かなの星蹴拳!
ワタルとヒロキは、相沢かなと一旦別れていた。
相沢かなの言う「戦いによるテスト」これを行う為には、お互いに準備が必要だからだ。
「兄貴……勝てる?」
「バーカ、そんなのやってみなけりゃわからないだろう」
相沢かなの、要望もあって人気のない広場での戦いになる。公園らしき広場だが、文字通り何もなく公園としては廃れていた。
しかし戦うにはこういう場所の方が絶好の場なのも確かである。
「イッチニィ、サンシッ!」
ワタルは一人、黙々と準備運動をしている。ヒロキは、そんなワタルを心配そうに見ている。
三十分程して、相沢かながやってきた。
「おっ待たせー!!」
相沢かなは、制服姿のまま現れる。鞄などの持ち物を置いてきただけのようにも見える。
「っておい、三十分も待たせておいて明るく登場するな! しかも準備ってお前何してきたんだよ?」
「乙女に時間は必要な事じゃないかな?」
「ふんっ、とっとと始めようぜ、暗くなってきたしな」
「そうだね!」
相沢かなは、蹴り技主体の為に武器は無し。ワタルは赤いハチマキを額に巻き付け自前の木刀を持つ。
軽くステップを踏む、相沢かな。その身のこなしは素人の目で見ても流麗である。
対するワタルはステップなどなく、気合を張る。この気合の入れ具合も素人目で見ても凄まじい。
「じゃあ、早速だけど時間もないし、行かせてもらうよ!」
「おう! どんどん来やがれ、ヒロキ合図してくれ!」
「わかった!」
ヒロキはポケットに入っていた十円玉を取り出す。
「この十円玉が地面に落ちたら開始だよ……行くよ!」
十円玉を空高く、指で弾く。この宙に舞うわずか一瞬の事。ワタルと、相沢かなの視線が交差する。
十円玉が地面に落ちた。試合開始だ。
開始と同時に相沢かなが動く。テストする、とは言っていたが実際のところは先手必勝である。
ワタルは我流の構え、ワタルいわく構えのない構え。つまりはこれも、無茶苦茶。
「すぅぅぅぅ……ッハ!」
静かに息を吸い、そして吐くと同時に蹴りを繰り出す。まずは小手調べの左ローキックである。
その蹴りが見えていたのか、ワタルは軽くバックステップし、キックをかわす。
「やるぅ!」
「へっ、見え見えだっての!」
小手調べとはいえ手抜きのない一撃だった。当たれば並の相手なら足の骨を折っていたかもしれない。それ程の一撃。
「なら……、これはどうかな!」
「むっ!?」
バックステップし、着地の硬直がある。その隙を相沢かなは見逃さない。
後退したワタルに対して槍の突きのような、鋭い蹴りを繰り出す。
(着地の硬直……普通は動けない、動けてもこのタイミングなら致命傷は避けられない!)
「ちぃっ!!」
相沢かなの思惑とは裏腹に、ワタルは持ち前の強靱な運動能力で左横に回転し、受け身をとる事でこの蹴りをかわす。
右足で蹴りを繰り出した相沢かなに対し、左横に受け身をとったワタルは相沢かなの背後をとる。
「もらったぜ!」
ワタルは女といえども容赦はしない。渾身の一撃を相沢かなの背中に当てようとする。
「……!」
が、ワタルの一撃を、後ろ回し蹴りのような形で防ぐ。
ワタルは木刀越しに、相沢かなの蹴りの一撃を受ける。この一撃のあまりの重さに「ここは危険だ」と直感がよぎる。
ガードしながら吹き飛ばされるような形で、相沢かなとの間を離す。
「攻めも守りも、足技かよ……さすが天才っての?」
「君こそ、運動神経が常人のそれを越えてないかな?」
まだお互いに息もあがっていない。そんな戦いにヒロキは目を奪われていた。
いつも一緒にいるワタルがこんなに動けるなんて、という感情が強い。一度も勝てた事がないとはいえヒロキはワタルとよく練習試合をする。
いつもワタルを見ていたからこそ、ワタルの強さを知っていたはずだった。
しかしそこにいるワタルは自分の知るワタルの強さのそれとは比べものにならないぐらい強い。
自分が兄貴と慕う人間の、新たな面を見て改めて凄いと思う気持ちと同時に、少しのショックがあった。
「さってと、先に攻められちまったわけだし今度はこっちから行かせてもらおうか!」
「どうぞ、ご自由に」
「余裕かましてられるのも今のうちだぞー」
ワタルはそれだけ言って、軽く前傾姿勢になる。前傾姿勢は攻撃姿勢だ。
相沢かなも、余裕をみせて「ご自由に」とは言ったが、ワタルの構えを見て顔を真剣にさせる。
「ほっ……!!」
ワタルも一息を吐くと同時に、相沢かなに向かっていく。
スピードだけなら相沢かなよりも早いと、ヒロキは感じた。
木刀を下から上にぶんまわす。力任せに振るう一撃は、そのままの通りぶんまわしている。
相沢かなは、小さくステップを踏んでかわす。これぐらい朝飯前だというような動きである。
「すぅ……ふっ!」
ワタルの攻撃のモーションが終わるよりも早く、反撃の左ミドルキックを繰り出す。
そのキックをさらに前傾姿勢になり避ける。前傾姿勢と言うよりも地面に張りついている。
そのまま、相沢かなの軸足の右足に向かい木刀を振るう。しかし片足でこの地面スレスレの一撃をさらに避ける。
(お前の運動神経もどういう神経だってのっ!)
