かなと桐華の戦い!
ワタルの提案により、かなと桐華の戦いになった。かなは何故だか妙に好戦的になっているのに対して、先ほどの暑さの顔は見せずに再び無表情に極めて冷静に、準備を進める桐華。
「兄貴、何か考えがあっての事なの?」
「考え……って程の事じゃねぇが、かなっぺは好戦的になっている、だから戦わせて発散させた方が良いだろう。それにトーコに至っては登場したは良いが、ここまで一切の戦闘が無い。そろそろ戦わせておくのがベストタイミングだろう」
あまり大した考えではなかったが、ワタルなりの考えがあっての事だったのは確かだ。どっちにしても止める事はできないし、止める意味もないと判断したヒロキは、目の前で進んでいく光景を静かに見ている。ただ一つ心配なのは、かなの強さに対して桐華は戦えるのかという事だ。もしも、桐華の強さがヒロキ自身と同程度ならば桐華は一発でやられる。それだけならまだ良いが、大怪我をしてしまうかもしれない。女の子だからという理由だが、これはヒロキなりの配慮のつもりだった。
「よっし二人共、準備は良いな!? 試合時間は予選と同じく十五分な!」
準備が整ったと判断し、ワタルが大きな声を出して仕切り始める。かなは既に説明も不用な、足技である星蹴拳だろう。あるいは足技格闘技に値するどれか。桐華は先ほど見せてもらった通りだが、武器は銃である。エアガンやガスガンに該当するものだがカスタムガンであり、その実体はウォーターガンである。言ってしまえば水鉄砲だが、この銃の特筆すべき点はマジックアバターという自称魔法使いが作成した魔法銃であるという事だろう。
かなも、桐華も、お互いに準備は万全だという雰囲気を出す。それを感じ取ったワタルは試合開始の合図を出す。
「んじゃ、始め!」
ワタルの声と同時に試合開始。
桐華が銃であるという事は、かなは如何に桐華に接近して懐に入り込むか。それとは逆に桐華は如何にして、かなの接近を許さずに自分の距離を保っていられるかだ。かな自身もそれがわかっているのか、巧みなフットワークを使い、桐華に接近を試みる。桐華もその接近を予測してか、始まった瞬間から既に距離をとり、一丁の銃をかなに向ける。その銃は「M1911A1 ガバメント」である。
桐華はガバメントで、かなを狙い打つ。するとガバメントからは本物さながらの爆発した発砲音が響きわたる。まるで漫画に出てくるような気功弾のように、目にも止まらぬ速さで標的に向かっていく。これをかなは、当然の如く足技で対処にかかる。直進してくる水弾を迎撃するように前蹴りを放つ。
「っ……!?」
蹴りと水弾が当たると、かなの体が衝撃でブレた。
かな自身、この弾を避ける事など造作もない事である。しかし確かめたい事があったのだ。それは桐華の持つ銃の「威力」だ。中距離あるいは遠距離主体の相手と戦う際は、十中八九今のかなと桐華の構図になる。接近する際に確かめられる事の一つとして、相手の攻撃力――つまりは相手のストッピングパワーを知る事が必要になる。その結果として導き出された答え。
「受けてたら下手に体力の消耗しちゃうってわけね……」
やはり回避主体。相手はハンドガンであり、事実上の連射能力は無いとみて良い。どうしても避けられない弾だけを迎撃するという答えに至る。
一方の桐華は、弾幕として水弾をばらまく。先の先を読んで弾を回避するかなに、当てるのは非常にきびしいと桐華は思った。事実、かなは紙一重で避けてはいるものの、どこかに余力がある。ここで桐華はこのマジックガンの機能を使った作戦を使う。それは威力を落として弾数を増やすというもの。
「……セット完了」
恐らくは改良の際に、マジックアバターが取り付けたものだろう。威力調節用のダイヤルを最低にまで落とす。手に響くブローバックの衝撃と水の威力が弱められた事により、トリガーを引く速度が飛躍的に上昇する。だがそうする事で一つだけ問題点があった。威力が弱められた事により手数は上がる。現にかなは避けるのが精一杯になり、いよいよ迎撃にでる。
