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MAX HEART!  作者: ユウ
――カナトミナ編!
26/58

リフレクターバレット!

 放たれた水弾。それは、かなに向かうわけでもなく、地面に向かって真っ直ぐに飛んでいく。

「おいおい、水なんか地面に向けたら染みこんじゃうぞ!」

 咄嗟に言ったのは、ワタルだった。その場にいたヒロキも同じ考えをしている。どんなに勢いがあろうとも、威力があろうとも、大概は地面に染みこんでしまう。まして公園の土の地面ではなおさらである。

 しかし対峙している本人であるかなは、桐華が何の考えも無しにそんな行動をするはずがない、と、考えている。これはわずか十数分の戦いの事からの推測である。わずか十数分の出来事だが濃密な時間であり、戦う者にとってはこれだけで、お互いの事がある程度だが把握していた。

「っ……!?」

 そして放たれた水弾はついに地面へと激突する――そして弾は跳ねた(・・・)。

「……嘘!」

「マジか!!」

「ありえない……」

 桐華以外の三人の反応である。三人の反応も当然だろう。水が地面に染みこむ事もなく跳ねる。どう考えてもありえない出来事が三人の前で起きたのだ。

 そしてまさかの跳弾を避けきれずに、かなにヒットする。かなは避けきれないと判断し、咄嗟に後方へと飛びながら、持てる力を腕に込めて水弾をガードする。

「かっは……!」

 衝撃が体を突き抜ける。ガードした腕は痛さを通り越して麻痺している。何よりも衝撃は腕を通り超えて内蔵にまできていた。まるでボディーブローでも喰らったかの衝撃。そしてそのダメージはそのまま、かなの足を止めるのに十分すぎる一撃になる。

「……トリックワン。跳弾する弾(リフレクターバレット)

 これがトリックワンの正体。通常ではありえない水弾の跳弾。桐華の銃を扱う技量と、マジックアバターの作ったマジックガンが、融合して初めてできる究極技である。そして通常ではありえないからこそ、デザートイーグルを使わなかった。いざ戦ってみて桐華は、かなの強さを身に染みてわかっている。だからこそ使わなかったのだ。

「……今のがデザートイーグルなら……正直やばかっただろうね」

「ヒロキ……。そんなに、なのか?」

「うん。ガバメントの威力が、水鉄砲とはいえそっくりそのまま再現されている。だったらデザートイーグルの一撃も再現されていると判断してもいい」

 かなは決して体格に優れているわけでもない。防御力という観点で見てしまえば、一般の女の子と大差はない。だからこそ防御したとはいえ、悶絶するのは当たり前である。その証拠に、かなはまだ動かない。

 そんな動かない相手に対しても、桐華は極めて冷静に水弾を撃ち込む。大きなモーションで避けられないと判断したかなは、転がりながらも弾の軌道を読み一つ一つ丁寧に避けていく。ハイパワーに設定したガバメントの弾速では、今のかなですら捉えられないと判断した桐華は威力を落として、再び手数重視で押していく。かなは半死人も同然であり、桐華が勝つにはこのタイミングを逃すわけにはいかない。

 しかし、手数重視にしたにも関わらず、かなは全ての水弾を避けきっている。そこに華麗に避けるいつもの姿はなく、砂埃にまみれながら無様に転がり避ける。

(……さすが相沢さん。これだけ撃ち込んでも全部避けてる。でも……何でそこまでボロボロになるのですか? トリックワンがヒットした時点で降参しても、誰も咎めはしないというのに……何が貴方をそこまで『勝利の執念』を燃え上がらせるんですか?)

