みなの星蹴拳!
「――っは!?」
目を覚ましたかなは、ベッドに寝ていた。時差が生じているような感覚に襲われ、一体これは夢なのか、あるいは現実なのか、それすらもはっきりとしない。ただ一つの声でそれは確信へと変わる。
「お姉ちゃん、起きた!?」
自分の部屋の前で大声を上げている少女の声に目を覚ます。この大きな声はみなだと直感的にわかった。と、いう事はこの世界は夢なのだ。先ほどまで見ていたのは現実の過去であり、夢の夢。これは夢の世界のはずなのだ。本当の相沢みなはもうこの世にはいないのだから。
「みな……?」
「うん、入るよ」
みなはかなの部屋に入ってくる。思い出も夢も、見知ったみながそこにいる事に、かなは涙が出そうになる。そんな感情を抑えながらも、しっかりとみなを見る。
「どうしたの、みな?」
「…………うん。もうそろそろさ、お別れの時だから最後にお願いがあるの」
「えっ!?」
みなが放った言葉の意味がわからなかった。かなの夢の中のみなは、夢とは思えないぐらいに感情のこもった言葉を、かなに向けて言い放ったのだ。限りなく現実に近い夢の世界という考えが、かなの頭で真っ先にひらめいた言葉だった。
「ちょっと、お別れの時って……どういう?」
「ごめん。お姉ちゃん、この世界は自分の夢だと思ってるよね、きっと?」
「違う……の?」
「うん、夢に近い世界ってのは間違ってはいないね。ただこの世界は限りなく死後の世界に近いの。今のみなが、お姉ちゃんに会う為にはこうするしかなかったから」
今まで自分の夢だと思っていたものは、みなに連れてこられた限りなく死後の世界に近い世界。いきなりそんな事を言われて困惑すると思っていた頭は、思いの外透き通ったようにその事実を受け入れていた。まるでみなの考えが、直接かなの頭にリンクしているような感覚さえ覚えていた。
「みな……」
「実はっ、実はね、お姉ちゃんが戦いの世界に来るのは反対だったんだよ。お姉ちゃんにはそういう事をしてほしくなかったから……ずっと優しいままのお姉ちゃんでいてほしかったから……。でもお姉ちゃん、悔しかったんでしょ? 悔しくてしょうがなかったんでしょ? だから……」
「……みな。それで天国から降りて来ちゃったっていうのかな? みならしいけど、かなは大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよっ!」
いつもとは違うみなの大声。元気の良い声ではなく怒っている。姉妹として一緒に暮らしてきたかなだったが、みながかなに対して怒りの声を放ったのは初めての事だった。かなはその声に驚く。
「お姉ちゃん、今のままじゃ絶対にまた負けるよ。お姉ちゃんは星蹴拳を覚えたみたいだけど、みなから言わせればまだまだだよ!」
「みな……。でも……どうしろって言うの!?」
「……ふっふーん。お姉ちゃん、みなが何の為にこの世界に引っ張ってきたと思う?」
「えっ……!?」
みなは相変わらずの悪戯な笑みを浮かべる。かなはそれに困惑の表情を浮かべる。
みなの残した星蹴拳。これをマスターする為に残された資料や、それに通じる格闘技を血の滲む努力で覚えてきた。自信過剰かもしれないが、当時のみなの星蹴拳を更にアレンジして改善し、オリジナルを超えた星蹴拳にしたつもりだった。
しかし悪戯なその表情とは裏腹に、みなには何かの秘策があるのだろうか。その口調は自信に満ちている。かなは自分には無い、この絶対的な自信の正体がわからないでいた。
「みなの星蹴拳! お姉ちゃんには体で覚えてもらうよ!」
みなは星蹴拳の構えをとる。冗談ではない顔つきが言葉を真実のものにしている。
「……お姉ちゃんには戦わないでほしかった……けど、今こうやってお姉ちゃんの意識に触れて、みなの考えも大きく変わったの。お姉ちゃんは言った『一緒にゴールしよう』って。……今度はみなから言わせてほしいの……お姉ちゃん、一緒にゴールしよう!」
みな一人の戦いだった。志半ばでこの世を去ったみなに継いで、実姉のかなが歩き始めた。そして二人はついに二人でゴールを目指し始めた。この戦いは一人でやっているものではない。二つの星蹴拳は今、一つになる。
「みな……手加減はしない、っていうよりもできないからね?」
「遠慮しなくて良いよーだ。みなはお姉ちゃんに負けないもん!」
「言ってくれちゃって!」
かなも星蹴拳の構えをとる。まるで鏡に合わせたような二つの構えがそこにあった。だがよく見ると二つの構えは少しだけ違う。かなの構えはやや上半身をやや後ろに傾けている。みなの構えは完全に前傾姿勢。言うなれば守護姿勢のかなと、攻撃姿勢のみなの構図だ。
「行くよ、お姉ちゃん」
「どこからでも良いよ」
そのやり取りを合図にみなは飛び出す。かなも同じく飛び出すが、元の姿勢が前傾姿勢のみなの動きが勝る。
「はっ!!」
かけ声と共に、走った勢いのままに強烈な後ろ回し蹴りを繰り出すみな。その後の事など全く考えていないような豪快な大振りを繰り出す。だがこの大振りはただの大振りじゃない。速度、キレが半端ではなく大振りで隙だらけの技なはずなのに、まるで小技のようなモーションである。
「……!?」
その回し蹴りをかわすが、あまりの技としての性能に息を呑む。大振りの隙を恐れるかなにとっては、全くやらない動きである。
「せいっ、やっ!」
その圧倒的なみなの技に見とれているわけにもいかず、かなも応戦していく。ロー、ミドル、とキックを小刻みに繰り出していく。その鋭くコンパクトな攻撃に、みなもただ避けるしかない。避ける、といっても文字通りただ避けているわけではない。攻撃する機会を、勝つ為の手段を伺っているのだ。その勝利の執着心というオーラが、みなの体から湧いて出る。そのオーラに気圧されてか、かなの動きが一瞬止まってしまう。
「隙有り!!」
そのわずか一瞬の間を見逃さずに、再び豪快な蹴り技が空を切る。かなのコンパクトな蹴りとは対照的な蹴り。その迫力だけで人が倒せてしまいそうな勢いである。
かなはその蹴りを避けている内に、徐々に恐怖心を抱いていく。ここに自分自身の技と、みなの技に差があるのだと少しずつ実感してくる。あまりに丁寧にまとまりすぎているからこそ、そこに意外性というプレッシャーが無いのだ。
「…………」
「……ふふふ、どうやらお姉ちゃんも少しわかってきたみたいだね」
「かなは……星蹴拳をただ改悪しただけなの……?」
「違うよ。改悪なんてなってないよ。これも星蹴拳だからね」
「これも、星蹴拳?」
「そう、星蹴拳は型に囚われない自由な戦術。みなの星蹴拳みたいに攻撃的な戦い方もあれば、お姉ちゃんのように小さく戦う方法もある。それら全てをひっくるめて星蹴拳なの。……但し、お姉ちゃんの星蹴拳じゃあ最後の技は体得できないの」
かなは呆気にとられる。みなが残した資料の技に関しては全て目を通し、全てを体得したつもりだった。しかしみなの言葉で全てを体得していないという事実が露呈した。
「最後の、技……?」
「うん、最後の技。それが星蹴拳奥義の流星――」
みなはかなに最後の星蹴拳を伝える。