぅ、最も貴方みたいなスタイルでは、どんなに凄いプレイをしても歓声を受ける事は無いと思うけど」

「あぁ、そうだろうよ。でも俺は自分の快楽に対して素直でね、やっぱり女をいたぶるのは最高だよっ!」

 再び桐華に向けられるBB弾の雨。全く容赦なく、桐華に攻撃の全てを注ぐ。再び、攻撃する純。避ける桐華の構図になる。やはり一発の攻撃力に優れてはいるものの、圧倒的な手数を誇る純との戦いは、相手のガス欠を待つしか無くなってくる。

「……そう。性格さえどうにかすれば、貴方、結構かっこいいのにね」

「……えっ!?」

 この言葉のやり取りで、純の攻撃の手が一瞬だけだが止む。

 その隙を桐華は見逃す事なく、反撃を試みる。狙いは純ではなく、その手に持つMP7A4である。ただ桐華には、この口撃により純が隙を見せるという確信があったのだ。

「チィッ!?」

 ガバメントから放たれた水弾は見事に、純の持つマシンガンを狙い撃つ。大きく後方に吹き飛ばされた銃を拾いに、純は走るしかない。

「……計画通り」

 相変わらず無表情に言い放つ。言い換えるなら相変わらず極めて冷静。

「……この技はトリックワンみたいに、手軽じゃないから少しだけ困る。……第二の技、トリックツー」

 出た言葉は、第二の技と呼ばれたトリックツー。メンバーであるワタルとかなでさえ、知らない隠された芸術技(シークレットアート)。本人しか知らぬ、その技の存在を全員が固唾を呑んで見守る。純はいまだに、飛ばされた銃を取る為に走っている。その視線に桐華の姿はない。桐華はどこからか、ボトルケースらしき物を取り出す。そしてそれを空高く放り投げた。

「くそっ、よくも!」

 飛ばされた銃を取る事に成功した純は、そのまま桐華を狙い再び弾丸の雨を当てようと試みる。

「……残念だけど遅い。トリックツー、跳弾する水壁(ウォーターウォール)!」

 自身が投げたボトルを撃つ桐華。耐久性は脆いのか、そのボトルはあっさりと壊れ、ボトルの中に入っていた水が、一気に外へと弾けるように飛び出す。純の撃ち込んだBB弾は、その水の壁が威力を吸収する。

「……威力は抑えておく。でも当たると痛いから」

 威力調節でやや弱めに設定したガバメントで、自らが展開した水壁を撃つ。威力を弱めた事により、ハンドガンでできる限りの連射をする。それら全ての弾は純のBB弾と同じく、水壁に飲み込まれた。

「偉そうな事を言っておきながら、全然攻撃になってないじゃないか!」

「……貴方には見えないの? 水壁を跳弾する水弾の姿が」

「水壁を跳弾する水弾……だって!?」

 この間わずか数秒の出来事。ほんの一瞬の出来事なのだ。

 水の壁から放たれた水弾は、桐華が放った軌道とは、明らかに違う軌道で放たれていく。右に左に、上に下に、全ての弾が予想もつかない方角へと飛んでいく。

「う、う、うわああぁぁぁ!」

 その内の何発かが純に命中し、その場に悶絶したかのように倒れ込む。

「……ごめんね。水壁の中で跳弾する水弾は見えるんだけど、その後にどこに飛んでいくのかは、私でもわからないの」

 水壁となった全ての水が、地面に落ちる頃。それが先鋒戦の終わりを告げる合図になった。そして再び巻き起こる大歓声と、桐華ファンクラブの声援。特筆すべきは観客の歓声の色合いが、まるで戦いを見たというよりも、手品を見たかのような反応だった事だろう。

「うっ……ごほっ……、なんて事だよ、そんなあり得ない超常現象が存在するなんてよ……」

「……信じられないのも無理はない。でも、世の中には知られていないだけで沢山の、ありえない、が出回っているの」

「今のトリックもその中の一つだって?」

「……うん」

「そうか、なるほどな……。いや、そんな事はどうでもいい。ってか惚れたぜ……」

 純は走る激痛をこらえながら、出来る限りの笑顔を見せる。桐華もそれに呼応するように優しく微笑む。

「……ごめん。無理」

 糸切れた人形のように倒れ込んだ純を放っておき、桐華はマックスハートのメンバーの元へと戻る。

「やったな、トーコ!」

「さすがだね、桐華ちゃん!」

 勝利を祝福してくれる二人を見ながら、桐華は一人誰にも聞こえない声で叫ぶ。

「……本命は裏切れない」

 三回戦先鋒戦は桐華が第二の技、跳弾する水壁――ウォーターウォールで勝利をあげる。

 そして中堅戦、相沢かな対三木亮輔(みきりょうすけ)の戦いが幕を開ける。

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