再び、水弾と蹴りが激突する。が、一回目の衝突とは違い、かなの体がブレる事がない。
「手数が増えたのはそういう理由ね……でも付け入る隙かな!」
威力を落とした桐華のガバメントは、痛くないといえば嘘になる威力である。しかし、かなは判断した。この程度のダメージならガードして一直線に進んだ方が早い、と。かなはめずらしく、手で弾をガードして突き進む。今まで一定の距離を保たれていたが、その間合いは試合開始から初めて大幅に縮まる。
「……くっ……!」
「せいっ!」
そのまま懐に飛び込むと、かなはローキックを繰り出す。逃げる相手にミドルやハイを当てる必要はない。それにこれまで接近を許さなかった桐華が、そんな大振りの隙を見逃すはずがない。機動力のある相手を落とすには「足」を止めさせる。
しかしそのローキックすらも間一髪で避けられる。再び、かなと桐華の差はふりだしに戻る。
桐華は決して、ワタルやかなのように、元々の運動能力で戦っているわけではなかった。全ては予測と頭の中で超回転している思考能力による先読みである。
「あれを避けるなんて桐華ちゃんやるねぇ。シチュエーションはちょっと違うけど、ワタル君と戦った時の事を思い出すかな」
「……スー……ハー……スー……ハー……」
身体能力と体力の面では、やはりかなが有利である。桐華は今までの攻防で息が上がっている。桐華にとってはこの間は体力の回復と、水切れ寸前のマガジンを代えるには絶好の機会である。新しいマガジンに代えると、ふともう一丁の銃――デザートイーグルが目につく。初弾をガバメントで撃った時の威力から、デザートイーグルだけは仲間に使うべきではないと考えていた桐華だが、かなの戦闘力を前にして、そんな事を言ってもいられない状況になる。
「……五十口径ハンドガン」
ガバメントよりも、正確には通常サイズの全てのハンドガンよりも、一回り以上の大きさを誇る大口径ハンドガン――いやハンドキャノンといった方が正しいのかもしれない。
通常サイズのハンドガンでさえ、威力はかなの蹴りとほぼ同等である。このハンドキャノンがもしも、かなに直撃したらと思うと、桐華のデザートイーグルを持つ手は震え出す。
「残り時間五分だぞぉ!」
ふと、戦いに集中しすぎていたあまり試合時間の事を、かなも桐華もすっかり忘れていた。
「ようし、時間も無い事だしね。桐華ちゃんラストスパート!」
かなは、やはり余裕のある声で、再び前進を開始する。桐華もその前進を妨げるように、ガバメントで弾幕を形成する。だがコツを掴んだのか、あるいは集中力が更に高まったのか、弾幕重視の戦いでさえ、かなの前進を少しでも止められなくなっていた。
桐華は思う、かなの凄い所は蹴り技でも、身体能力でもなく、わずか短時間の攻防で相手の攻め方を理解してしまう「学習能力の高さ」なのだと。
完全に水弾は当たらなくなる。そして懐を捉えたかなは、桐華の足を狙う。これも先読みでなんとか避けきる。しかし避け方は初撃よりも危うい。恐らくは次の一撃で完全に捉えるだろう。
「……覚悟を決めて、桐華」
自分で自分に言葉をかける。練習試合故にある程度の手抜きは簡単だった。だが、それは桐華自身が許さなかった。何よりもワタルがそれを許すはずがない。
(……マックスハートは全力の心だ。全力でやれば……)
「……できない事はないっ!」
桐華は距離をとる事を止め、その場に立ち止まる。ガバメントの威力を最大に上げて、かなに対して狙いを定める。かなも、桐華の気迫を感じ取り立ち止まり、そして距離を少しだけ離す。
「……相沢さん、威力を最大まで上げました。避けてください、相沢さんなら避けられるはずです」
「な、何を……?」
桐華は照準を、かなから少し手前の地面へと向ける。
「……トリックワン!」
ガバメントの銃口から、最大威力に調整された水弾が放たれた。