 埃まみれになり、無様に転がり続けても、桐華はそこに執念を見ていた。

 練習試合。仲間同士の試合。敵チームとの戦い。かなには変わらない勝利の執念がある。それは仲間である桐華に対しても同じ事である。

「……でも、私も負けられない。ワタルが見ているから」

 桐華は通常の弾の軌道に加え、トリックワンを含めたリフレクターバレットを軌道に加えて、かなを仕留めにかかる。

「兄貴……ちょっと止めた方が良いよ。二人ともかなり熱くなってるよ!」

 二人のただならぬ雰囲気に危険と悟ったヒロキ、は残り時間に関係なく試合を止める事を提案する。

「いや、あと三十秒だ」

「兄貴っ!」

「三十秒だ!」

 たかだか三十秒。しかしかなと桐華の戦いは三十秒あれば、致命傷になり、選手生命を失ってしまうレベルの戦いなのだ。現に二人の雰囲気は既に試合ではなく、ただ自分の勝利の執念のみの戦いになっている。

 そしてラスト五秒、最後に試合が動く。ガバメントから水弾が発射されなくなったのだ。

(……弾 (みず)切れ!?)

 わずか五秒。このチャンスをかなは見逃さなかった。今まで攻撃に転ずる事もしないで、ただ転がり回避し続けていた。全ては最後のチャンスを逃さない為に。全ては今できる最大攻撃を当てる為に。

「星蹴拳……!」

「……っ!?」

 ただ真っ直ぐに走るかな。その突進力はこの試合中で最速の動き。

 桐華は迷っている暇は無かった。いや迷うという事さえもしなかった。ただ反射的にもう一丁の魔法銃のデザートイーグルを向けて発射していた。

「――星蹴撃!!」

 凄まじい爆音にも似た号砲と共に、デザートイーグルから水弾が発射される。そしてその水弾と、星蹴撃は激突する。再び爆音が響く。デザートイーグルの弾は、かなの星蹴撃によってかき消される。しかし、かな自身も弾の威力により大きく後方へと吹き飛ばされる形になる。

「そこまでだ! 二人とも!」

 試合終了。たった十五分の試合だったが、そこで見ていたワタルとヒロキ。いや戦っていた二人こそが最も長い十五分を終えたのだろう。

「この勝負……引き分けだ」

 ワタルなりの配慮はしていた。ワタルの正直な感想は、終始桐華が安定したペースで試合をコントロールしていた。時間切れ引き分けであったものの、内容的には完全に桐華が押していたのは変わりない。

「……いいよ、ワタル君」

 静かに言い放ったのは、かなである。表情は読み取れないが、声色はどこか震えている。

「かなの負けだよ、桐華ちゃんの勝ちだよ。また修行のやり直しだね!」

 服の砂埃を払いながら、明るい声で言葉を発する。だがやはり、その表情はまった見えなく読めない。

「かな……?」

「ごめんっ。先に帰るね」

「おいっ!」

「ほら、結構汚れちゃったし……シャワー浴びたいから」

 有無を言わさずに、かなは足早に走っていってしまう。その背中をワタルとヒロキは見送っていた。

「……相沢さん。きっと今よりも強くなる」

「トーコ……? ……っふ。そうだな、でもな」

「……?」

「別に悪いって言うわけじゃねぇが、女の子が男を差し置いて熱血バトル漫画の展開にならないでくれ」

 白熱しすぎてしまい、後味の悪い練習試合になってしまったが、名目上は引き分け。そして事実上のかなの初敗北という形で練習試合は終わった。よく見ると桐華もかなりの汗をかいている。この暑さでは立っているだけでも汗をかく。あれだけ激しく動けば当然の結果である。

「トーコ。お前も家に帰ってゆっくり休めよ」

「……でも」

「大丈夫。オレサマとヒロキは適当にやってるさ、いつだってそうしてきた」

 アイコンタクトでヒロキに合図すると、大きく頷くヒロキ。

「……わかった。試合……というよりも、この暑さには気をつけて。熱中症になったら大変」

「あぁ、わかってる」

 数分の休憩後、桐華も一足早く家路につく。

「さってヒロキよ。次はオレサマ達の番だ!」

 暑い炎天下の中で、熱い赤いハチマキを額に巻き付ける。

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