(本当にやる……一撃一撃がきわどい!)
飛び上がりざま、ワタルを踏みつけようと着地をする。
その踏みつけも体が反応し、後ろに回転しかわした。
「やるね、君」
「お前もやるな、相沢かな!」
「君と戦ってると楽しいけど、心臓に悪いかな」
「それはオレサマも一緒だっての!」
ワタルも相沢かなも、うっすらと汗をかいてきた。最もワタルは夏の暑さから戦う前から、既に汗をかいていた。
しかし汗をかいているとはいえ、相沢かなにはどこか余裕がある。
「もう君が強いのはわかったよ、だからそろそろ終わりにしようかな」
「あぁ、そうしてほしい。俺もお前が強いのはわかったから早く仲間にしたい」
お互いに構えをとる。我流のワタルに対して、手はフリーにして右足を軸に左足でステップを踏む。
恐らくはどの蹴り技格闘技にも属さない格闘技なのか。
「じゃあ最後だから見せてあげよっかな!」
「何をだ?」
「かなの星蹴拳!」
「はっ……!?」
宣言と同時に突進する。そのスピードは今までのスピードの比ではない。
「これが星蹴拳! そしてこれが星蹴撃!」
走り慣性をつけながらの左足での踏み込み。普通ならただの簡単なショートジャンプといいたいところだが、その速さの慣性がついたショートジャンプは鋭利なジャンプへと早変わりした。
そして着地と同時に、例えるなら足の正拳づきのような一撃を繰り出した。
先ほどの槍の突きのような一撃が、まだ様子見だったのがわかるぐらいの威力だ。
「う、うおおおおおお!!」
自分の体にひたすら動けと命じたワタル。命中直前になってやっと反応するぐらいの早さで襲ってくる蹴り。
完全に避けきる事はできずに、木刀を盾にしながら受け流すような形になる。
なんとか相沢かなの星蹴撃をさばいた。その瞬間、ワタルの後方の地面が蹴りの衝撃波で吹き飛ぶ。
「なっ……!??」
「えぇ……!?」
現実的に考えればありえない現象がそこにあった。それを目撃してしまったワタルとヒロキは驚きに言葉を失う。
女の子の蹴りで地面が吹き飛ぶ、なんて漫画の中の話だと思っていた。二人は同じ事を考えていた。
「うっわ、よく避けたね!」
「いや、ちょっと待てぃ!!」
考えるよりも先に体が動いていた。相沢かなの元へ足早にかけよっていく。
「お前、あんなので殺す気か!?」
「大丈夫でしょ、君、結構頑丈そうだしね」
相沢かなは、明るく言い放つ。あまりの開きっぷりにさすがのワタルも、言葉を失う。
「まぁ……良いか。生きてたし」
「うむ!」
「しかし……白か」
ワタルは聞こえないように、ボソッと喋る。その言葉を相沢かなは、聞き逃さなかった。
「ちょっと、まさか見たの?」
相沢かなは、恥ずかしそうにスカートをおさえる。
「バッカ、短いスカートはいてあれだけ足をぶん回せば、目の前にいたオレサマに丸見えなのは当たり前だろ!」
「ムッキー!! 見たな、このH、変態、スケベ!!」
恥ずかしさと怒りで、相沢かなは顔を真っ赤にしてワタルに襲いかかった。
「大体、スカートはいて蹴り技やるんだったら『スパッツ』とか『見えてもいいやつ』とかはいとけってんだ、家に帰ったんだから準備できただろ、コノヤロー!!」
「うるさいうるさいうるさい! 覚悟しなさいよ!」
ワタルと相沢かなの、第二ラウンドが始まる。その様子を傍観するヒロキ。
心強い味方が増えたな、そう思っていた。
しばらくすると第二ラウンドが終了し、二人ともようやく落ちついたようだ。
「まぁ良いわ、その神経の図太さに強さ、あなた達となら参加しても良いかもね!」
「当たり前だ! オレサマは優勝を目指す男だぞ!」
こうして「相沢かな」が仲間に加わる。
メンバーが響ワタル、川崎ヒロキ、相沢かな、3人が揃い参加資格を得る。
「そういえば、まだ名前を聞いてないんだけど?」
「そうでしたね、僕は川崎ヒロキです、よろしく!」
「オレサマは響ワタルだ! その、おっぱいによっく刻んでおきやがれ!」
その直後、かなの鋭い蹴りが飛んでくる。それを紙一重で避けるワタル。
「下ネタ言うな!」
「はっはっは、エロい事は男のロマンだろうが!」
追いかけられるワタル。追いかける、かな。そしてその二人を追うヒロキ。
マックスハートはようやく全力で夢を追いかけられる状態になる。