カウンターソード!
――静寂。
――そして、怒濤の歓声が巻き起こる。
まるで、一回戦目の再現。落星撃の時とはまた違ったインパクトを残す。わずか三秒足らずの電撃試合に見ていた人間全てがその偉業に歓声を送る。
ブルースの田中と室田も、まさか鈴木がこんなに呆気なく倒されるとは思いもしなかったのか、ただ呆然と敗北という事実の前に立っている。
「あれは……凶器だな」
「うん、そうだね」
うっすらと、いや、明確に何が起こったのかわかるワタルとヒロキは、その事実に相手の事を同情していた。
「かなっぺ。あれは……セコいんじゃ……?」
戻ってきたかなに、思った事を口にしていた。
「え、何が?」
「いやだって……なぁ?」
かなの返答に困り、ヒロキに目を合わせる。ヒロキも返答に困り、目を合わせないようにしている。念の為に桐華にも助けを求めるが、相変わらずの無表情で助け船も意味がなかった。
「兄貴、リーダーは中央に集まらないと!」
ヒロキからの助け船があった。結局はうやむやになったまま、黒子と田中が待つバトルリング中央へと向かう。
「ぬぅ……」
ブルースのリーダー田中が、納得いかない様子で低いうなり声をあげている。ワタルも気持ちがなんとなくわかり、居心地の悪さに早く終わらせたい思いだった。
「一体……」
「うん?」
「一体、鈴木はなんでやられたんだ? 過信しているわけじゃねぇが、うちの鈴木があんな簡単にやられるなんて納得がいかねぇぞ」
話すべきか、黙っているべきか、ワタルは一瞬迷ったが結局話す事にする。
「あれはな……男の深層心理をついた巧みすぎるセコ技なんだ」
「セコ技だと?」
「あぁ、スカートはいた女の子が、あんなに足を上げたら目の前にいた奴は何が見える?」
「…………むっ!!」
「わかったようだな。そういう事だ、あとで色でも聞いてやってくれ」
それだけ言ってワタルは、その場を離れる。呆気ないといえばそれまでだが、とりあえず二回戦を突破できたのだ。次の三回戦はディーパーディーパー戦となる。
一回戦のリバティーズ。二回戦のブルース。この二チームとも予想以上の強さはあったものの、前評判だけをとると、ディーパーディーパーの強さは圧倒的に上回るだろう。三回戦にいくまでの期間で、どれだけの戦力アップができるかに勝敗は分かれるといっても過言ではないだろう。
マックスハート陣地へと戻ると、仲間がワタルを迎え入れる。
「ま、何にしても次の相手は強敵で間違い無しだぜ!」
「……ディーパーディーパー。個々の能力は前大会出場時よりも上がってる。今の私達と同じくらいか、あるいは上か、それぐらいの力を持ってる」
現在のマックスハートと、ディーパーディーパーの戦力を的確に言い放つ桐華。あまりの分析ぶりに全員が目を点にしている。
「……と思う」
みんなの視線が痛くなったのか「と思う」と付け足す。
「と、とりあえずだ。トーコの言う通り相手は強い事は確かだ、きっちり練習して強くならねぇとな」
みんなが頷く。三回戦までの宿題は「各々のレベルアップ」であり、今以上に強くならなければならない。ワタルは「打倒速水」に向けて動こうと目標を決めていた。
「んでだ。合宿ってわけじゃねぇが、マックスハート内で練習試合でもやらねぇか?」
「……練習試合?」
桐華が聞いてくる。ヒロキとかなは、既に察しがついているのか、了解したと言わんばかりの表情でワタルを見ている。
「まぁ、つまりはチーム内でバトルする。いわゆる組み手とかってやつだな」
「……ふむ」
「僕と兄貴は暇があればやってるね、いつも僕がやられてばかりだけどね……」
「前にかなとヒロキ君とでやったよね」
桐華はとりあえず納得した様子である。ヒロキとかなも、それなりに乗り気らしく、ワタルもつられてモチベーションが上がっていく。
「よっしゃ! じゃあ明日なんてどうだ?」
「……明日は無理」
「なんでだ、トーコ?」
「……だから私にはまだ武器が無いもの」
「じゃあいつなら良いんだ?」
ワタルの問いに少し考えた結果、明後日なら大丈夫、という結果になる。よってマックスハート内公認練習試合は七月二十三日に行われる事になった。一日だけの休養、その一日が終わったら熱い夏の日々が再び始まる。
――ワタル達は、それぞれの帰路につく。
――同日。予選第一会場。
ワタル達の試合が行われた予選第二会場から、場所を移したこの場所でFエンゼルとミラクルハイの試合が行われていた。
試合内容は先鋒の池が、相手の先鋒である火野から貫禄の勝利をあげる。火野の攻撃は、池にガッチリとブロックされ、自分のプレーをさせてもらえずに火野の完敗。続く中堅戦の速水仁と三坂の試合は、速水のボイコットによりFエンゼルの不戦敗で終わる。
後々に三崎達が問いただしたところ「あの場に殺れる相手がいたのか?」との事。
一対一で向かえた大将戦――天才三崎と花坂と一戦である。試合開始わずか三分の光景で、見物人はその三崎の剣技に酔いしれていた。
「はぁはぁ……つ、強い。これがあの天才の剣か……」
「ありがとう。しかし君の剣もなかなかのものだよ、是非もう一度でも手合わせ願いたいね」
既に切羽詰まった表情の花坂に比べ、相変わらず冷ややかな表情と、爽やかな笑みを浮かべる三崎。炎天下の中にして汗もかかず、息も乱さずにただ試合をたんたんと進めている。
「くそっ、せめて一矢報いてやる!」
気合のかけ声と共に木刀を振りかざす、花坂は三崎に渾身の一撃を与えんと全力の攻撃に打って出る。
三崎は手に持つ木刀を腰に、鞘があるかの如くしまう素振りを見せる。勿論木刀の鞘などはない。まるで抜刀術でもするようなポーズでひたすら花坂の攻撃を待つ。
「うあああぁぁぁ!!」
花坂は攻撃の間合いに入ると、一撃を三崎に繰り出す。まさに三崎にその攻撃が当たると誰もが思った瞬間、花坂の木刀は一瞬の剣線により弾かれる。その剣速をその会場にいた者が、見切れたかどうかもわからない。それ程の瞬剣。
「三剣返技の一つ。涙流……超速の抜刀術、残像が出るぐらいの速度で打ち込む剣線なんだけど、ごめん見えなかったかな?」
嫌みとも取れる言葉だが、三崎がその台詞を言い終わると会場に大歓声が起きた。それと同時に試合終了。二対一にて、Fエンゼルが貫禄勝ちをする。
三崎への大歓声が降り注ぐ中、三崎はたった今負けて悔し涙を流す花坂を見る。
「君、二年だっけ?」
「……そうだ……。俺は負けたんだ、勝者が敗者にかける言葉なんてないはずだ!」
「……ふーん。あのさ、嫌みっぽくなっちゃったけど僕に涙流を見せたのにはワケがあるんだぜ?」
「む……?」
「君、良い剣を持ってるよ、だからこれはそのお礼。剣が好きなんだろ、お互いさ」
言うだけ言って、その場を後にする三崎。三崎が去ったその後も、会場には三崎コールが鳴りやまなかったという。